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3章 支店

45話 勇者の政策

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「麦にジャガイモ、それに畜産と色々進んだわね」


机の資料を見て私はご満悦です、あれから私は国の為に働いています、魔王を倒す?そんなことは後よ、まずは国を安定させなくちゃダメ、それに敵国に私たちだけで突撃するなんて、自殺行為以外ないわよね、行くなら大群で向かうわ。


「知力の勇者殿、手紙が用意できました・・・ですが、この内容でほんとに送るのですか?」


騎士の人が疑問みたいで聞いてきます、このやり取りは手紙を受け取った時もしました、お返しの手紙を書いたからもう一度って感じです、私はもちろんと頷き手紙を騎士に渡します、騎士は物を転送できるという転移魔道具の上に乗せ魔力を流しました、手紙は消えたので転送できたみたいですよ。


「有力なハイヒューマンが開く舞踏会に参加する、タイミングよく呼ばれたんだもの行かないと勿体ないわ」


オレンジジュースを飲みながら私は考えを口にします、相手は娘の誕生日を祝うという名目で人を招いています、でもほんとは私たちの国の情勢を調べる為に集まりです、次の奉納を増やすかどうかを考えているんだわ。


「こちらが少し余裕が出来たのを分かってるのかもしれない、これはどこかから情報が洩れているわ、食料はどこも足りてないもの」


この世界はどうしてか食料が作りにくいの、土や水に力がないみたいで育ちにくいのよ、だからどこも食糧難が続いています、私が作ったジャガイモだって出来はあまり良くないわ、でも加工すれば量が出来るから民衆に配る事が出来たのよ。


「てん菜を育てることに成功したからよかったけど、ジャガイモが作れなかったら危なかったわ、獣人から家畜が買えたのもラッキーだったわね、後はこの舞踏会に他の種族が参加するかかしら?」


こちらに手紙が来たということは、他の種族にも送られたはずです、騎士さんが言うには大抵は参加せずにお祝いの言葉を送るだけなんだそうです。


「その場合は食料を添えることになる、だから向こうは情勢が分かって問題はないって事よね・・・ハイヒューマンの有力者には接触したいし、今回は参加一択だけど、相手がどう来るかしらね」


舞踏会の参加準備をしながら私は考えていました、騎士さんの話では相当上から目線の種族らしいです、坂田君と小林君さんもいよいよ戦闘訓練を始めたわ、冒険がしたくて出て行ったあの二人は分からないけど、順調ではあるわね。
私も暇な時は訓練をします、でもそれはもしもの時の為です、こちらから行くのではなく向こうを招いて罠にはめようと思っているんですよ。


「どういう事かしら?話と違い過ぎない?」


1週間の準備を済ませ、お城の転移門を使っった私は、ハイヒューマンの屋敷に到着して驚いています、屋敷の広さが私の召喚された城並みとか、そんなことは些細な事じゃないの、青いドレスを着て向かっている先には、他の種族がたくさん見えるんですよ。


「エルフに獣人・・・種族を見る限り5組ずつはいるわ、どういう事よキキルー伯爵様」


私を護衛するという名目で着いてきたキキルー伯爵に聞きました、でもキキルー伯爵も分からない様で困惑しています、私は仕方ないと進んで会場に入りました、中はすごく豪華な広間で輝きが凄いです、さすがハイヒューマンって感じね。


「日本でも、上流階級はこんなところで会食とかしてるんでしょうね、ちょっと私も気分が良いわ」


ガラスのグラスを持って飲み物を口に入れます、味はそれほどでもなかったと、心の中だけで感想をのこします。
本題のハイヒューマンが司会者に名前を呼ばれて登場するのを待ちます、しばらくしてその人物は現れました、名前はエリック・フォルト侯爵です、長い金髪をカールさせた男性でとても美形です、右手にはまだ小さい少女が一緒に歩いています、侯爵様に似てとてもきれいな顔立ちですよ、キキルー伯爵の話では彼女の10歳の誕生会がこのパーティーだそうです。


「ワタシの娘ターシャを祝う為に良く集まってくれた、ワタシは嬉しく思うぞ、こんなにもたくさんの種族が来てくれるとは思わなかった、感謝の言葉を述べたい、ありがとう」


侯爵様が頭を下げてお礼を言った事で会場はざわついています、普通のハイヒューマンなら、お礼の言葉だけでパーティーは始まります、このパーティーが普通ではないと誰もが察知した瞬間でした。


「ワタシは娘が生まれて考え直した事がある、皆も知っての通り世界は食料が乏しく争いが絶えない、こんな世界をワタシは娘に見せなくないのだ、だからワタシの管轄している種族に手紙を送った、友好関係を築くには時間がかかるだろう、その第一歩とする為にこの場を借りたい、これからよろしく頼む」


簡素ながらも決意に満ちたスピーチでした、パーティーはそこから普通に始まり、侯爵様に挨拶をする列に私は並びます、人数はそれほどいないですけど時間はかかりました。


「お初にお目にかかります侯爵様、私は知力の勇者フブキと申します、どうぞよろしくお願いいたします」

「そうか、そなたが国を立て直したと聞く知力の勇者か、ワタシに出来る事があれば言ってくれ、出来るだけ協力する、よろしく頼む」


簡単に済んでほっとしていると、娘さんと目が合いました、何か言いたそうにして黙っています、なんでしょうね?とじっと見ると侯爵様がそれに気づいて言ってきたの。


「フブキ殿、娘はそなたの送ってくれたクッキーを気に入ってしまってね、また食べたいと思って見ているのだ、できれば次も送ってくれないかな」


ちょっとびっくりして私は頷きました、ターシャさんは私の返事を聞いて、すごく明るい笑顔を見せてくれたの、頭を撫でたい衝動を何とか抑えたわ、まさかジャガイモクッキーを気に入ってくれるとは思いませんでしたよ。


「まぁここの食事はそれほど良くないモノね、可能性はないわけじゃなかったかな」


食事が薄味よっと、感想を思っているわ、塩コショウしか味付けのされてない鶏肉に牛肉、それに薄いスープと種類は多いです、でもどれも大体同じ味なのよ、私は早々に飽きてしまって空腹にならない程度に留めていました、彼女もそんな毎日だったんでしょうね。


「ガレットがデザートとして置いてあるけど、砂糖が多く使われてるだけで美味しくなかったし、私のレーションクッキーが役に立ったわね」


顔を覚えてもらう為にレーションをプレゼントの中送ったけど、予想以上に食いつてきました、他の種族たちはあまり関心がないみたいだけど、顔色は良いので余裕がありそうよ。


「食糧難はハイヒューマン以外はどこも同じはずなのに、もしかして私たちみたいに確保出来てるのかしら」


位の高い人が参加しているここが基準では分からないかもしれません、余裕がある様に見えるだけかもしれないの、でも話をしている感じではそうは見えません、召喚されたばかりの城内はもっと暗い感じでした。


「できれば探りを入れたいわね」


誰かいないかと探すと、丁度バルコニーに出ていく一人のエルフさんが目にとまりました、彼女はパーティーに飽きた様子です、バルコニーの手すりに体を預けてため息をついています。


「はぁ~退屈、早く森に帰って食事がしたいわ」

「休憩ですか?」


タイミングが読んで私は突撃しました、エルフさんはちょっとも驚かないで私を見てきます、緑のドレスがとても綺麗です、スタイルもすらっとしてて流石と思ったわ。


「あなたもかしら?」

「はい、ちょっと息が詰まってしまって、皆さん他の種族と話さないのですね」

「そうね」


簡素に答えて話が伸びません、エルフさんはあまりお喋るが好きではないみたいです、私は何か話題がないか考えます。


「ここの食事どうでした?私は少し物足りなかったです」

「それはそうでしょ、塩は結構多めに使ってたけど、他はコショウだけだもの、あれじゃアタシたちが送った食材が生かせないわ、やっぱり味噌やソースが必要よ」


エルフさんは少し饒舌に話してくれました、最近作り始めているとか自分たちの事だと喋ってくれているの、私は内緒でガッツポーズを取りました、そして食材の事でいろいろ聞きましたよ。


「主食を麦から大豆に変えたんですか?」

「そうなの、やっと生産が安定してきたんだけど、トウフにするのが時間がかかってるわ、あれはね温めるととてもおいしいの」


大豆を加工する技術があるみたいです、醤油を今作っていると話してくれたわ、麦はハイヒューマンに送る為の物だけ栽培している状態らしいです。


「私たちと同じですね」

「そっちでも違うものを主食にし始めたのね、獣人たちも変えてるみたいだし、奇遇ね」


エルフさんにそうですねっと相づちを打って考えます、タイミングが合い過ぎです、なにか誰かの意図を感じますよ。


「なんにしても、自分たちで動かないと世界は変わらないわ、あの侯爵様もそれは分かってるみたいだし、神に祈るなんてしてちゃだめよ、あなたも頑張ってね」


最後にそんなことを言って会場に入っていきました、私は名前を聞きそびれたと思ったんですけど、キキルー伯爵が知っているだろうと、しばらくバルコニーで風に当たります。


「こうやっていると平和なんだけど、問題が山積み過ぎるわ、一つ一つ解決出来てるけど・・・失敗しないのが大前提で綱渡りなのは変わらないわ、生産が大きくなってきたから、起きるとしたらそろそろよね」


そんなフラグを口にして私も会場に入りました、そして事件が起きたのはそれから1週間後でした、侯爵様の娘様が誘拐されたんです。
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