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2章 宣伝

36話 式に向けて

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魔王城に戻った魔王様たち一行は、机が正方形に並べられた部屋で文官たちと顔を見合っていました、魔王様は上座で文官たちは順番に並んで座っています、そして秘書さんは魔王様の後ろに位置していて、少し不安そうな顔をしています。
文官たちの顔を見て魔王様は口を開きます。


「さて・・・集まってくれた皆の者良く聞くのじゃ、余はもう演技をするのを止める事にした、これからは本当の自分を表に出し魔王に君臨するのじゃ」


魔王様の話はそこから始まり、集まっていた文官たちは驚きを隠せません、今まで我儘を言っていたのが演技だったと知らされたからです、そして秘書さんは嬉しそうな反面困っています。
文官たちは質問します、どうしてそんなことをしていたのかと、そこで魔王様は自分の思いを打ち明けたんだ、年齢の低い自分より、兄である秘書さんが指示を出した方が上手く行くから黙っていたと話します、自分の名前だけを使って貰いお飾りでいたと告げました。
みんながそれを聞き少しまずい顔をします、今まで影でそういった陰口を話していたからです、それも全て魔王様は知っていると分かり焦ります、しかし魔王様は当然だと許してくれたんです。


「だが今後は許さん、言うなら正面から来るのじゃ、影で言うでないわ!」


魔族とは正面突破が生きざまだと宣言しみんなの心を開かせます、文官たちは魔王様を輝いた目で見始め、立ち上がり胸に手を当てて敬礼しました、秘書さんも同じで満面の笑みを浮かべたんです。


「うむ、頼むぞ皆の者・・・そこでじゃ、余に決意をさせた者に褒美を与えたいと思う、どうじゃな?」


文官たちは、何者ですかと質問する前に今の勢いのまま了承してしまいます、秘書さんはかなり嫌な顔に変わり見守るだけです、魔王様は了承を貰い笑顔で頷きます、でもその笑顔は黒いものだと秘書さんだけが分かっていました。


「直属部隊を増やしその者の補佐をさせるつもりじゃ、それと丁度先ほど空いた席があるじゃろ?そこにその者を付かせる、まぁ形だけになってしまうが、あいつよりはいいのじゃ」


魔王様は更に言います、その者たちの式典を城で行うことを話したんだ、3日後に開催するので用意が急ぐ様に告げます、文官たちはさすがに早いと忠告します、でも準備は会場作りだけだから出来ると魔王様は即答します、文官たちはその手際の良さに驚いてしまうんです。


「何を驚いておるのじゃ、これは既に決定し準備が出来ている事じゃ、そなたらも了承したじゃろう?」


文官たちは魔王様の笑顔を見て悟ります、今までの流れは全て計算されたもので誰も反論できない状況にあると、魔王様の笑顔がここで黒い物なのだと理解します、秘書さんが嫌そうな顔をしているのはそれが理由なんだと分かったんです。
褒美の対象が何者なのかと諦めムードで話は進み、そこで魔王様の笑顔がここ一番の輝きを放ち、秘書さんがより一層嫌な顔をしました、文官たちはその正反対の顔を見て悟ります、魔王様はその者に心惹かれている、そう思うに十分な笑顔だったんです。


「彼の名はシンジじゃ、余の本心を見抜き共に歩んでくれると誓ってくれた、本人は城にはこれぬから代わりの者が式に参加し直属部隊の隊長に任命する、皆もそのつもりでいるのじゃぞ」


魔王様はそう言って笑顔を絶やしません、でも文官たちは座るのも忘れて忠告します、本人が来ないで代わりの者が隊長では誰も賛成しないと、魔王様に対して無礼であると怒る者も出ると言っています、しかし魔王様はそれも計算済みだったんです。
ミャオサーの名前を伝えクラスを話します、そして兵士になるクロネオたちのクラスを宣言して最強であることを話したんです、これで文官たちの目は僕からミャオサーたちに向かい表には僕の名前は出ません、これがユニーシャの作戦でした。


「既にロイヤルハーピーのマリマリには協力を頼んでおるのじゃ、その者たちが主体になり魔王領では食糧難はなくなる、どうじゃな?まだ何か言いたいことはあるじゃろうかな」


魔王様は余裕で文官たちを見ます、脚と腕を組んで掛かって来い!と言わんばかりの大勢です、文官たちはそれを受け、やっと椅子に座ります、でも力尽きたような顔をする者と、今後に凄く期待をする者に分かれたんです、それを秘書さんは逃さずに確認しました、のちにその文官たちは席を開けられたあの人と徒党を組み血を見ることになりますが、それはもう少し後のお話です。


「無いようじゃな、それでは次の話じゃ・・・余はこっちの方が重要じゃと思っておる」


ここからは魔王様の独壇場です、機械族をビリムガロウウルフのファングたちが虐殺をしていた事を告げたんです、文官たちは驚きユニーシャを見ます、更にそれをミャオサーの息子のクロネオが力を貸し助けたと続けたんです、その加勢を貰い機械族がファングたちを打倒したと話を切ります。
直属部隊がそんな非道な真似をしていた事も問題ですが、それに打ち勝った機械族をこのままには出来ないんです、ユニーシャは、ファングに変わる直属部隊を任せるにふさわしいのは、誰でもない機械族のギャランだと勧めました、文官たちは何も言えず頷きます。


「うむ、丁度ミャオサーの式典もある事じゃし、一緒にしてしまうつもりじゃ、そこでファングの件も部隊長たちに話す、今後弱い者を食い物にするやり方は許さぬ!強い者はそういった者たちを助けるためにいるのじゃ、良いな」


文官たちはその言葉を心に刻みました、ユニーシャはそれを頷いて受け止め、式典で反対する者たちの対処も考えます、ギャランとミャオサーの力を見せる催しを用意し黙らせると話します、そして文官たちがユニーシャに感心していると、最後の案件に入りました、これはユニーシャにとって今まで話した物よりも重要な事です。


「最後になったのじゃが、シンジの所に行ったのは、余が料理を食べたかったからじゃ、じゃがシンジはあそこで食料の生産に忙しい身じゃ、余の都合ではどうこうできなかった、じゃから誰か料理の出来る者をシンジの所に向かわせ技術を学ばせる、出来るだけ優秀な者を選任してくれ」


ユニーシャが柔軟に対応できる者とか、女性はダメだとか色々付け足して条件を付けました、文官たちは料理法を聞いても分からず混乱しています、ユニーシャもそうなるのは分かっています、だから選任は困難だろうと自分の目で見定めると指示します、それで会議は終了し、文官たちが部屋を出ると秘書さんがユニーシャに声を掛けました。


「まったく、我が妹ながら末恐ろしいな」

「何を言ってるのじゃパランティ、これが本来の余なのじゃ・・・今までごめんねお兄ちゃん」


ユニーシャにお兄ちゃんと呼ばれ、パランティが顔を赤くしてテレます、ユニーシャは要望が通り易そうだとニヤニヤして料理人の話をします、魔王城にはそう言った者がいないので外で探すことになり、時間が予想よりも掛かるとがっかりするのは、それからちょっとしてからでした。
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