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2章 宣伝

22話 ごあいさつ

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「シンジ、どうして子供ばかりをここに集めたの?」


別大陸にトリ型モンスターを飛ばして1週間が経ちました、ミャオサーの報告では連れてきた人数が57人になったそうだよ。
その内子供は12人、その子たちは外の村で生活しています、森の西側に新たに作った村には、老人たちが生活してるんです。
もちろん生活してるだけじゃないよ、スライムたちの実験を手伝ってもらってます、タネスライムや野菜を畑に植えて育てる実験だね、成功したら外に輸出する予定なんだよ、収穫した作物(核)を袋詰めする仕事も頼んでいます。


「僕たちの目的はあいつの阻止だからね、信仰心の根付いてない子供たちには、こちらの教育を受けて貰うんだ、信仰心の強い大人と遠ざけるのが一番の狙いだよ、ついでに読み書きや算術、料理なんかが出来る様になればとも思ってる、上の村で仕事に就けるから戦力になるでしょ」


第1陣の子供たちは、それはもう痩せていたそうです、回復に日数が掛かってかなり危なかった子もいたんだ、やっと体調も良くなったから、僕と顔合わせをするんだよ。
本格的な事は明日からになるけど、ダンジョン内でお勉強と料理指導をしていくつもりなんだ。


「シンジはダンジョン学校って言ってたけど、どういう意味?」

「教育をする施設の事を学校って言うんだ、一時間毎に科目を分けてさ、午前と午後で年齢別の難易度にするんだよ」


5歳から10歳までの子たちが対象です、その人数を考え、7人の5歳から7歳を午前中、5人の8歳から10歳を午後に集中的に教育していくつもりだよ、もちろん一緒に来た子たちを引き離すことはしません、同じ部屋でお昼寝をしてもらう予定なんだ、将来的には全員で授業を受けてもらうよ、その方が安心するだろうからね。


「ワタシがシンジにした様にすれば早いよ、しないの?」


ミントの言ってるのは、最初のキスの事だと直ぐに分かり頭を左右に振ります、あれはミントと僕の間だから出来た事です、そこら変を説明し勉強は必要だと言い聞かせたよ。


「面倒なんだね」

「そうだね、生き物はそうやって学習するんだ、さて顔合わせに行くよ」


生き物だから学習で覚えたいと、ミントに遠回しに言います、分かってるか微妙だけどね。
そんな事をしていると画面が出現しミャオサーたちに連れられ、子供たちがダンジョンに入ってきました、今は料理屋を抜け長い通路を歩いています、その姿はどことなく怯えてる感じだよ。


「ミャオサーの話と違うね、村では楽しく暮らしてるって事だったんだけど、ここが薄暗いせいかな?」


ちょっと心配になりながらも僕たちは移動を始めました、教育する場所は1階の奥です、クロネオたちの訓練場の先にあります、スライムで作った机とイスがずらっと並ぶ教室から始まり、体育館の様な大部屋、ミシンや調理場などを備えた大きめの家庭科室も作ったんだ。
大部屋がどうして設置出来るのかと疑問かもですね、そこは裏技を見つけて使ったんだ、小部屋を幾つも合わせる事で広くすることが出来たんだよ、ダンジョンの部屋としては、50メートル四方の大部屋くらいある大きさになったけど、マップの名称的には小部屋扱いなんです。


「みな姿勢を正すにゃん!シンジ様が参られたのにゃんよ」


教室に入ると、ミャオサーのそんな言葉が響きます、子供たちが緊張したのが見え、クロネオたちが僕に頭を下げます。
そんな畏まらなくても良いとは思います、だけど外の事はミャオサーたちに任せているので指摘はしません、上下関係はしっかりとしなくてはいけません。


「さぁまずはお礼にゃん」


ミャオサーの言葉を聞いて、子供たちが一斉に頭を下げ「助けていただきありがとうございます」といわれました、僕はそれを受け、教壇の前に立って自己紹介を始めたんだ。


「みんなの感謝の言葉は受け取ったよ、聞いているだろうけど、僕はシンジと言います、この森林を統治してる森長です、隣の半透明のスライム娘は俺のパートナーのミント、仲良くしましょうね」


自己紹介から始めて、ここで教育することを説明しました、何をするのかはミャオサーに言われているはずです、でも僕からしっかり説明する事は必要だと思って伝えました、ここでは子供でも仕事はしなくて生きていけませんからね。


「綺麗事を言うつもりはないよ、この世は弱肉強食です、君たちみんなは弱い、だから強い立場の大人が生き残るんだ、君たちを切り捨ててね、今ここにいるのはそのせいです、だけど勘違いしてはいけないよ、その大人たちも最初から強かった訳じゃないんだ、それに本当なら君たちだって捨てたくなかったはずなんだ、強く成長するまで育てたかったはずだよ」


この子たちは村の優先順位で突き放された子共です、村の作物などが採れなかったから、他の子や大人を生かす為の口減らしの対象になってしまった。
理由をいくつか告げると、子供たちは暗くなり泣き出してしまった子もいます、僕はそうなるのは分かっていたよ、現実を見てもらう為にワザと言ったんだ。


「僕は泣くなとは言わないよ、だけど諦めちゃダメだ!神に祈ったり他人に助けを求めたりする考えは捨てなさい、信頼出来る仲間を集め、みんなで力を合わせて乗り越えるんだ、知らない人たちが何食わぬ顔で近づいて来たら、その人をまず疑う事を覚えなくちゃいけない、敵か味方かしっかりと見極める力を付けるんだ」


子供にこんな事を言うのはとても心苦しいです、だけどこの世界で生きて行くには必要な事です、老人たちからの情報でも分かった事なんだ。
何処の大陸でも、かなりの食糧難が続いているんです、場所によっては貴族や王族と言った者たちがいて、私腹を肥やしているそうです、下の者たちの意見は聞いて貰えず採取され続け、かなりの人が命を落としてるそうです。
理解して対策を立ててる人もいるらしいけど、それは少数でそこに逃げようとする人もいるんだ、でも結局そこでも食料が多いわけじゃない、だから迎え入れる数には限りがあるんだよ。


「で、でもあなたは助けてくれたじゃないですか」


僕が外の情勢を考えていたら子供たちの中からそんな言葉が飛びました、この中で年長者の女の子です、ちょっとボサボサの茶色髪でそばかすが可愛い子です。
その子の顔を見ると、身体が凄く震えてるのが分かったんだ、偉い人に意見するなんて怖いよね、でも勇気を出してくれた、みんなに注目されてると分かって、指を胸の前で動かしてオドオドしてる、きっと口答えをして叱られるとか思ってるんだ、他の子たちは少女の心境を理解してないみたいで質問の答えを待ってます。


「それは僕にとって有益だと判断しているからだよ、行動には必ず理由がある、必要ない事だと思っていても絶対にあるんだ、君たちを助けたのだってそうだよ、かわいそうだからとか助ける力があるからじゃない、君たちを育て僕の力になってもらう為に助けたんだ」


精霊族や獣人族の大陸にもオオガラスたちを向かわせました、でも彼らは仲間を見捨てることはしてませんでした、今もお互い助け合いながら暮らしています。
でもヒューマンは違います、ハイヒューマンという上位の種族に逆らえず、他の種族よりも余計に採取されてるせいもあって、弱い者は命をおとしてるんだ。
精霊族や獣人族も奉納と言う形でハイヒューマンに貢物を送ってるけど、それを比べてもかなり苦しいと感じます、いつそれが崩壊してもおかしくない状態だと僕は読みました、そこに僕の生徒たちが勇者として光臨した、あの悪魔はそうして信仰心をあげる狙いなんだよ。


「将来を考えて僕たち大人は行動しているんだ、君はどうかな?」


質問してきた少女に聞きます、名前が分からなかったのでミャオサーを呼び、耳打ちしてもらいました、彼女の名前はメムと言うそうです、ボサボサの髪を整えればきっと綺麗になります、そばかすだって可愛いモノです。


「メムは、将来なにをして過ごしたいかな?」

「わ、私は・・・分かりません、生きていくことに精一杯で考えたこともなかったです」


メムの答えを聞き、そうだろうねと僕は答えたんだ、みんなのスタートラインが低すぎるんだよ、考える前にやることがあって余裕がない状態だったんだ。


「それをさせていたのも村の大人たちだったんだ、みんなに考える時間を与えず疑問も持たせなかった、それだけ弱い立場だったんだよ、毎日生きて行くだけでも精一杯にされていたんだね、だけどここでは違うよ、食事も食べれて体も清潔にできる、髪はまだボサボサだけど、痛んだ髪も良くなるよ」


メムがボサボサの髪を触っていたので、僕はメムの前に立って髪をクシで解かしていきました、ミントとミャオサーも僕に習い、他の女の子の髪をとかしていきます。
その間に今後のことを話したんだ、美味しい物を作る仕事をしても良いし、服を作ってもいい、遊ぶのが好きならそれに使う道具を考えて作る仕事をすればいいってね。


「ずっと寝ていたいって子もいるかもしれない、仕事をしないのは困るけど、寝具を良くしてもっと気持ちの良い眠りを求めるのも手だね、君たちはスタートラインにいま立ったんだ、これからそれを見つける為に暮らしていこう」


メムの髪を解かし終わった僕は話も終了させました、ボサボサだった髪も少しは綺麗に整えられたんだよ、大きな鏡を出して見る様に言ったら、メムや他の子たちは自分の髪を触って驚いていますね。


「こ、これが私ですか」

「鏡で自分を見た事もなかったんだね、まだまだボサボサしてる所はあるけど、栄養のある食事を取り、毎日お互いにクシで解かしていればもっと良くなるよ、そこのミャオサーやミントの様にね」


お手本がいればわかりやすいと思って二人を題材にしました、でも二人の顔を見て僕はまずいと察知しました、そして直ぐに授業の話に変えたんだ、話題は逸らせたけど、後でフォローしないといけないんだろうね。


「さて、難しい話はここで終わりだ、明日から本格的な勉強が始まるからね、今日はみんながスタートラインに立てたことを祝して、軽くパーティーを開こうと思います、ここの最初の部屋がその会場だからそこに行くよ、みんな着いて来て」


ミントとミャオサーの目が怖いので、僕は急ぎ食事屋に移動しました、外ではまだ焼く工程しか出来ないので、ここでしか食せない調理を開始したんだ、子供たちは調理の音や火の勢いを見て驚いているよ。


「ここ、これは何ですか!?」

「そんなに驚かないでよメム、外とは違うだけなんだ、今後こういった物を食せる様にしたいと思ってる、もちろんみんなにも出来るようになってもらうからね」


できあがったカツ丼をメムの前に置くと、目をパチパチさせ戸惑っていました、スプーンを渡して食べてみてと勧めます、メムは口に入れて固まってしまいました。


「美味しいかなメム?」

「はい・・・とっても美味しいです」


メムはゆっくりとかみしめ、涙を流しながら食しています、涙を流しているのを本人は知らないのかもしれません、それだけ感動しているんです、他の子たちも同じ感じで僕はすごくうれしいよ。


「シンジの料理は最強」

「そうですにゃん、愛情が詰まっていてとても美味しいですにゃん、わたいたちにももっとほしいですにゃ~ん」


二人が同時に抱きついてきて戸惑ったよ、いつもはどちらかが先だったりします、もしやミントが学習しちゃった?と焦ります、でもそれを悟られるとミャオサーがミントを焚き付けて迫って来るかもしれません、ここは慎重に行動です。
誤魔化す様にふたりの頭をなでて誤魔化します、もちろんそれだけではなく、僕のカツ丼をスプーンで掬って二人に食べてもらったんだ、ミントはすごく嬉しそうに【あーん】と口を開けて食べてくれます、ミャオサーはやられたって顔をしていたね。
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