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3章 商品チート

56話 バーバルナ動く

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「フォ~フォッフォッ」


ワシは、敵対国に向かいながら笑いが止まらんかった。
まさか、こちらの人手不足を友好国で無く、敵国になりえる方の国から頂けるとは思わんかったのじゃ。


「1つ目は加工石の説明が出来た事で、相手もワシを受け入れやすかったのが良かったが、その次が職人の派遣じゃったな」


攻めようとしている国に教育する職人を向かわせる約束じゃったから、こちらに付く証として貴族も数名が派遣されたのじゃ。
まさに人質と言う事じゃが、話が既に決まっていて、友好の証にと選抜された者たちじゃったから、上級貴族の長男長女ばかりじゃったよ。


「婚約をさせて仕事をすれば、もう戻す事も出来なくなる・・・これはもう笑いが止まらん」


フォッフォッフォっと、次の国に着いても笑ってしまい、馬車が止まるまでワシは有頂天じゃった。
いつもこれだけ楽で利益が見込める取引ばかりじゃといいのじゃが、そうもいかないのが普通じゃ。


「お待ちしていましたバーバルナ様」
「おおこれはこれは、ケイオス殿ご自身がお出迎えとは嬉しいのう」
「勿論ですとも、あの戦場では有名なバーバルナ殿を迎えるのですからな」


さぁどうぞっと、ハーザス国のケイオス伯爵殿は、身体を横に避けるように動かし屋敷に招いてくれたが、いちいち嫌味を挟んでくるのじゃ。
じゃが、ワシが大人しいのは応接室に到着するまでで、向かい合って座るとワシはにこやかな笑顔を止めたのじゃ。


「さてライオス殿、我が国との交易が始まろうとしていますが、ちょっと問題が起きましてな」
「それはそれは、我が国も利益が得られずに終わるのは困りますな」
「そうじゃろうな・・・なので、ワシはここに来たのじゃが、返答を聞きたいのじゃよ」
「ふむ・・・そう言う事なら協力しよう、何をお求めかな?」


敵対国なのだから、悪い事というのがハーザス国の友好国なのは分かったようで、それでも聞こうとしているのは、まだ情報が流れていないからじゃった。
こちらがいち早く動いているからなのと、相手がいまだに動いていないからでもあり、半数の国にお願いを通しから助かっておるのう。


「簡単な話じゃよケイオス殿、何が起きても動かないと約束してくれるだけで良いのじゃ」
「ほうそれはそれは、そんな簡単な事で良いのかな?」
「それだけでも十分じゃ、そうして頂ければ職人たちも安心して学ぶことが出来るじゃろう」
「そう言う事ですか、分かりましたよバーバルナ殿」


簡単に分かってくれたのじゃが、何もかもこちらの言いなりで嫌そうな表情をしてきて、何かをやらかしそうじゃった。
じゃからちょっと脅す事にしたのじゃが、その意味が分かるのはケイオス殿の頭の良さに掛かっておったよ。


「時にケイオス殿、説明会の時の事を覚えておるかのう?」
「それは覚えてますとも、あれは革新的な技術公開でしたな」
「そうじゃろうな、大聖女もとても喜んでいただけたのう」
「確かに、職人を最初にお渡しになるのを決めたのは、誰でもない大聖女様でした」


そう、そこが問題の国と、ワシはニヤリとしたのじゃが、そこに説明を担当した商会の職人を奪われたと教えたのじゃ。
それを聞き、ケイオス殿は顔をひきつらせたのじゃよ。


「お察しの通り、これはかなり問題のある話じゃが、その国は今だに沈黙しておるのじゃ」
「そ、それは・・・まずいですな」
「ええまったくですじゃ」


謝罪も何も無いと、今までの事もあって怒っている事を伝えたのじゃ。
これは裏切り行為で、正義はこちらにあると教えたのじゃよ。


「じゃからな、決っして参加はしない方が賢明なのじゃ」
「もしも・・・万が一にも参加したらどうなるのかな?」
「そうじゃな・・・その時は神の如きとして、あの革命を起こした技術が裁きを下すじゃろう」


あの技術は、大聖女も即答した技術で、更に先がありワシたちがそれを持っているから、友好国のみならずすべての国を招待させたのじゃ。
戦いを挑むのは、神にケンカを売るのと等しく、ケイオス殿も納得したのじゃよ。


「分かってもらえた様じゃな」
「そそそ、それはもう・・・しかし、即答したにも関わらず、どうしてそんな事をしたのでしょうね」
「そこが問題なのですじゃよケイオス殿」


その為の前準備で、ワシや他の国も動いていると教えたのじゃ。
じゃから情報が流れていないのだと分かり、これは本当に勝てないと本音がケイオス殿から洩れたのじゃ。


「それでは、ワシはここで退席するが、国にご報告はお任せするのじゃよケイオス殿」
「ももも、勿論だ」


任せてくれと、本当に焦ってくれたので良かったのじゃよ。
あの説明会が大きな武器となったのを知っているのは、これから戦う相手も同じなのじゃ。


「愚策を犯した部下を引き渡すか、それとも」


どちらにしても、リイル殿はかなりお怒りじゃから、損失を最小限にしたければ謝罪をするべきなのじゃよ。
馬車に乗り、次の国に向かい出発したのじゃが、それが無いのは説明会で見た大聖女の性格でも分かっている事じゃったよ。


「じゃから、ケイオス殿もあの表情をしたわけじゃが、絶対に勝てないと分かっても余裕でいられるのか、楽しみじゃな」


その場に行けないのが悔やまれるが、人にはそれぞれに役割があり、ワシはこの忠告を敵国に触れ回るのが仕事じゃった。
そして、1月後には手遅れとなるが、その前に話し合いがされるじゃろう。


「そこが最後のチャンスじゃが、大聖女も知らなかった愚か者が到着する頃じゃし、まず無理じゃろうな」


こちらの動きが早すぎて、次の手を打った時には手遅れとなるのじゃが、それすらも気付かないから愚策なのじゃ。
ワシがあちら側でも、恐らくここまでは読めなかったじゃろうが、相手の怒りを汲み取れば分かる事なので、大聖女の人望に掛かっておる。


「まぁワシには関係は無い事じゃし、婚約相手でも探すのに尽力するかのう」


じゃから笑いが止まらず、フォッフォッフォっと、次の国に着くまでウキウキじゃった。
そして、今頃引きつった顔をして愚策の報告を聞いているであろう大聖女に、心からのお悔やみを伝える為、神に祈ったのじゃ。


「大聖女よ、そなたは神の使いと言われておったが、代々受け継がれただけのただの地位には、何の効力もお告げもないのじゃ」


心より反省し、そして強欲になった自分に後悔すると良いのじゃ。
戦争で功績をあげ、後悔しているワシの様にのう。
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