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3章 商品チート

44話 今頃あっちでは

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「今頃、あっちではリイル先生が冒険者と一緒に、100階のボス討伐を済ませてるのよねぇ」


学園の入学式で学園長のお話をスルーして、ワタクシは10階までを探索した時の事を思い出しました。
リイル先生に頼んで実戦を体験したけど、とても楽しい冒険でした。


「前は、ここに来たくて楽しみにしていたけど、リイル先生の授業のおかげでみんなの視線の意味を知ったから、もうどうでも良いわね」


妬みや見下しの視線が飛び交い、何処の領主の子供なのかも大体分かってしまったの。
王族であるワタクシとお近づきになろうとする視線もすごくて、ワタクシはとても嫌です。


「何も気にしない領地の方が良かったわ」


ため息を付いて、話しが終わると早々に会場を出たのだけど、教室に行く前にも嫌な事があり、ワタクシは立ち止まったのよ。
庭の中央で、貴族らしい女生徒たちが集まり、一人の女生徒を虐めていたの。


「あの子は、確か平民からの入学者だったわね」


名前はサネットさんで、ワタクシは助ける事にしたのよ。
勿論、貴族としての誇りと重要性を伝え、守るべき民を虐める事の異常さを伝えたのです。


「何よあなた、随分偉そうじゃない」
「偉そうではなく偉いのです、そんな事も分からないのですか?」
「なっ何ですって!」


先頭の生徒がかなり怒っていますが、貴族である以上、ワタクシたちは偉いのです。
それが例え爵位を受け継いでいなくても、生まれで決まっていて、誇りを持たなければなりません。


「分かった様な事を言うのね、むかつくわ」
「ちょっと、あの人って」
「何よ!!」


後ろの女生徒は分かった様で、ワタクシを見て青くなり始めたわ。
先頭の子に耳打ちして、彼女もワタクシが誰なのかを理解したのよ。


「お、王女様」
「わかった様ですね、そんな行いは直ちに止めなさい、我が国の恥ですわよ!」
「「「「す、すみませんでした」」」」


貴族の女生徒が逃げて行き、ワタクシはサネットさんに手を差し伸べたのです。
彼女も立ち上がりお礼を言ってきますけど、制服は汚れていたし、もうボロボロで放っておけなかったわ。


「あなた、ちょっと来なさい」
「ふぇっ!」


握ったままの手を引っ張り、ワタクシは王族専用の寮に向かい、ワタクシが使うお部屋に入ったのです。
そこにはワタクシの専属メイドのパミュが待っていて、何も言わずにサネットの服を用意し始めたわ。


「ごめんなさいねサネット」
「どうして姫様が謝るんですか」
「ワタクシは王族だから、貴族の失態はワタクシの責任なのよ」


何処にいても、ああいった貴族のご子息はいて、何度忠告や教育をしても止まりません。
そもそも、ここにいる子供たちは、爵位を持っているのは王族だけで、ご子息という肩書だけなんです。


「それなのに、あの子たちは自分が偉いと思ってる、何もしてないのにね」
「そうかもしれませんが・・・生まれがそれを可能にするんです」
「そうじゃないわサネット、貴族に生まれたら誇りを守らなければいけないのよ」


偉ぶるのではなく守る側になるべきで、それを分かっている貴族が少なすぎるのです。
その事をリイル先生と爺やが教えてくれて、ワタクシはそのおバカな自分から変わったんです。


「この国は小さいけど、それは国を変えようとした貴族が少なかったのが原因・・・だからごめんなさいサネット」
「姫様・・・これから変わるんでしょうか?」
「ええ、その為にワタクシはここに来ましたの・・・だからねサネット、ワタクシとお友達になってください」


サネットはとても驚いているけど、ワタクシは本気でした。
お父様やお兄様たちでは国は変えられない、そう思っているからワタクシが頑張るのです。


「身分なんて関係ないのよサネット、ワタクシたちはお友達」
「い、良いんでしょうか」
「良いか悪いかではないわ、サネットが許してくれるかですわ」
「許すなんて・・・こちらから頼みたいくらいです」


サネットの答えが貰えると、パミュが戻って来て綺麗なドレスをサネットに渡したわ。
そこで着替えてもらい、制服は直ぐに洗う事をお伝えしたの。


「そんな、洗わなくても叩けば平気です」
「それ位させてちょうだいサネット、乾くまでお茶も出来ますし、ワタクシにあなたの事を教えて」
「でも、早く戻らないと」
「今日は学園の説明だけですわよサネット」


担任からそんなお話を聞き、それぞれ自己紹介をするだけで、ワタクシはそれよりもサネットとの時間を大切したかったの。
どうせ、貴族が家の紹介をする自己紹介で、何も面白い事は無いんです。


「それじゃあサネット、着替えて来てね」
「わ、分かりました」
「その間にお茶を用意しておくわ」


隣の部屋にパミュと移動したサネットは、何だか不安そうな表情でしたが、次に出て来た時にはドレスを気に入ったのかニコニコでした。
サネットの赤い髪にとっても合っていて、綺麗と感想を伝えたの。


「そんな事はありません」
「いいえ似合ってるわ、そうよねパミュ」
「ええ姫様、真っ白いドレスがとてもお似合いです」


ほらねっと、ワタクシはパミュと頷いて見せました。
そこから座ってお茶会が始り、パミュも加わって楽しくお話をしたのよ。


「そう、あなたのお母様のパイは美味しいのね」
「はい、世界一です」
「それは羨ましいわサネット」


サネットが嬉しそうにお話をしてくれて、ワタクシも今度食べたいとお願いしたの。
今度持って来てくれる約束をしたのだけど、そこで部屋の扉がノックされ、パミュが開けてくれてちょっと不穏な感じで、そこには怒っている担任教師がいたのよ。


「あらヤキャベル先生、ごきげんよう」
「ベルーナさん、これはどういう事ですか」
「どうもこうもないですわヤキャベル先生、サネットさんは虐めを受けていたから、王族であるワタクシが助けたのです」


だから教室には行けなかった、ただそれだけの事でしたが、先生は貴族側の様で仕方ないと言ってきました。
何か対策を考えるでもなく、ただ仕方ないと言って来た事に、ワタクシは怒りすら覚えましたわ。


「小国だからでしょうか、とても残念ですわね先生」
「ベルーナさん、あなたがどう言おうと、ここはそう言う所なのです」
「でしたら、ワタクシが変えて見せますわ」


その為の知識も経験も積みましたし、爺やとリイル先生はその為に訓練をさせてくれていたのです。
まずは、担任のヤキャベル先生を説得し、こちらの味方に付ける事が重要です。


「いったいどうやって」
「簡単ですわヤキャベル先生、力を見せるのです」
「力って、あなたにそんな力はありません」
「そう思われるのも分かりますヤキャベル先生、ですがそれは大きな間違いですのよ」


パミュに視線を向けると、アイテムボックスから小瓶を出してくれましたの。
中身を小さなコップに注ぎ、ワタクシに手渡してくれましたわ。


「それは何ですか?」
「これはねヤキャベル先生、ラインハット国でも有名なお酒なの」
「お酒?」
「ええ、飲んでみてください、勤務中なので少量にしてくださいましね」


ヤキャベル先生は、妖精の蜂蜜酒を飲み、その美味しさに目を輝かせたわ。
そして、ワタクシの言いたいことが分かったのか、コップをテーブルに置いてワタクシを見たのです。


「分かっていただけましたか?」
「ええ、それだけの力を持っているのですね」
「そう言う事です、なのでここから変えましょう」
「分かりました、協力します」


単刀直入に言っても良かったのですが、リイル先生に教えて貰った様に出来ました。
ヤキャベル先生は、教えるよりも答えを見つけた事で、より深く理解してくれましたわ。
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