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2章 成長チート

40話 帰りたくない

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「今日は20階かぁ~」


リゼが嬉しそうに前を歩き、ワタシはそれを見てニコニコです。
リーダンでは、20階なんてワタシたちが探索していれば、周りから白い目で見られたりしていたけど、ここではそうではなくて、伸び伸びと生活出来て凄く楽なんです。


「っち、何を嬉しそうにしてやがる」
「こらポチ、良い気分を台無しにするなんて、お仕置きが欲しいのかしら?」
「お、俺はアモスだ、ポチなんて呼ぶなシューリ」
「シューリですって、まだ分かってない様ねポチ」


これはお仕置き確定でお座りを命じて、首輪から鎖を魔法で伸ばして引っ張りフセをさせ、ワタシはその後頭部を足で踏みつけたのよ。
アモスではなくポチと名付け、リゼの弾除けとして戦わせてるけど、態度以外はなかなか順調で強くなってきたわ。


「でも、生意気な態度は本当に直らないわね」
「か、身体を思い通りにされても、俺の心は俺のモノだ」
「まったく、戦闘に使えなくなるから薬を使わないと思って、良い気になってるわね」


本来は媚薬を使って躾けるのが良いらしいのだけど、中毒になって戦闘に使えなくなるそうで、ワタシたちはポチ(アモス)には困っていて、エサを減らすと戦えないしで困っているわ。
でも、それ以外はここでの生活に不満はなく、ギルドに入っても睨まれませんから、本当に良い街です。


「知らない土地って良いもんだなシューリ」
「そうねリゼ、これでポチが言う事を聞けば、何にも不満は無いわね」
「そうだな、こいつは一向に改善されねぇな」


リゼもポチを踏みつけ、これだけが不満と笑い合い、ワタシたちは受付に向かったわ。
19階までのモンスターと、20階のボスの素材を卸して、銀貨60枚になったわ。


「シューリ様、次回もよろしくお願いします」
「ありがとう、また来るわね」
「はい、お待ちしています」


笑顔の受付嬢なんて、リーダンでは気にもしなかったですけど、こんなに暖かいモノだった事を教えてくれました。
周りを全然見ていなかったのを知ったワタシは、ここに来てもっと成長できた気がしてて、次に進みたいと思っていたの。


「ねぇリゼ、クライルたちって、今何階に行ってるのかしら?」
「アイツらか・・・確か、商会の奴らと一緒だからな、70階辺りって話だな」
「そんなに先に行ってるのね」
「良いじゃねぇかシューリ、オレたちは安全に行こうぜ」


無理をすれば30階までは行けるでしょうけど、リゼに負担が掛かり、下手をしたら大怪我を負ってしまうので、ワタシはずっと20階までを繰り返していて、リゼは先に挑戦したいみたいなの。
ポチをもっと有効に使えるようになってからと説得していて、そろそろ次の段階に来ているけど、正直不安なんです。


「ねぇリゼ、ワタシのお願い聞いてくれる?」
「何だよシューリ、改まって言う事じゃないだろう、オレたちの仲だろう」
「そうね、じゃあ言うけど、リイル商会に入りましょう」
「ああ良いぜ」


リゼも了承してくれて、ワタシは商会の面接を申請する事を決めたのよ。
次の日にポチも連れて、商会の責任者に会ったのだけど、そこにはカーリーが同席していて、責任者のリイルさんもかなり睨んできたわ。


「それでは面接を始めますが、その前に動機を聞かせていただけますか?」
「ワタシたちは、20階を攻略して先に進みたいのですけど、3人ではちょっと不安で、ここの冒険者PTに入れてほしいんです」
「PTに入るだけなら、ギルドを通しても臨時で入れますが、どうして商会加入なのですか?」


リイルさんの質問には、ワタシの決意が籠っていると伝え、商会を裏切らないと誓ったんです。
リイル商会の証であるペンダントには、ワタシたちドラゴンの翼の紋章だったあの奴隷紋が使われていて、一度拒んだモノを受け取る事でそれを証明すると伝えます。


「もう二度と裏切らない、その決意を証明したいんです」
「なるほど・・・ですが、そちらの床に座ってる男性は、お二人とは違うみたいですね」
「ええ、ポチは今だに反抗的で、ワタシたちの奴隷になっても変わりませんが、決して裏切りません」
「そうですか、その言葉を普通なら信じる所ですが、僕の雇い主のリケイルさんは裏切られました」


だから断ると言われてしまい、ワタシはそれだけの事をしたのが伝わって来て重く感じました。
でも、ここで引き下がるわけにもいかず、ワタシは椅子から降りて床に手と膝を付いて頭を下げたんです。


「どうかお願いします、商会に入れてください」
「どうしてそこまでするんですか?先ほども言いましたけど、他のPTなんていくらでもいますよ」
「お金の為よリイル、こいつらは借金があるのよ」
「違う、違うのよカーリー」


顔を上げたワタシは、カーリーの言葉を否定し、リゼの為と伝えました。
リゼは、強くなるために真っすぐに進んでいて、ワタシは彼女を支えたいと思っていて、その為なら何でもすると誓いました。


「お金だって要りません、奴隷になれと言うならそうします、だからお願いします」
「シューリ、奴隷なんてならなくて良い、2人だって強くなれるぜ」
「ダメよリゼ、ふたりじゃ限界があるわ」


時間を掛ければ強くなれるかもしれませんが、それはとても長い時間が掛かり、このままではリゼの目指しているところには届きません。
5つ星まで下がったワタシたちのランクを元に戻す、その為にはこの商会の力が必要なんです。


「だからお願いします」
「シューリっ!」


リゼが無理やりワタシを起こしてきますが、ワタシは諦めていません。
それを見て、カーリーは悩んでいるリイルさんの答えを待っている感じで、ワタシもそれを待ちました。


「おふたりの気持ちは分かりました、入会を許可します」
「ほ、ほんとですか!」
「ただし条件があります」
「はい、何でも言ってください」


奴隷になっても、願いが叶うならと思っていたのだけど、リイルさんの条件とはリゼを大切にする事でした。
そんな事、言われなくてもずっとしていて、今更と思ったわ。


「そうじゃないよシューリさん、大切にすると言うのはあなた自身も大切にしなくてはいけないんだ」
「それって」
「そうだよ、今のリゼさんを見れば分かるでしょ」


リゼの顔を見たら、とても心配している表情をしていて、怒ってもいました。
自分を犠牲にするような行いはしてはいけないと、リイルさんに言われ、リゼが頷いていたわ。


「シューリ、オレは確かに7つ星を目指してるが、お前がいなくちゃ意味ねぇんだぞ」
「だから怒っているの?」
「言っただろシューリ、一緒に強くなろうってよ、それなのに自分だけ奴隷になるとか言うなよ」


リゼが涙をこぼしてしまい、ワタシが間違っていた事を理解したの。
また間違ってしまい、次は絶対に間違わないとリゼを抱きしめ、リイルさんにお礼を伝えたわ。


「じゃあ、早速だけど力を見せてほしいな、今からダンジョンに行けるかな?」
「勿論です」
「やってやるぜ」
「良い意気込みだね・・・でも、そっちの人はダメそうなんだけど」


リイルさんがポチに視線を落としたら、すっごく嫌がっていて、命令でお座りの状態でも頭だけは逃げていたの。
でも、ワタシの命令でシャキッとさせてやる気を出させたわ。


「ふむ、指示を出さないとダメなんだね」
「そうなんです、なので戦闘の時、どうしても遅れてしまいます」
「なるほどね、じゃあ彼には一撃必殺を担当してもらおうかな」
「「へっ?」」


こうしてワタシたちは、リイルさんとカーリーを含めたダンジョン探索に向かう事になったんです。
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