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1章 新たな人生

16話 我慢の限界

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「それでリゼにシューリ、ワタシに何か用かな」


未だにカーリー殿からの連絡はない中、顔も見たくないふたりがワタシの仕事部屋に来た。
本来なら話を聞く事は無いんだが、受付にいたデートリマがある作戦に使おうと言って通してきたんだが、見るからに疲弊しているよ。


「あ、あのワタシたちは」
「お願いだ、助けてくれ」
「ほう、つまり根を上げたんだな」
「そ、それは」


まだプライドが邪魔をしているのかと、頭を抱えてまだ足りないのかと思った。
風呂や食事は屋敷にしっかりとした設備があるが、魔石は使うし料理の出来る奴がいないから、碌に使えていない様だ。


「何度も言うがなリゼ、お前たちが謝罪しなければ助けない、さぁどうする?」
「ぐっ・・・すまなかった」
「違うだろうリゼ、言葉だけでなく頭を下げるんだよ」


凄く悔しそうにしたリゼは、膝と手を突き頭を床に付けて謝罪の言葉を口にした。
これでやっと次に進めると、デートリマに視線を向けちょっとは安心したが、こいつらが了承するかは決まってないから、気合を入れなくてはならない。


「よし、それなら助けてやる」
「「ほんと」」
「だがっ!ワタシが助けるにも限度がある、まずお前たちの意見を聞こう」


国が決めた事には手が出せず、ワタシが手を貸せることはそれほど多くない。
しかし、デートリマも知っているが、こいつらが困っているのは生活の改善なのでなんとかなるし、裏もなく食事と化粧品が欲しいと言って来たよ。


「ほう、その費用を冒険者ギルドが持たなくてはならないが」
「そ、そこを何とか」
「安い品でも良いの、もうお肌も髪も痛んで辛いのよ」
「仕方ないな、デートリマ用意してやれ」


デートリマが了承して部屋を出たので、ふたりはホッとしたようだが、問題はここからだ。
こいつらを監視している者からの情報で、アモスが何やら怪しい動きをしているらしく、こいつらには監視を命じたんだ。


「そんな、仲間を監視なんて」
「まだアモスを仲間と思っていたのか、あいつはお前たちを既に見限っているだろう」
「そんなことは」
「そうか?ダンジョンでの報告は聞いているぞ、けっこうな暴力を受けてるそうじゃないか」


アイツは剣士だから、リゼが止めても一撃は重く、シューリはその都度自分で回復している。
愛していた男にすがるのも良いが、もう諦めろと言ってやり、ふたりで助け合うべきと教えた。


「二人って」
「シューリ、今のお前を助けているのは誰だ?」
「もしかしてリゼなの?」
「そうだよ、ワタシもそうだが、格闘士に化粧なんていらないんだ、お前の為に頭を下げたんだよ」


そうだったの?とかシューリは不思議そうだが、まだ分からないのかとリゼが好きなのを伝えた。
本来は本人が言うべきなんだが、もう時間が無いから進める為に犠牲になって貰ったよ。


「そ、そうだったのリゼ?」
「ああそうだよ、シューリはオレと違って綺麗だから、ずっと憧れてたんだ」


それなのにっと、アモスに酷い扱いをされ始めたからここに来たと、やっと本音を話してシューリは真っ赤になって行ったよ。
だからか、リゼはワタシの要請を喜んで承諾し、シューリは自分が守ると言い出したな。


「強くもなかったオレには、もうお前しかいないんだ、だからシューリが嫌でも守るからな」
「そんな事急に言われても・・・本気なのリゼ?」
「こんな事冗談で言うかよ、オレは本気だ」


告白する気は無かったとワタシを睨んできたが、了承させるには仕方なかったし、枷も出来たから言う事なしだ。
だが、費用が掛かるのは困るので、1つの提案として装備を提出するように伝えたよ。


「装備って、ワタシたちのですか?」
「そうだ、お前たちの装備はリケイルが手掛けた物で、今職人たちが躍起になって研究している品となっている」
「「そ、そうだったの」」


整備に回されたアモスの装備を見てから始まったが、どうやっているのか分からない程の技術の違いに、誰もが驚きと称賛を送っていて、それが量産できるようになれば国が潤うとギルド間で頼まれている。
だから、リゼとシューリの装備も同じで、手放さないアモスとは違い引き渡せと言ったんだ。


「勿論代金は払うぞ、1つ金貨1万枚だ」
「「えっ?・・・ええぇぇーーー!!」」


物凄く驚く二人だが、7つ星が装備する武具だから普通でも100枚は掛かり、今回は未知の技術を使っているから100倍と解説した。
こいつらはそんな事も知らないのかと言いたいが、直ぐにでも渡して来そうなので言わずに金額を教える事にした。


「シューリは杖にローブで、リゼはナックルガード代わりの手袋に肩当だな」
「って事は、4つで4万枚かよ」
「そう言う事だ」
「で、でもそれを渡したらダンジョンの探索が」


そう来ると思ったので、今のふたりの出力では逆に不利になっていると説明を行った。
魔力量や闘気量共に溜めるまでに時間が掛かり、魔法や武技を使う時遅れてなかったかと質問したよ。


「そう言えば」
「それに威力も低かっただろ?」
「ど、どうしてそれを」
「お前たちの装備はな、ほんとにすごい技術で作られているんだ、だから使うにはその者の能力も必要で、今のお前たちでは使いこなせないのさ」


どうやったのかは分かっていないが、アモスの使っていた剣を鑑定させた時、誰もが目を疑う程に金属の融合を見たんだ。
全ての金属が精細に編まれていて、普通に金属を解かしてもこうはならないと、方法すら分かっていない。


「実力に合った装備も用意するし、服の方は防御の問題で取引には入れない」
「あ、あの・・・もし服の方も売ったらいくらになります?」
「そっちの方は・・・正直値段が付けられない」
「「え!?」」


アモスの方もそうだが、鎧の下に来ている戦闘着には、護符や強化アクセサリーに使われてる魔法陣が組まれていて、解析は出来ても分解は出来ない。
武具の方は分解する予定だが、戻せないのが分かっているから国宝行きで、その額は決められないと教えたよ。


「ちなみに、この国の国宝である金の錫杖は、金貨10万枚だから、その服なら100万枚は見込めるだろうな」
「そ、それなら」
「シューリ、それはダメだ」
「でもリゼ、ワタシたちにはお金がいるのよ」


焦っているシューリは、服を国に献上しようと言って来るが、それは止めておけとワタシも忠告したよ。
服の方にはかなりの防御付与がされていて、回復や状態異常軽減などが付いていて他の服の比ではない。


「それを無くしたら、それこそダンジョンでは生きられないぞ、止めておけシューリ」
「わ、分かりましたギルマス」
「よし、研究が成功したらお前たちにも報酬は渡す、それで少しは借金も減るだろう」


問題はアモスの方で、何とか装備を手放すように説得するように言いつけた。
これで少しは使えるようになると思いたいが、正直難しいとワタシは思っていたよ。


「生活費もこちらで用意するから、協力しろよ」
「「はい」」
「良い返事だ、デートリマから品を受け取って励めよ」
「「分かりました」」


ふたりが退出して、少しは前進したと鈴を付けれた事に安堵した。
冒険者としては全然使えないが、監視さえしっかりしてくれれば御の字で、国にも言い訳が出来たよ。
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