上 下
32 / 32
Episode2 愛のこもった手料理で胃袋鷲掴み大作戦!

2-13 理想の結婚生活に向けて、一歩ずつ

しおりを挟む
 次の日の昼、リザミィたちは昼食を食べにアボロスの北側にある焼き肉屋に来ていた。
 この間ボンボとライジャーがリザミィに内緒で行った焼き肉屋だ。
 復活したボンボは本当に腹痛で休んでいたのかというくらい、さっきから肉を貪っている。病み上がりなのに大丈夫だろうか。またお腹壊したりしない?
 リザミィの心配を他所に、ボンボはにこやかな表情を向ける。

「でも、ボクも食べたかったなぁ。リザミィさんたちのカレーライス」
「おいそこはライジャーくんたちのカレーライスって言えよ。ほとんどオレが作ったようなもんなんだからな!」

 ライジャーが箸で金網に肉を乗せながら文句を言っている。何度も何度もしつこいやつだ。

「だからそこは感謝してるじゃない。ほんと恩着せがましいトカゲねぇ」

 ライジャーは小さな舌打ちをした。そして箸先でこちらを指す。

「っつーか、元はと言えばオマエが料理を作るとか言い出したから大騒ぎになったんじゃねーか」
「なによ! あんたも料理で納得してたじゃない! 今更文句言われてもね!」
「まぁまぁ。魔王様もご機嫌になったんだからいいじゃない」

 ボンボは呑気に焼けた肉を頬張った。
 そんな穏やかな彼の姿を見つめながら、リザミィは机に頬杖をつく。

「けど、今回ボンボには本当に助けてもらったわ。本番は不在だったけどね。救世主シェフボンボよ」
「そんな大袈裟な……」

 ボンボは照れくさそうにはにかんだ。

「ボクの料理でみんなが喜んでくれるなんて、これまで思ってもみなかったから……。それに気付かせてくれたのはリザミィさんとライジャーくんのお陰だよ。ボクの方こそお礼を言わなくちゃ」

 なんだか初めて会った時よりも、ボンボの表情は明るくなっているような気がする。これがKEMOに来たお陰なら同僚としても嬉しい限りだ。
 リザミィは微笑んだ。

「これからはどんどん胸を張っていくべきよ! なんならいつかお店を開いてもいいんじゃないかしら。その時は、私は割引価格でよろしくね」
「ケチくせぇ女だな」
「あら、ギャンブルで大勝ちしてる炯眼けいがんの青龍さんには言われたくないわ」

 ライジャーはぴくっと肩を揺らした。恥ずかしげに顔を歪めている。
 これはいいおもちゃを見つけたかもしれない。リザミィはほくそ笑む。

「あれ、リザミィさんもその名前知ってるんだ」
「ちょっと色々あってね」

 この様子だと、ボンボも既に知っているようだ。
 リザミィはニタリとライジャーに向かって笑ってみせた。

「言っとくけどな、オレが言い出したんじゃねぇからな。周りが勝手につけたあだ名だ」
「でも結構気に入ってるんでしょ」

 ライジャーは肉を焼きながら舌打ちをした。これはきっと図星だ。からかい甲斐がある。

「かっこいいよね。ボクもそういう名前で呼ばれてみたいなぁ」
「シェフボンボも十分かっこいいわよ」

 リザミィの言葉に、ボンボは目尻を下げた。

「そうだシェフボンボ、折り入ってお願いがあるんだけど」

 リザミィが姿勢を正すと、ボンボは数回瞬きをした。

「今度、私に料理を教えてくれないかしら」

 リザミィは料理が苦手だ。今回の件でよく思い知った。
 苦手なものは苦手なままでもいいのかもしれない。ボンボが前に言っていたように、苦手なことを無理する必要はないだろう。いくらだってやりようはある。
 だが、リザミィが描く魔王との結婚生活には手料理が必要不可欠なのだ。
 ちょっとずつでもいいから、克服したい。
 いつかは私の力だけで作った手料理で、魔王様に喜んでもらいたいから。

「もちろんいいよ」

 ボンボは大きく頷いた。
 ライジャーは憎たらしい笑みを浮かべている。

「あの殺人的な料理は一刻も早くどうにかするべきだしな」
「あんたにはもう食べさせることはないから安心して」
「言われなくても、こっちから願い下げだっつーの」

 苦笑したボンボはリザミィに尋ねる。

「何から作ってみる?」
「決まってるでしょ、魔王様の大好物カレーライスよ!」

 声高らかに宣言しながら、リザミィは網の上の肉を全て箸でかっさらった。
 ずっとこの隙をうかがっていた。ふふふ、勝ったわ。

「うあぁっ!?」
「オマッ、なにしやがるッ!? オレの最後の肉が!」

 リザミィは絶叫する二人に向かって満面の笑みを讃えた。

「なーに? あんたたち知らないの? 焼肉は戦争なのよ?」

 するとボンボが目にも止まらぬ速さでシュビッと素早く片手を上げた。

「すみませーん。お肉追加で」
「あぁッ! てめぇボンボ! オレが全額払うって知ってて注文してるだろッ!?」
「私もアイス頼んじゃおっかなぁ。いいわよね、炯眼けいがんの青龍さん?」
炯眼けいがんの青龍くんはきっと多めに見てくれるよ」
「そうよねー」
「クッソ、オマエら覚えてろよ……!」

 にこやかに笑い合うリザミィとボンボとは裏腹に、ライジャーは悔しそうにぎりぎりと歯を食いしばっていた。
 店内で一番賑やかな一席は、しばらく静かになることはなかった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...