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Episode1 愛のこもったプレゼントでお近づき大作戦!

1-8 理解出来ない

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 リザミィは変わっている。変人だ。近付かない方が良い。魔王と結婚なんて頭がどうかしている。
 魔王軍ではずっとそんな風に言われ続けてきた。
 リザミィには、その言葉の意味が全く理解出来なかった。
 だってそうじゃない? 誰かを好きになるって変なこと?
 好きな誰かのために何かをするって、そんなに変なことなのかしら?

 心の底から大好きな相手がいて、その相手が幸せになれることを一番に考えて行動する。
 こんなに幸せなこと、他にないでしょう?
 相手からの見返りが欲しいわけじゃない。自分が相手に、何かを捧げたいのだ。
 リザミィの中ではそれが当たり前のことだった。
 そのためなら自分の命だって投げ出しても構わない。相手がそれで幸せになれるのなら。
 だって、魔王様はそれくらい私にとって大切な人だから。

 リザミィは魔王城の地下にある小汚いKEMO本部で、クシュナ高山へ出発する準備を一人で進めていた。
 倉庫の現状を見れば見るほど、組織の本部と呼ぶには程遠い。なので今はまだ倉庫と呼ぶことにする。
 時間を見つけて綺麗に掃除しよう。これから働いていく場所であるのだから、散らかっていたらモチベーションが高まらない。魔王グッズでデコレーションするのも楽しみだ。

 倉庫には、ロッカールームにあったリザミィの荷物が段ボール箱に入って届けられていた。
 誰かに乱雑に詰め込まれたせいで、お気に入りの魔王ポスターが皺になっていた。本当は今すぐ皺伸ばしをしたいところだが、渋々後回しだ。
 リザミィの荷物の横には、段ボール箱が二箱置かれていた。おそらくライジャーとボンボのものだろう。
 もしかすると、二人はもう来ないかもしれないけれど。

 リザミィはサイドパックに荷物を詰めながら、小さく息を吐いた。
 自分は悪いことはしていない、と思う。だってそうでしょ。
 リザミィたちが配属になったKEMOの仕事は、魔王を喜ばせることだ。
 魔王を喜ばせるためならどんなことでもするべきだ。リザミィはそこになんの疑問も抱いていない。
 でも二人にとってそれは、あくまでも魔界デスガルドの消滅を食い止めるためだけのもの。
 魔王を喜ばせるだけなら、出来るだけリスクの少ない仕事を選びたい思うのは当然のことかもしれない。

 リザミィは想像力を働かせる。
 もしも仮に、ライジャーみたいなやつが魔王だったとして、そんなやつのご機嫌取りをしないといけなかったとしたら? 
 ……確かに、わざわざ自分の身を危険に晒したくはないかも。
 リザミィと二人の間に、大きな意識の違いがあったことについては理解しているつもりだった。
 なのに今更後悔するなんてどうかしている。リザミィは自分に言い聞かせた。
 私は魔王様のために生きている。彼らはそうじゃない。
 バンドミュージシャンとかでよくある、方向性の違いというやつだ。バンドと違って厄介なのは、じゃあ解散、と簡単には出来ないということだ。
 全部自分が決めるのではなく、もっと二人に相談してみるべきだったかな、と少し思っている。なんでもかんでも自我を通したのは、リザミィは二人よりも、魔王のことを考えているという自信があったに他ならない。

 リザミィは頭を横に振った。
 やめやめ。今更後悔しても遅い。たとえ一人になったとしても、仕事はきちんとやり遂げなければ。
 いつも遠出する時にお守りとして持ち歩いている、魔王キーホルダーをサイドパックにつける。デフォルメされたかわいい魔王を見つめていると幾分か心が和んでくれた。

「あの」

 びくっとリザミィの肩が跳ねた。
 一人だけだと思っていた倉庫の中で、いきなり自分以外の声が聞こえたらそりゃ驚きもする。
 振り返ると、リザミィの後ろにボンボが立っていた。ボンボの手にはチョコバーのようなものが握られている。きっとおやつなのだろう。

「も、もうボンボ。びっくりさせないでよ……。あんたの荷物も届いてたわよ。荷解きしたら?」

 ボンボはチョコバーをぎゅっと握り締め、無言で俯いていた。そんなに握ったらチョコが溶けてしまわないだろうか。彼はリザミィに何か言いたげだ。

「どうしたの? ブラッディローズのことなら気にする必要ないわよ。……ああでも、私一人だけお城からいなくなってたら、ベイディオロが不振に思うだろうから、そこは上手い感じで誤魔化しといてね」

 リザミィは出来るだけ明るく言ってみたが、ボンボはニコリともしてくれない。

「リザミィさん……他のプレゼントじゃだめなのかなあ」
「ええ」

 リザミィは即答した。

「けどボクは、リザミィさんがどうしてそこまでブラッディローズにこだわるのかが、わからないんだ」
「言ったでしょ、情熱的で素晴らしい花だって。私の愛を伝えるには、これ以上も以下もないのよ」
「う、うん。……だけど」

 ボンボは大きな体を縮め、上目遣いでリザミィを見た。チョコバーのパッケージがしわしわになっている。

「確かにブラッディローズは愛を伝える花の定番だけど……それならレッドローズだって、同じ意味だよね? ゴブリンさんも買っていってたし。単にリザミィさんの好みなのかもしれないけど……。もしかしたら、ブラッディローズを選ぶ特別な理由が他にあるのかなって、思って」

 リザミィはサイドパックに荷物を詰める手を止め、眉を僅かに動かした。
 このオーク、見かけによらず鋭い。リザミィは笑顔を作る。

「ふーん? どうしてそう思ったの?」
「ハーピィさんが、ゴブリンさんがレッドローズも買ってたよって話してた時、リザミィさん「愛を伝えるのにはぴったりね」って言ってたでしょ。リザミィさんにとって、そこの部分はブラッディローズもレッドローズも同じなんだなって気付いたんだ。だったら、他になにかブラッディローズにこだわる理由があるんじゃないかって……」
「凄いわねボンボ。相手のことを良く見てるのねぇ」

 ここまで言われたら誤魔化しは効かない。ボンボにはちゃんと話すしかないだろう。

「……ご想像の通り、私がブラッディローズを魔王様にプレゼントしたい理由は、単に愛を伝えたいだけじゃない。他にも理由があるの。むしろそっちが本命」

 リザミィは人差し指を自分の口元にあてた。

「でも、これは他の人には絶対秘密ね」
「うん」

 サイドパックに荷物を詰め終わったリザミィは、蓋を閉めてから話を続けた。
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