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第九章 突き抜けた先にあるもの
第七十九話 影の薄い告白流星群
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楓はベンチに座りボケーっとしていた。
用務員にフラれたこと。
老木の遺言について。
自分のこと。
祖母のこと。
のど自慢大会のこと。
ほかにも色々。
考えることが多すぎて、脳がパンクしていた。考えても考えても考えがまとまらず、体は綿あめを糖分として吸収するマシーンと化していた。
そんな状態のせいなのか、それとも相手の影が薄すぎるせいか、近づいてくる人物に全く気付いていなかった。
「やっとみつけました」
突然声をかけられて、楓は錆び付いたロボットのように、ギギギとぎこちなく首を回した。
「青木さん、小生と付き合ってください!」
いきなり現れた少年は、腰を直角に曲げて、手をまっすぐに差し出した。
思考が追い付かず、相手のつむじをじっと見つめてしまう。
(なにこの状況?)
突拍子の無さに漠然とした既視感を感じながら、頭を活性化させ始める。
徐々に思考が鮮やかになった楓は、視線を右往左往させながら顔が真っ赤なうえに汗だくな少年に焦点を合わせた。
(同じ中学校の子だ)
楓が見ていたのは、少年の顔でも頭でもなく、服装だった。
夏祭りに似合わない、長袖の学生服を着ている上に、応援団がつける様なハチマキをしめていた。一見暑苦しそうだが、実際に少年の周囲には蜃気楼が発生している。
蜃気楼と存在感の薄さが相まって、幽霊のようにも見える。
少年の髪はベトベトにテカっており、顔面はタラタラと汗が流れ続けている。その姿を見て、楓はつい心配してしまう。
(えっと、とりあえず何か飲み物でも――)
一瞬、周囲を見渡して出店や自販機を探した。しかしすぐに頭を振る。
(いやいや、そうじゃなくて)
楓は告白されているのだ。そんなことをする場面ではない。
反応が鈍い楓を見て、少年はもう一度叫んだ。
「青木さん、小生と付き合ってください!」
「ん?」
("小生"ってなに?)
文脈からして一人称であることは予想できる。しかし"小生"という言葉には聞き覚えがなかった。
もしかしたら自分の名前を一人称にしているのかもしれない、と考えて、目の前の少年を"小生君"と呼ぶことにした。
「思い出してもらえましたか?」
「思い出す……?」
そう言われると、何かを思い出しそうになる。しかしぼんやりとした輪郭だけで、要領を得ない。まるで雲をつかむような気分だった
そこに、核心の一言が投げかけられる。
「小生は、SNSで告白した愚かな男でございます」
「あっ!」と楓は思わず大きな声をあげた。
さっきまで忘れていた記憶が、一気に蘇っていく。SNSで告白されたこと。色々考えた末に面倒になって、オーケーしてしまったこと。その後、すっかり忘れてしまっていたこと。
思い出せば思い出すほど、楓の顔に申し訳なさが滲んでいく。
「思い出してもらえたようで、何よりです」
「……ごめんなさい」
バツが悪くなって、つい目を背けてしまう。これ以上相手の顔を見るのが怖かった。
(まあ、文句や暴言の一つや二つ、言われるよね)
大きく息を吸い込む音が聞こえて、楓はとっさに身構えた。
「小生と付き合ってください!」
「え?」
予想に反して、小生君が口にしたのは、三度目の告白だった。その行為は執拗ともとることができるが、楓の心にはじんわりと響いていた。
ようやく小生君の顔を見る。特徴が無い顔だ。普通『特徴が無い』というのは『顔が整っている』という印象になるはずなのだが、彼の場合は本当に印象的なパーツがないのだ。
しかし能面というわけではなく、緊張の中にも、晴れやかな気持ちが見え隠れした表情を浮かべていた。
そして、自分に向けて手が突き出されている。緊張と暑さのせいで汗だらけだ。清潔感とはかけ離れている。きれい好きな人なら触れるのも忌避感があるだろう。
スッ、と。一瞬、手が伸びかける。しかしすぐにと我に返って、手をひっこめた。
(なんなんだろう、この気持ち)
楓は自分の中に湧き上がる感情に戸惑っていた。
「なんで、わたしのことを好きになったの?」
その答えを聞けば、自分の気持ちを整理できる気がした。自分が少しだけ、前に進める気がした。
小生君は、汗でふやけた唇をゆっくり開く。
「青木さんは、小生に優しくしてくれました」
まるで遠い昔の記憶を懐かしむような口調で語り出す。しかし実際はたった数か月前の出来事だ。
「その日、小生はとても凹んでおりました。テストの点数は悪いし、移動教室では置いていかれるし、トボトボと家に帰ると、青木さんが 商店街の魚屋です。
小生が控えめに挨拶をすると、青木さんは元気よく返してくれました。さらには『大丈夫?』と声をかけてくれました。それだけでも嬉しかったんですけど、次の日、学校にいくと――」
その後しばらく、いくつものエピソードが語られていった。
(あれ? そんなことあったっけ)
楓が忘れているほど、それらは些細なきっかけだった。
(というか、魚屋さんの息子だったんだ。いつもすぐに消えちゃうからわからなかった)
あのエネルギッシュな母親から、ここまで影の薄い子供が生まれるのか、と感想を抱きながら静かに生暖かい息を吐く。
「小生はあの顔に一目惚れをしました。それから、ずっと後ろ姿を眺めていました」
楓は何も言わず、ただ耳を傾け続ける。
(不思議な気分)
小生君の恋のきっかけは、楓にとっては特別なものではなかった。好かれたくてした行動でもないし、そんなことで自分のことを好きになってくれる人が、いる。しかも何度も告白してくれる程に。
「改めて、言います」
男子生徒の瞳には決意がみなぎっていた。楓はそれを見つめ続ける。
反射的に固唾を呑んでしまう。
「本当に好きなんです。今付き合えるなら、明日死んでもいいとおもえるくらい」
楓は、口の中で何かを転がす様に舌を動かした。いざ声を出そうとした瞬間、息も吸えない自分に驚く。
やっと言葉にできたのは、答えではなかった。
「ごめん、一つ聞いていい?」
「なんでしょうか」
小生君は真摯な眼差しを向ける。
「もしわたしが、君が思っているよう優しい人間じゃなくて、本当はどうする?」
彼から見たわたしは、実際のわたしより美化されているかもしれない。そう考えての発言だった。
「もしそうだったら、そうだった時に考えます」
深呼吸をしてから、続ける。
「でも、今小生が青木さんが好きなのは、本当のことなので。未来がどうなろうとも、今この気持ちに嘘はつけません」
楓はむずがゆくなって、手を握りしめた。
(そこは嘘でも愛します、とは言わないんだ)
しかし少し不満に思っても、落胆はしなかった。それどころか、目の前の少年のことが少し輝いて見え始める。
(なんでなんだろう)
楓の中では色んな感情が渦巻いていた。自分でもわからない
一瞬、思い浮かんだのは、先ほどの用務員とのやりとりだった。告白してフラれた。やんわりと、曖昧に、そして褒められながら。きっと後腐りの無いように断るのが大人の世渡り術なのだろう。
(不思議だ)
ほんの十数分前に告白して、今は自分が告白されている。それだけ書けば少女漫画みたいだ。いや、三角関係の愛憎劇かもしれない。どちらにせよ、現実はもっと幼稚だ。
ゆっくりと、気づかれないように、乾いた唇を舐める。
今度の言葉はすんなりと出る。
「ごめん。付き合えない」
ヒュッと短く息を吸い込む音が、雑踏の中ではっきりと聞こえた。
(もし彼がわたしに助けを求めるようにしたり、軽薄に告白してきていたら、オーケーしたかもしれない)
本気でぶつかってきたからこそ、楓は真摯に答えようと思ってしまった。いや、曖昧な返事が残酷だと知ったからかもしれない。
「どうしてですか? 小生のダメなところは直します。なんでもします」
そういう顔は真剣さに満ち満ちていた。整形して来いと言えばあっさりしてしまいそうな程だ。
(なんでこんな顔をできるんだろう)
告白を断られた人の顔には見えなかった。考えられる理由は一つだけだった。
「断られるとわかっていたの?」
男子生徒は静かに頷いた。
「小生はこんなですから。覚悟してました。でも、諦めませんよ」
「……そっか」
楓は呟くと、おもむろに小生君に近づいていく。
値踏みをするように、少年の顔をじっと見つめる。小生君は顔を赤らめながらも、耐え続けていた。
楓は決意をしていた。男子生徒が真剣な告白をしてきたのだから、真剣な告白で返そう、と。
(今なら言えるかも)
この想いを誰かに告げるのは初めてだ。恥ずかしい以前にヘンテコな恋心だから。
「好みじゃない。若すぎる。または幸薄そうな少女になってきて」
「……はえ?」
楓の突拍子もない言動に、小生君は呆気に取られていた。
(こればっかりは、どうしようもない。好みは仕方ないでしょ)
ずっと胸の内に隠した性癖を打ち明けたことで、視界が少し晴れ晴れとした。
「あ、あの、なんて言いました?」
男子生徒の顔が引きつっていた。
その顔を見ていると、もっと具体的に、はっきりと言ってみたくなって
「ごめんね。わたし、ナイスダンディか美人薄命な少女しか愛せないから」と言い切った。
瞬間、風が吹き抜けた。胸が空く想いで、満たされていく。
強く思う。なんで隠してたんだろう、と。それ程までにカミングアウトが気持ちよかった。
そんな楓とは裏腹に、小生君は打ちひしがれていた。それでも瞳の闘志は残っていた。
「せめて母上のマグロの解体ショーは見に来てください。小生もアシスタントとして出るので!」
小生君は気丈に言い切ると「うおおおおおぉぉぉぉぉ」と絶叫しながら走り去った。
今度は楓が呆気にとられる番だった。
(悪いことしたかも)
でも、と更なる自分の気持ちに気付く。
(なんだかいい気分)
どうやってお詫びしようか、と考えながら、とりあえずマグロの解体ショーを見に行くことにした。
用務員にフラれたこと。
老木の遺言について。
自分のこと。
祖母のこと。
のど自慢大会のこと。
ほかにも色々。
考えることが多すぎて、脳がパンクしていた。考えても考えても考えがまとまらず、体は綿あめを糖分として吸収するマシーンと化していた。
そんな状態のせいなのか、それとも相手の影が薄すぎるせいか、近づいてくる人物に全く気付いていなかった。
「やっとみつけました」
突然声をかけられて、楓は錆び付いたロボットのように、ギギギとぎこちなく首を回した。
「青木さん、小生と付き合ってください!」
いきなり現れた少年は、腰を直角に曲げて、手をまっすぐに差し出した。
思考が追い付かず、相手のつむじをじっと見つめてしまう。
(なにこの状況?)
突拍子の無さに漠然とした既視感を感じながら、頭を活性化させ始める。
徐々に思考が鮮やかになった楓は、視線を右往左往させながら顔が真っ赤なうえに汗だくな少年に焦点を合わせた。
(同じ中学校の子だ)
楓が見ていたのは、少年の顔でも頭でもなく、服装だった。
夏祭りに似合わない、長袖の学生服を着ている上に、応援団がつける様なハチマキをしめていた。一見暑苦しそうだが、実際に少年の周囲には蜃気楼が発生している。
蜃気楼と存在感の薄さが相まって、幽霊のようにも見える。
少年の髪はベトベトにテカっており、顔面はタラタラと汗が流れ続けている。その姿を見て、楓はつい心配してしまう。
(えっと、とりあえず何か飲み物でも――)
一瞬、周囲を見渡して出店や自販機を探した。しかしすぐに頭を振る。
(いやいや、そうじゃなくて)
楓は告白されているのだ。そんなことをする場面ではない。
反応が鈍い楓を見て、少年はもう一度叫んだ。
「青木さん、小生と付き合ってください!」
「ん?」
("小生"ってなに?)
文脈からして一人称であることは予想できる。しかし"小生"という言葉には聞き覚えがなかった。
もしかしたら自分の名前を一人称にしているのかもしれない、と考えて、目の前の少年を"小生君"と呼ぶことにした。
「思い出してもらえましたか?」
「思い出す……?」
そう言われると、何かを思い出しそうになる。しかしぼんやりとした輪郭だけで、要領を得ない。まるで雲をつかむような気分だった
そこに、核心の一言が投げかけられる。
「小生は、SNSで告白した愚かな男でございます」
「あっ!」と楓は思わず大きな声をあげた。
さっきまで忘れていた記憶が、一気に蘇っていく。SNSで告白されたこと。色々考えた末に面倒になって、オーケーしてしまったこと。その後、すっかり忘れてしまっていたこと。
思い出せば思い出すほど、楓の顔に申し訳なさが滲んでいく。
「思い出してもらえたようで、何よりです」
「……ごめんなさい」
バツが悪くなって、つい目を背けてしまう。これ以上相手の顔を見るのが怖かった。
(まあ、文句や暴言の一つや二つ、言われるよね)
大きく息を吸い込む音が聞こえて、楓はとっさに身構えた。
「小生と付き合ってください!」
「え?」
予想に反して、小生君が口にしたのは、三度目の告白だった。その行為は執拗ともとることができるが、楓の心にはじんわりと響いていた。
ようやく小生君の顔を見る。特徴が無い顔だ。普通『特徴が無い』というのは『顔が整っている』という印象になるはずなのだが、彼の場合は本当に印象的なパーツがないのだ。
しかし能面というわけではなく、緊張の中にも、晴れやかな気持ちが見え隠れした表情を浮かべていた。
そして、自分に向けて手が突き出されている。緊張と暑さのせいで汗だらけだ。清潔感とはかけ離れている。きれい好きな人なら触れるのも忌避感があるだろう。
スッ、と。一瞬、手が伸びかける。しかしすぐにと我に返って、手をひっこめた。
(なんなんだろう、この気持ち)
楓は自分の中に湧き上がる感情に戸惑っていた。
「なんで、わたしのことを好きになったの?」
その答えを聞けば、自分の気持ちを整理できる気がした。自分が少しだけ、前に進める気がした。
小生君は、汗でふやけた唇をゆっくり開く。
「青木さんは、小生に優しくしてくれました」
まるで遠い昔の記憶を懐かしむような口調で語り出す。しかし実際はたった数か月前の出来事だ。
「その日、小生はとても凹んでおりました。テストの点数は悪いし、移動教室では置いていかれるし、トボトボと家に帰ると、青木さんが 商店街の魚屋です。
小生が控えめに挨拶をすると、青木さんは元気よく返してくれました。さらには『大丈夫?』と声をかけてくれました。それだけでも嬉しかったんですけど、次の日、学校にいくと――」
その後しばらく、いくつものエピソードが語られていった。
(あれ? そんなことあったっけ)
楓が忘れているほど、それらは些細なきっかけだった。
(というか、魚屋さんの息子だったんだ。いつもすぐに消えちゃうからわからなかった)
あのエネルギッシュな母親から、ここまで影の薄い子供が生まれるのか、と感想を抱きながら静かに生暖かい息を吐く。
「小生はあの顔に一目惚れをしました。それから、ずっと後ろ姿を眺めていました」
楓は何も言わず、ただ耳を傾け続ける。
(不思議な気分)
小生君の恋のきっかけは、楓にとっては特別なものではなかった。好かれたくてした行動でもないし、そんなことで自分のことを好きになってくれる人が、いる。しかも何度も告白してくれる程に。
「改めて、言います」
男子生徒の瞳には決意がみなぎっていた。楓はそれを見つめ続ける。
反射的に固唾を呑んでしまう。
「本当に好きなんです。今付き合えるなら、明日死んでもいいとおもえるくらい」
楓は、口の中で何かを転がす様に舌を動かした。いざ声を出そうとした瞬間、息も吸えない自分に驚く。
やっと言葉にできたのは、答えではなかった。
「ごめん、一つ聞いていい?」
「なんでしょうか」
小生君は真摯な眼差しを向ける。
「もしわたしが、君が思っているよう優しい人間じゃなくて、本当はどうする?」
彼から見たわたしは、実際のわたしより美化されているかもしれない。そう考えての発言だった。
「もしそうだったら、そうだった時に考えます」
深呼吸をしてから、続ける。
「でも、今小生が青木さんが好きなのは、本当のことなので。未来がどうなろうとも、今この気持ちに嘘はつけません」
楓はむずがゆくなって、手を握りしめた。
(そこは嘘でも愛します、とは言わないんだ)
しかし少し不満に思っても、落胆はしなかった。それどころか、目の前の少年のことが少し輝いて見え始める。
(なんでなんだろう)
楓の中では色んな感情が渦巻いていた。自分でもわからない
一瞬、思い浮かんだのは、先ほどの用務員とのやりとりだった。告白してフラれた。やんわりと、曖昧に、そして褒められながら。きっと後腐りの無いように断るのが大人の世渡り術なのだろう。
(不思議だ)
ほんの十数分前に告白して、今は自分が告白されている。それだけ書けば少女漫画みたいだ。いや、三角関係の愛憎劇かもしれない。どちらにせよ、現実はもっと幼稚だ。
ゆっくりと、気づかれないように、乾いた唇を舐める。
今度の言葉はすんなりと出る。
「ごめん。付き合えない」
ヒュッと短く息を吸い込む音が、雑踏の中ではっきりと聞こえた。
(もし彼がわたしに助けを求めるようにしたり、軽薄に告白してきていたら、オーケーしたかもしれない)
本気でぶつかってきたからこそ、楓は真摯に答えようと思ってしまった。いや、曖昧な返事が残酷だと知ったからかもしれない。
「どうしてですか? 小生のダメなところは直します。なんでもします」
そういう顔は真剣さに満ち満ちていた。整形して来いと言えばあっさりしてしまいそうな程だ。
(なんでこんな顔をできるんだろう)
告白を断られた人の顔には見えなかった。考えられる理由は一つだけだった。
「断られるとわかっていたの?」
男子生徒は静かに頷いた。
「小生はこんなですから。覚悟してました。でも、諦めませんよ」
「……そっか」
楓は呟くと、おもむろに小生君に近づいていく。
値踏みをするように、少年の顔をじっと見つめる。小生君は顔を赤らめながらも、耐え続けていた。
楓は決意をしていた。男子生徒が真剣な告白をしてきたのだから、真剣な告白で返そう、と。
(今なら言えるかも)
この想いを誰かに告げるのは初めてだ。恥ずかしい以前にヘンテコな恋心だから。
「好みじゃない。若すぎる。または幸薄そうな少女になってきて」
「……はえ?」
楓の突拍子もない言動に、小生君は呆気に取られていた。
(こればっかりは、どうしようもない。好みは仕方ないでしょ)
ずっと胸の内に隠した性癖を打ち明けたことで、視界が少し晴れ晴れとした。
「あ、あの、なんて言いました?」
男子生徒の顔が引きつっていた。
その顔を見ていると、もっと具体的に、はっきりと言ってみたくなって
「ごめんね。わたし、ナイスダンディか美人薄命な少女しか愛せないから」と言い切った。
瞬間、風が吹き抜けた。胸が空く想いで、満たされていく。
強く思う。なんで隠してたんだろう、と。それ程までにカミングアウトが気持ちよかった。
そんな楓とは裏腹に、小生君は打ちひしがれていた。それでも瞳の闘志は残っていた。
「せめて母上のマグロの解体ショーは見に来てください。小生もアシスタントとして出るので!」
小生君は気丈に言い切ると「うおおおおおぉぉぉぉぉ」と絶叫しながら走り去った。
今度は楓が呆気にとられる番だった。
(悪いことしたかも)
でも、と更なる自分の気持ちに気付く。
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