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第二章 日向ぼっこで死のうとする少女
第十二話 じっとしているだけで来られる別世界③
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「どうですか?」と音流の囁きに陸は
「いい感じ」と目を閉じたまま返した。
たったそれだけのやり取りで、二人は通じ合った気がした。
「日向ぼっこの真髄が分かってきましたね」
「そうでもないよ」と陸は夢心地に息をつく。
「鈴木くんのこと、同志と呼んでもいいですか?」
「いいよ」
陸は深く考えずに返事をした。それ程までに心地よくまどろんでいる。
「お、青春しているな若人たち」
しかし穏やかな時間は快活な声に邪魔されてしまう。気だるげに目を開けると、見下ろしている美しい顔が視界に映った。
「なんですか。サボリですか」と低く唸るように陸が吐き捨てると
「買い出しだ。いい筋トレになる」と清水は爽やかに歯を見せた。
(筋トレってなんだよ)
清水の手に視線を移すと、二つのレジ袋を持っていたのだが、問題なのは入っている中身だった。飲み物や粉物がパンパンに詰められており、見るからに重いとわかる。しかし当の清水は涼し気な表情を一切崩していない。
それどころか、まだ負荷が物足りないのか、レジ袋をダンベルのように上下させており、陸は涼やかな視線を送り始めた。しかし全く動じることはなく、陸の隣にいる少女に語り掛け始めた。
「君はたしか、楓ちゃんと一緒に来店してくれた子だよね? 日向さんだっけ」
「そうです! 覚えていただき恐悦至極でございます!」
恐悦とはどこ吹く風か、ハツラツな声とともに敬礼した。しかし表情筋は強張っており、動きはどこかぎこちない。イケメンの前で緊張しているのだろう。
「おお、元気だな。やっぱり若いっていいなぁ」
「年寄臭いですよ」
「じゃあ年寄りにはもう少し優しくしてほしいもんじゃな」
「冗談はされておき、何か用があるんですか?」
「これでも俺なりに心配しているんだぞ」
「心配、ですか?」
「鈴木も楓ちゃんも大人しいから、最近の若者はそんな感じなのかと憂いていたが、ちゃんとこんな子もいるんだなとしみじみしてな」
楓と同列に扱われたことが不服で陸はわずかに頬を膨らませた。
「ウチはいつでも元気100倍の100%勇気リンリンです!」
陸とは対照的に、音流は元気さをアピールするかのようにピョコピョコと飛び跳ねた。清水に褒められたことが余程うれしかったのだろう。
「気に入った! どうだ今度ジムに体験しに来ないか?」
「ジムですか……。すみません、興味はあるんですけど運動は苦手なんです」
音流はみるみるテンションが下がっていった。
「いいんだ。苦手でも努力することが大切なんだ」
「でも、迷惑になりませんか?」
「迷惑なんて気にするな。皆最初はできなくて当たり前なんだ」
輝かしいイケメンに優しい言葉を掛けられて感極まった音流はピンとまっすぐ手を挙げて
「是非とも行かせていただきます!」と元気よく快諾した。
それを聞いた清水は「よし!」と満足気に頷いた後、陸の方を見た。
(こっちを見るな。シッシッ)
対岸の火事だと思って傍観していたのだが、視線を感じた瞬間に苦虫を噛んだように顔を歪めた。しかしながら意を汲まれることはない。
「お前も来るよな」
陸の答えは決まっていた。運動も嫌いだし、筋トレをする必要性すら一切感じていないし、部活動ならまだしもジムに行ってまで人前で運動するのは恥ずかしい。
「僕は遠慮」と言いかけたところで
「同志。一緒に行きませんか」と音流に割り込まれた。
(同志かぁ)
陸は日向ぼっこに魅了され始めていた。その理由も恩義も音流にあるのは間違いなく、その上、同志という呼び名も気に入っており、端的に言えば絆されている。
「ダメですか? 同志」
音流の上目遣いが最後の一押しだった。
「……わぁったよ」
陸は渋々ながらも承諾した。
パァッと顔を明るくした音流につられて陸も頬を綻ばせた。しかしすぐに反骨精神を取り戻し、あるアイディアが浮かんだ。
「でも、もう一人女子がいたほうがいいと思うんですよ」
(せっかくだから巻き込んでやろう)
陸は悪い表情を浮かべて、提案をするのだった。
「いい感じ」と目を閉じたまま返した。
たったそれだけのやり取りで、二人は通じ合った気がした。
「日向ぼっこの真髄が分かってきましたね」
「そうでもないよ」と陸は夢心地に息をつく。
「鈴木くんのこと、同志と呼んでもいいですか?」
「いいよ」
陸は深く考えずに返事をした。それ程までに心地よくまどろんでいる。
「お、青春しているな若人たち」
しかし穏やかな時間は快活な声に邪魔されてしまう。気だるげに目を開けると、見下ろしている美しい顔が視界に映った。
「なんですか。サボリですか」と低く唸るように陸が吐き捨てると
「買い出しだ。いい筋トレになる」と清水は爽やかに歯を見せた。
(筋トレってなんだよ)
清水の手に視線を移すと、二つのレジ袋を持っていたのだが、問題なのは入っている中身だった。飲み物や粉物がパンパンに詰められており、見るからに重いとわかる。しかし当の清水は涼し気な表情を一切崩していない。
それどころか、まだ負荷が物足りないのか、レジ袋をダンベルのように上下させており、陸は涼やかな視線を送り始めた。しかし全く動じることはなく、陸の隣にいる少女に語り掛け始めた。
「君はたしか、楓ちゃんと一緒に来店してくれた子だよね? 日向さんだっけ」
「そうです! 覚えていただき恐悦至極でございます!」
恐悦とはどこ吹く風か、ハツラツな声とともに敬礼した。しかし表情筋は強張っており、動きはどこかぎこちない。イケメンの前で緊張しているのだろう。
「おお、元気だな。やっぱり若いっていいなぁ」
「年寄臭いですよ」
「じゃあ年寄りにはもう少し優しくしてほしいもんじゃな」
「冗談はされておき、何か用があるんですか?」
「これでも俺なりに心配しているんだぞ」
「心配、ですか?」
「鈴木も楓ちゃんも大人しいから、最近の若者はそんな感じなのかと憂いていたが、ちゃんとこんな子もいるんだなとしみじみしてな」
楓と同列に扱われたことが不服で陸はわずかに頬を膨らませた。
「ウチはいつでも元気100倍の100%勇気リンリンです!」
陸とは対照的に、音流は元気さをアピールするかのようにピョコピョコと飛び跳ねた。清水に褒められたことが余程うれしかったのだろう。
「気に入った! どうだ今度ジムに体験しに来ないか?」
「ジムですか……。すみません、興味はあるんですけど運動は苦手なんです」
音流はみるみるテンションが下がっていった。
「いいんだ。苦手でも努力することが大切なんだ」
「でも、迷惑になりませんか?」
「迷惑なんて気にするな。皆最初はできなくて当たり前なんだ」
輝かしいイケメンに優しい言葉を掛けられて感極まった音流はピンとまっすぐ手を挙げて
「是非とも行かせていただきます!」と元気よく快諾した。
それを聞いた清水は「よし!」と満足気に頷いた後、陸の方を見た。
(こっちを見るな。シッシッ)
対岸の火事だと思って傍観していたのだが、視線を感じた瞬間に苦虫を噛んだように顔を歪めた。しかしながら意を汲まれることはない。
「お前も来るよな」
陸の答えは決まっていた。運動も嫌いだし、筋トレをする必要性すら一切感じていないし、部活動ならまだしもジムに行ってまで人前で運動するのは恥ずかしい。
「僕は遠慮」と言いかけたところで
「同志。一緒に行きませんか」と音流に割り込まれた。
(同志かぁ)
陸は日向ぼっこに魅了され始めていた。その理由も恩義も音流にあるのは間違いなく、その上、同志という呼び名も気に入っており、端的に言えば絆されている。
「ダメですか? 同志」
音流の上目遣いが最後の一押しだった。
「……わぁったよ」
陸は渋々ながらも承諾した。
パァッと顔を明るくした音流につられて陸も頬を綻ばせた。しかしすぐに反骨精神を取り戻し、あるアイディアが浮かんだ。
「でも、もう一人女子がいたほうがいいと思うんですよ」
(せっかくだから巻き込んでやろう)
陸は悪い表情を浮かべて、提案をするのだった。
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