30 / 74
第1章 後編
30.再会
しおりを挟む
マレイは涙をぬぐうと、にっこりと笑って、「一緒に行きましょう」とささやいた。その途端、ロティアの心臓がバクバクと大きく鳴りだした。
とうとう会えるのだ、リジンに。
夢にまで見た、リジンに。
マレイはそっとロティアの手を取って立ち上がった。フフランはロティアの肩にとまる。
「きっと驚くけど、一番は喜ぶわ。大丈夫」
「は、はい……」
ロティアはうつむいたままヨタヨタした足取りで、マレイの後について歩き出した。
「おかえりなさい、父さん、リジン。早かったわねえ」
「雨が降って来たから、早めに切り上げたんだ」
「あら、濡れてるじゃない。今タオルを持ってくるわ。ロエルー、タオルを用意してくれる?」
マレイはロティアとつないでいた手をそっと離して、廊下の奥に消えていく。
ロティアが恐る恐る顔を上げると、リジンの祖父の隣に、濡れそぼったリジンが髪の水を絞っているのが見えた。
濃紺の髪から、涙のように美しい雫がぽたぽたとこぼれ、その先にリジンの美しい顔が見える。
「……リ、リジン」
消えそうな声で、そうささやく。
すると、下を向いて髪をつかんでいたリジンがピタリと動きを止めた。そしてゆっくりを顔を上げた。
ふたりの目が合う。
その途端ふたりの世界から、雨が地面を叩く音も、色とりどりの花の色も、水っぽい雨の匂いも消えて行った。
互いの存在だけが、暗闇の中で灯した火のように光って見える。
ロティアはその光景を目に焼き付けるのに必死で、他には何も考えられなかった。
口を動かすことすらできなかった。
「おや、見知らぬお嬢さんとハトさんだ」
「お邪魔してるぜ」
フフランは祖父のそばまで飛んでいき、お行儀よく頭を下げた。
「ロティアさんとフフランさんよ。リジンの誕生日をお祝いしに来てくださったの」
マレイにそっと肩を叩かれると、ロティアはようやくリジンから目をそらすことができた。
「ね、ロティアさん、フフランさん」
マレイは片目をパチンと閉じて微笑んだ。ロティアは小さくうなずいて、リジンに向き直る。
「そうなの。ごめんね、突然」
「いや、それは、うれしいけど。驚いちゃって……。ごめん、俺こそ」
リジンの方はまだぼんやりした目をしている。そんなところも懐かしく、ロティアはクスッと笑った。
「ううん。……おかえりなさい、リジン」
「おかえり、リジン!」
「……ただいま、ロティア、フフラン」
とうとう会えるのだ、リジンに。
夢にまで見た、リジンに。
マレイはそっとロティアの手を取って立ち上がった。フフランはロティアの肩にとまる。
「きっと驚くけど、一番は喜ぶわ。大丈夫」
「は、はい……」
ロティアはうつむいたままヨタヨタした足取りで、マレイの後について歩き出した。
「おかえりなさい、父さん、リジン。早かったわねえ」
「雨が降って来たから、早めに切り上げたんだ」
「あら、濡れてるじゃない。今タオルを持ってくるわ。ロエルー、タオルを用意してくれる?」
マレイはロティアとつないでいた手をそっと離して、廊下の奥に消えていく。
ロティアが恐る恐る顔を上げると、リジンの祖父の隣に、濡れそぼったリジンが髪の水を絞っているのが見えた。
濃紺の髪から、涙のように美しい雫がぽたぽたとこぼれ、その先にリジンの美しい顔が見える。
「……リ、リジン」
消えそうな声で、そうささやく。
すると、下を向いて髪をつかんでいたリジンがピタリと動きを止めた。そしてゆっくりを顔を上げた。
ふたりの目が合う。
その途端ふたりの世界から、雨が地面を叩く音も、色とりどりの花の色も、水っぽい雨の匂いも消えて行った。
互いの存在だけが、暗闇の中で灯した火のように光って見える。
ロティアはその光景を目に焼き付けるのに必死で、他には何も考えられなかった。
口を動かすことすらできなかった。
「おや、見知らぬお嬢さんとハトさんだ」
「お邪魔してるぜ」
フフランは祖父のそばまで飛んでいき、お行儀よく頭を下げた。
「ロティアさんとフフランさんよ。リジンの誕生日をお祝いしに来てくださったの」
マレイにそっと肩を叩かれると、ロティアはようやくリジンから目をそらすことができた。
「ね、ロティアさん、フフランさん」
マレイは片目をパチンと閉じて微笑んだ。ロティアは小さくうなずいて、リジンに向き直る。
「そうなの。ごめんね、突然」
「いや、それは、うれしいけど。驚いちゃって……。ごめん、俺こそ」
リジンの方はまだぼんやりした目をしている。そんなところも懐かしく、ロティアはクスッと笑った。
「ううん。……おかえりなさい、リジン」
「おかえり、リジン!」
「……ただいま、ロティア、フフラン」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

男装魔法使い、女性恐怖症の公爵令息様の治療係に任命される
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる