星空色の絵を、君に ~インクを取り出す魔法使いは、辺境訳アリ画家に絵を描かせたい~

唄川音

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第1章 後編

26.出発

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「あ、そうだ。魔剣が完成しました」

 試行錯誤の末に、わたしはクレアさんにふさわしい魔剣を作り出した。

「とうとう、ワタクシの魔剣が完成したのですか、キャルさん?」

 完成した魔剣を、クレアさんに見せる。

 はじめ、クレアさんは首をかしげていた。

「使い方が、わかりませんか? これは――」

「結構。自分で試したほうが、楽しそうですわ」

 用途を説明しようとしたのを、クレアさんは遮る。この人は、瞬時に理解したのだ。「使ってみたほうが早い」と。

「徒党を組んで、街を破壊せしめんとする狼藉者の方々。あなた方は魔剣のサビにされても、文句をいえませんわ。では、お覚悟を」

 クレアさんがさっそく、サハギン相手に魔剣を試してみた。

 見た目が剣っぽくないのに、試運転ですぐに用途を理解している。「優れた剣士はそんなもんだ」、って聞く。けど、クレアさんは桁違いだ。

『キャル、クレアのために作った魔剣、上出来じゃないか』

「そうだね。これほどまでとは、思っていなかったよ」

『アタシ様も、血が騒いじまって仕方ねえ。やるよ』

 レベッカちゃんのゾクゾクが、わたしにまで伝わってくる。

「うん。街を守らないとね」

 わたしも参戦し、サハギンを全滅させた。

「なるほど。わかりました」

 クレアさんは納得した様子で、魔剣を収める。白いゴリラの【トート】に持たせた。

「ありがとうございます。あなたの性格が、すごく反映された剣だと思いましたわ。こういう剣を、ワタクシは求めていたのです」

「気に入ってくださったなら、なにより」

「では、海底神殿へ参りましょう」

 神殿へ向かうため、まずは財団の屋敷に。

「街を救ってくれて、ありがとう。海底神殿に入る洞窟が、特定できた」

 海底神殿は文字通り、海の底にある。海へ潜って、入るワケにはいかない。なのに魔物は海底からやってくるため、神殿探しは難航していた。

 しかし、ようやく神殿と繋がっている洞窟を発見したらしい。

「現場には我々財団の他に、東洋の魔剣調査隊も向かったそうだ」

 さきほど、東洋の国から連絡があったとか。

「キャルさん、例のお二方でしょうか?」

「多分そうですね」

 クレアさんの質問に、わたしも同じ答えに行き着く。

「知っているのかね?」

 ヤトとリンタローと名乗る二人組と交戦になったと、会長に話した。

「あの二人を相手にして、生き残るとは。あっぱれだよ」

「その調査隊とは、どんな方なんです?」

「東洋にある北国の巫女姫様と、天狗だそうだよ」

 なんと、あちらもお姫様だったとは。

「かつてお姫様だった、と形容したほうがいいですね」

 シューくんが、話に割り込んできた。

「ヤト様は、北東の小国【ザイゼン】の王女で、神通力を扱う巫女様だったのです。けれど、かつてその国は、一族皆殺しの被害に遭っていたのです」

「もしかして、妖刀伝説で一度滅びた国っていうのは?」

「はい。そのザイゼン国です」

 ザイゼン国を血祭りにあげたのは、時の国王だった。自分でノドを切った姿で、発見されたらしい。しかし、肝心の妖刀はどこにも見当たらなかったそうだ。

「自決ではなく、殺されて妖刀を持ち去られたのでは、との説が濃厚です」

 小国となっても、ザイゼンはかろうじて生き残っている。ザイゼン国は調査隊を率いて、現在も妖刀の在り処を探しているとか。

「ですが、ザイゼンは神と通じる力を持ち、影響力は強いです。もし、悪い考えを持つ国なんかに連れ去られたら」

「わかりました。助けに向かいます」

「準備はできています。お気をつけて」

 シューくんたちに見送られ、わたしたちは海底神殿に通じるという洞窟へ出発した。
 
 

                                        *

 
 
 神殿に近いとされる、小島が見える。

 調査に来た冒険者やファッパの関係者が、サハギンと戦っていた。

 あそこに、洞窟があるに違いない。

「さっそく、戦が始まってるでヤンスねー」

 リンタローが、竜巻から飛び降りる。落ちた拍子で、サハギンの一体を押しつぶした。

 他の冒険者が、何事かとこちらを見る。

「ヤト、手を出す必要はないでヤンスよ」

 もとよりリンタローに任せるつもりだったので、ヤトはゆうゆうと竜巻から降りる。

 リンタローが、着物を脱ぐ。すぐさま、鉄扇に変化させた。

「ああ、ゾクゾクするでヤンス。あんなふうに殺気立たれたら、惚れっちまうでヤンスよ!」

 身体を震わせながら、リンタローは自らが竜巻になった。サハギンの集団を、旋風脚で蹴り飛ばす。

「ああ。刺激が足りないでヤンス! もっと強いやつは、いないんでヤンスか?」

 言っていた矢先、鉄球のようなパンチが飛んできた。しかも、立て続けに六発。

「およよっと!」

 リンタローは華麗にかわす。なんてことない動きのように見える。が、普通の冒険者には、できるものではない。

 パンチを繰り出した相手は、ボクサー型のイカである。イカ型の魔物は、触手すべてにグローブをはめている。絡め取るのではなく、触手をしならせて殴るタイプか。珍しい。

「そうこなくては、でヤンスね」

 対するリンタローも、やる気だ。

 こちらは、サハギンの数を減らす作業に専念するか。

 四方八方からくる触手パンチを、リンタローは手足だけで軽くさばく。風魔法で、肉体を強化しているのだ。

 リンタローは、風属性の天狗イースト・エルフである。
 だが、本職は格闘技能の専門家である【豪傑アデプト】だ。
 肉体を、風属性で強化している程度である。戦闘力は、魔力に依存しない。
 リンタローはエルフながら、フィジカルが強いのだ。

「リンちゃん、後ろ」

 エビの頭を持つ格闘家が、リンタローの背後に回った。

「わかってるでヤンスよ」

 背後から魔物に掴まれそうになるのを、リンタローは受け止める。両足だけでイカボクサーの連続パンチをすべてさばきながら。

「よっと」

 バク転し、リンタローは背後から攻撃してきた敵を迎え撃つ。

 モンスターは裏拳で、リンタローに殴りかかった。

 リンタローは、軽々と身をかわす。

 エビ格闘家の裏拳は、岩を砕き大木をなぎ倒した。

「その程度でドヤってされても、困るでヤンスよっ!」

 リンタローが、鉄扇を装備する。

「遊びは終わりでヤンス」

 鉄扇を振り回し、リンタローはイカボクサーの触手を切断した。

「変則的な動きは立派ですが、一発一発が遅すぎるでヤンス。死角を狙っているのが、バレバレでヤンス」

 イカボクサーの動きは、たしかに絶妙だ。とはいえマルチタスクなせいで、精彩を欠いている。

「倒すなら、一発で十分でヤンス」
 
 すべての腕を失ったイカボクサーの眉間に、リンタローの正拳突きがめり込んだ。

 イカボクサーが、灰になる。

 続いてリンタローは、エビレスラーにハイキックを叩き込んだ。

 しかし、エビレスラーは動じない。分厚い装甲に、キックの威力が相殺されている。

「上等上等。でヤンスが、それで勝ったとはいえないでヤンスね」

 リンタローは、エビの関節に蹴りを連続で叩き込んだ。

「いくら甲羅が固かろうが、可動部分はどうしたって脆くなるでヤンスよ」

 最後はリンタローの方が、エビを投げ飛ばす。

 尖った岩に背中を打ち付けて、エビが逆方向へ海老反りになった。

「ボハアアアアアア~♪」

 魔物の群れを率いていたセイレーンが、力の限り歌う。

 海が膨れ上がり、幽霊船が浮上してきた。いや、幽霊船の中には大ダコが。

「あれは、クラーケン」

「リーダー格モンスターの、お出ましのようでヤンスね」

 歌っているセイレーンを、クラーケンが飲み込む。

「あれはちょいと、厄介でヤンスよ」

 冒険者たちも触手に掴まれ、セイレーンと運命をともにするところだった。

 しかし、謎の雷光が冒険者たちを助け出す。

「おお、あなたはいつぞやの」

「冒険者の、クレアです」

 白いゴリラを連れた金髪の冒険者は、クレアと名乗った。

【トート】なんてネタ召喚獣を、連れているとは。

「そのゴリラ殿が持っているのは、魔剣でヤンスか」

「はい。ご紹介いたしますわ。これぞワタクシの魔剣。その名も、【地獄極楽右衛門ヘル・アンド・ヘブン】ですわ」

 クレアなる冒険者が持っていたのは、身の丈ほどに大きい一〇徳ナイフだった。
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