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青と
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その日、栞はすぐに眠れなかった。
今日見た様々な場面が頭の中に浮かんでくると、その時の興奮も一緒に湧き上がってきて、とても眠れなかったのだ。
「……っダメだ! 一回体を冷まさないとっ!」
一階のキッチンでコップの水を一杯飲み、ノロノロと階段を上って部屋に戻った。その間にも、頭の中に今日の映像が流れてくる。
栞は頭をブンブン振って、ベッドに入ろうとした。
その時、勉強机の上に置いてある青瀬のメモ書きが目に入った。タオルケットをつかんだ手を下ろして、メモ書きを手に取る。
ハジッコぐらしのキャラクターは、よく見ると野球のボールを持っている。しかも青瀬と同じ左手だ。
「ふふっ、これはサウスポーって言うんだよね」
栞はメモ書きを持ったまま、ベッドに寝転がった。
「青瀬も、今日見た選手たちみたいに、泥んこになって走るんだよね。うーん、やっぱり想像できないけど……」
このキャラクターのように、のんびりした顔でボールを持っているところなら想像できる。
栞はサウスポーのキャラクターを指でなぞった。
「……でも、やってるんだもんね、野球。がんばれ、青瀬」
次の日、肇は第一試合の前に、スイカを持って訪ねてきた。絵に描いたような三角形のスイカを皿に並べ、栞と肇もソファに並んで座った。
両親は今日も仕事で家を開けている。つまり誰にも邪魔されないということだ。
「おじいの言う通り、今日は大本命だから、店で見なくてよかったね」
「ああ。青瀬くんの有志を見届けようじゃないか」
スイカを食べ進めているうちに、第一試合はあっという間に終わってしまった。甲子園出場常連校の圧勝、十一対零だった。
栞も肇も、ポカンと口を開けて見ていることしかできなかった。
「……強かったねえ」
「……これが甲子園の実力ってことか」
もしこの学校と青瀬たちが戦ったら、どうなっていたんだろう。
栞は少し早く動き出した心臓の辺りにそっと手を当てた。
「あ、青瀬くんたちが来たんじゃないか?」
肇の声でテレビに目を戻すと、確かに栞の学校の名前が書かれたユニフォームの選手たちがベンチに入ってきているところだった。大きなスポーツバッグを背負った顔は、真剣そのものだ。
その中にはもちろん青瀬もいる。
帽子のツバの形の影が、顔の上半分を隠している。その影の中で、茶色い瞳がギラギラと光っているのがわかった。
「青瀬、あんまり緊張してなさそう」
「ほう。肝が据わっているね」
「わかんないけどね。緊張で強張ってるだけかも」
栞は肩をくすめて笑ったが、試合が始まると、その考えは当たっていたことがわかった。
青瀬は背番号五番をつけ、サードを守っていた。打順は七番。唯一の二年生だ。しかし二年生だということを忘れるくらいに、青瀬は堂々としていた。
守備位置が良く、レフト方向へ抜けそうな鋭い打球も取りこぼさずにしっかりとキャッチし、ファーストへの送球も狂いがない。
打席でも的確にバントを使って、仲間を進塁させる。
肇は感心して何度も「すごいなあ」と手を叩いた。
「青瀬くんが二年生でレギュラーなのは納得だ」
「青瀬うまい?」
「ああ。とても良い選手だね」
その時、またテレビの中から空気を割るような歓声が聞こえてきた。
実況の男性が『本日最初のランニングホームラン! 打ったのはキャプテン星野!』と興奮した声を上げた。
「おおっ、現主将もやるなあ! 初出場でも全国の実力に食らいついているし、良いチームだねえ」
「この調子でがんばれー!」
九回は相手の裏の攻撃が無く、試合は終わった。
三対一で、青瀬たちの勝利だ。
校歌が流れると、栞もソファから立ち上がって一緒に歌い、肇は手拍子をした。
青瀬の顔が映る。口元には笑顔が浮かんでいた。
その表情を見ると、栞も自然と顔がほころんだ。
校歌が終わると、選手たちはスタンド席に向かって勢いよく走りだした。一列に並んで、チームメイトと応援団たちに一例をする。そして、顔を上げると、その顔には弾ける笑顔が浮かんでいた。
「甲子園に行く」と言った時の青瀬と同じ顔だ。
届くはずがないとわかっていても、戦い抜いた選手たちに拍手を送らずにはいられなかった。
「中盤以降、点が取れなかったが、うまく守り切ったね。相手の得点にも動揺しなかったし、しっかりしたチームプレーを見たよ」
肇は額ににじんだ汗をティッシュでぬぐい、ソファに背中を預けた。
栞もふーっと息を吐きながらソファに座った。
エアコンの冷たい風が、興奮して暑くなった体を冷やしていく。
青瀬は暑い中運動をしていると思うと申し訳ない気持ちにもなったが、今はこの熱を冷まさなければどうにかなりそうだった。
「次も勝てるかな、このチームなら」
「さてね。高校野球は何があるかわからないから。ただ、勝っても敗けても良い試合が見られそうなチームだとは思うよ」
「夏は始まったばかりだからね」と言って、肇は残っていたスイカに手を伸ばした。
栞もスイカを手に取ると、体と同じように温くなっていた。
今日見た様々な場面が頭の中に浮かんでくると、その時の興奮も一緒に湧き上がってきて、とても眠れなかったのだ。
「……っダメだ! 一回体を冷まさないとっ!」
一階のキッチンでコップの水を一杯飲み、ノロノロと階段を上って部屋に戻った。その間にも、頭の中に今日の映像が流れてくる。
栞は頭をブンブン振って、ベッドに入ろうとした。
その時、勉強机の上に置いてある青瀬のメモ書きが目に入った。タオルケットをつかんだ手を下ろして、メモ書きを手に取る。
ハジッコぐらしのキャラクターは、よく見ると野球のボールを持っている。しかも青瀬と同じ左手だ。
「ふふっ、これはサウスポーって言うんだよね」
栞はメモ書きを持ったまま、ベッドに寝転がった。
「青瀬も、今日見た選手たちみたいに、泥んこになって走るんだよね。うーん、やっぱり想像できないけど……」
このキャラクターのように、のんびりした顔でボールを持っているところなら想像できる。
栞はサウスポーのキャラクターを指でなぞった。
「……でも、やってるんだもんね、野球。がんばれ、青瀬」
次の日、肇は第一試合の前に、スイカを持って訪ねてきた。絵に描いたような三角形のスイカを皿に並べ、栞と肇もソファに並んで座った。
両親は今日も仕事で家を開けている。つまり誰にも邪魔されないということだ。
「おじいの言う通り、今日は大本命だから、店で見なくてよかったね」
「ああ。青瀬くんの有志を見届けようじゃないか」
スイカを食べ進めているうちに、第一試合はあっという間に終わってしまった。甲子園出場常連校の圧勝、十一対零だった。
栞も肇も、ポカンと口を開けて見ていることしかできなかった。
「……強かったねえ」
「……これが甲子園の実力ってことか」
もしこの学校と青瀬たちが戦ったら、どうなっていたんだろう。
栞は少し早く動き出した心臓の辺りにそっと手を当てた。
「あ、青瀬くんたちが来たんじゃないか?」
肇の声でテレビに目を戻すと、確かに栞の学校の名前が書かれたユニフォームの選手たちがベンチに入ってきているところだった。大きなスポーツバッグを背負った顔は、真剣そのものだ。
その中にはもちろん青瀬もいる。
帽子のツバの形の影が、顔の上半分を隠している。その影の中で、茶色い瞳がギラギラと光っているのがわかった。
「青瀬、あんまり緊張してなさそう」
「ほう。肝が据わっているね」
「わかんないけどね。緊張で強張ってるだけかも」
栞は肩をくすめて笑ったが、試合が始まると、その考えは当たっていたことがわかった。
青瀬は背番号五番をつけ、サードを守っていた。打順は七番。唯一の二年生だ。しかし二年生だということを忘れるくらいに、青瀬は堂々としていた。
守備位置が良く、レフト方向へ抜けそうな鋭い打球も取りこぼさずにしっかりとキャッチし、ファーストへの送球も狂いがない。
打席でも的確にバントを使って、仲間を進塁させる。
肇は感心して何度も「すごいなあ」と手を叩いた。
「青瀬くんが二年生でレギュラーなのは納得だ」
「青瀬うまい?」
「ああ。とても良い選手だね」
その時、またテレビの中から空気を割るような歓声が聞こえてきた。
実況の男性が『本日最初のランニングホームラン! 打ったのはキャプテン星野!』と興奮した声を上げた。
「おおっ、現主将もやるなあ! 初出場でも全国の実力に食らいついているし、良いチームだねえ」
「この調子でがんばれー!」
九回は相手の裏の攻撃が無く、試合は終わった。
三対一で、青瀬たちの勝利だ。
校歌が流れると、栞もソファから立ち上がって一緒に歌い、肇は手拍子をした。
青瀬の顔が映る。口元には笑顔が浮かんでいた。
その表情を見ると、栞も自然と顔がほころんだ。
校歌が終わると、選手たちはスタンド席に向かって勢いよく走りだした。一列に並んで、チームメイトと応援団たちに一例をする。そして、顔を上げると、その顔には弾ける笑顔が浮かんでいた。
「甲子園に行く」と言った時の青瀬と同じ顔だ。
届くはずがないとわかっていても、戦い抜いた選手たちに拍手を送らずにはいられなかった。
「中盤以降、点が取れなかったが、うまく守り切ったね。相手の得点にも動揺しなかったし、しっかりしたチームプレーを見たよ」
肇は額ににじんだ汗をティッシュでぬぐい、ソファに背中を預けた。
栞もふーっと息を吐きながらソファに座った。
エアコンの冷たい風が、興奮して暑くなった体を冷やしていく。
青瀬は暑い中運動をしていると思うと申し訳ない気持ちにもなったが、今はこの熱を冷まさなければどうにかなりそうだった。
「次も勝てるかな、このチームなら」
「さてね。高校野球は何があるかわからないから。ただ、勝っても敗けても良い試合が見られそうなチームだとは思うよ」
「夏は始まったばかりだからね」と言って、肇は残っていたスイカに手を伸ばした。
栞もスイカを手に取ると、体と同じように温くなっていた。
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