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第6章
第26話 お嬢様の執事は貴族になりたい
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「信じらんないっ!!」
耳鳴りのように響く声にもめげず、ネオはにっこりと笑顔を向けた。
怒鳴られているはずなのに、笑顔。
その笑顔に力が抜けてしまい、怒りが半減する。
興奮状態になり、肩で息をするシア。
目の前には、膝を床につけたネオがていねいに頭を垂れていた。
その顔には反省の色はなく、むしろ――…
「なんで、笑ってるのよ」
くすくすと笑うネオに、イラだちを覚える。
なにが楽しいのか、問いただしたいくらいだ。
失礼、と口にしながら、小さく咳払いをした。
「思いのほか、シアお嬢様にとって私が必要のようでしたので、嬉しく思いまして」
「…出ていって、っていったはずよ」
「おや、そんなことおっしゃいましたか?」
「…いったの! それで、本当にいなくなったくせに!」
いっていることが矛盾しているかもしれない。
いなくなれ、と口にしながらも、いなくなったらそれを責め立てる。
わがままだな、と自覚しながらも、責めずにはいられない。
責められてもネオは、笑顔のまま、膝をついて見上げていた。
怒られている自覚がないような、やわらかな瞳で。
意地っ張りなお嬢様と、それを窘める執事。
それがこの2人にとっての、普通、だ。
それを理解しているからこそ、ネオは笑みをこぼした。
「シアお嬢様」
「なによ」
怒りがおさまらず、冷たく言葉を放つ。
するとネオが、おや、と首をかしげた。
「…クライム様と会話するように、可愛らしく『なぁに?』とは、おっしゃってくださらないのですか?」
「――っ、バカ…っ」
こっちは真剣に話しているというのに…。
悪ふざけをする言葉に叱咤を打つ。
頬が熱くなり、火が燃えているようだ。
膝をついたネオが、ゆっくりと手を伸ばした。
長い指先は頬に触れ、愛でるようになでた。
「おそばを離れ、申しわけありませんでした」
「まったくよ」
「許して、くださいませんか?」
捨てられた子犬のように見上げる。
その瞳に胸をしめつけられながらも、シアはまっすぐに見つめ返した。
「…理由をいいなさい」
どうして離れていたのか。
離れていなければいけなかった、納得のいく理由を。
自分からそばにいなくていいと離したくせに。
本当にいなくなっていた理由が気になる。
するとネオは安心させるように、優しい笑みを向けた。
「シアお嬢様のお父上様からのご命令で、隣国まで足をのばしておりました」
「隣国へ?なんで?」
シアが問いかけると、ネオはそっと、小さな箱を取り出した。
「こちらを仕入れにいっておりました」
蓋を開けると、入っていたのは、小さな宝石。
オレンジ色に輝く宝石。
太陽の光が当たると、エメラルド色に変化する、不思議な宝石だ。
希少価値が高く、なかなか手に入らないもので、隣国の特産品でもある。
「こちらの宝石を手に入れることができたら、私を、貴族の養子にしてくださると――…旦那様から、約束していただきました」
「え?ネオ、貴族になりたかったの?」
首をかしげていると、ネオはくすくすと笑った。
「えぇ。なりたいですよ。それはもう、すべてを投げ出しても――…」
すべてを投げ出す…
ということは、シアの執事を辞めてしまうのだろうか…?
耳鳴りのように響く声にもめげず、ネオはにっこりと笑顔を向けた。
怒鳴られているはずなのに、笑顔。
その笑顔に力が抜けてしまい、怒りが半減する。
興奮状態になり、肩で息をするシア。
目の前には、膝を床につけたネオがていねいに頭を垂れていた。
その顔には反省の色はなく、むしろ――…
「なんで、笑ってるのよ」
くすくすと笑うネオに、イラだちを覚える。
なにが楽しいのか、問いただしたいくらいだ。
失礼、と口にしながら、小さく咳払いをした。
「思いのほか、シアお嬢様にとって私が必要のようでしたので、嬉しく思いまして」
「…出ていって、っていったはずよ」
「おや、そんなことおっしゃいましたか?」
「…いったの! それで、本当にいなくなったくせに!」
いっていることが矛盾しているかもしれない。
いなくなれ、と口にしながらも、いなくなったらそれを責め立てる。
わがままだな、と自覚しながらも、責めずにはいられない。
責められてもネオは、笑顔のまま、膝をついて見上げていた。
怒られている自覚がないような、やわらかな瞳で。
意地っ張りなお嬢様と、それを窘める執事。
それがこの2人にとっての、普通、だ。
それを理解しているからこそ、ネオは笑みをこぼした。
「シアお嬢様」
「なによ」
怒りがおさまらず、冷たく言葉を放つ。
するとネオが、おや、と首をかしげた。
「…クライム様と会話するように、可愛らしく『なぁに?』とは、おっしゃってくださらないのですか?」
「――っ、バカ…っ」
こっちは真剣に話しているというのに…。
悪ふざけをする言葉に叱咤を打つ。
頬が熱くなり、火が燃えているようだ。
膝をついたネオが、ゆっくりと手を伸ばした。
長い指先は頬に触れ、愛でるようになでた。
「おそばを離れ、申しわけありませんでした」
「まったくよ」
「許して、くださいませんか?」
捨てられた子犬のように見上げる。
その瞳に胸をしめつけられながらも、シアはまっすぐに見つめ返した。
「…理由をいいなさい」
どうして離れていたのか。
離れていなければいけなかった、納得のいく理由を。
自分からそばにいなくていいと離したくせに。
本当にいなくなっていた理由が気になる。
するとネオは安心させるように、優しい笑みを向けた。
「シアお嬢様のお父上様からのご命令で、隣国まで足をのばしておりました」
「隣国へ?なんで?」
シアが問いかけると、ネオはそっと、小さな箱を取り出した。
「こちらを仕入れにいっておりました」
蓋を開けると、入っていたのは、小さな宝石。
オレンジ色に輝く宝石。
太陽の光が当たると、エメラルド色に変化する、不思議な宝石だ。
希少価値が高く、なかなか手に入らないもので、隣国の特産品でもある。
「こちらの宝石を手に入れることができたら、私を、貴族の養子にしてくださると――…旦那様から、約束していただきました」
「え?ネオ、貴族になりたかったの?」
首をかしげていると、ネオはくすくすと笑った。
「えぇ。なりたいですよ。それはもう、すべてを投げ出しても――…」
すべてを投げ出す…
ということは、シアの執事を辞めてしまうのだろうか…?
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