お嬢様の執事は、夜だけ男の顔を見せる

hiro

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第4章

第18話 お嬢様の交差する気持ち

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ネオのいない生活を、もう幾日過ごしただろうか。
 

一向に慣れない、この生活。
日に日に寂しさを増し、同時に虚しさがこみあげてくる。
 
 
稽古を怠けては、ネオが迎えにきてくれていた日々。

怠けたぶんの稽古は、真夜中になっても、付きっきりで教えてくれた日々。


それがいまでは、遠い記憶のようだ。

 
 
彼を、少し困らせて……
呆れながらも迎えにきてくれるのが、嬉しかったのに。
 
 
稽古が一切なくなったいまとなっては、空き時間をどう過ごすかで、頭がいっぱいだ。
 
 

気持ちを落ち着かせるために、甘いストロベリーティーを口に含む。
カップに視線をうつすと、底が見えていた。
 

「ネオ、新しいお茶――…」


そう口にして、はっと目を開く。
カップを握りしめた手が、所在なさげに宙に浮く。

 
このカップを、誰が手にしてくれるというのか……。


 
「そっか、……いないんだったわ」



自然と出た行動だからこそ、余計に、虚しさが胸を締めつける。
 

いつも後ろには、ネオが立っていた。

ふり向けばすぐに傾聴し、要望に応えてくれた。


 
それがいま、いないというだけなのに――…
 
 

「ネオの、……バカ」


そっと唇に指を添えた。
いまでも鮮明に思い出せる、甘い感触。
 

どういうつもりで、唇を重ねたのだろうか。

動揺する私を見て、楽しんでいたのだろうか。
 


幼い頃から、そばにいるネオ。
他の男性というものを、知る機会がなかった。


だから、唇があんなにもやわらかいものだと、知ることもなかった。


あんなにあたたかいものだと、知りたくなかった……。


 
いつもの世話焼きなネオから豹変した、男の顔。
見たことのない、威圧的な顔。



初めて達した日。

恥ずかしさのあまり、出ていけ、といったあと……
その命令に対して、従順に、一度も姿をあらわさないネオ。



翌日になれば、いつものような日々に戻ると思っていた。

朝の挨拶をして、紅茶を淹れて、稽古をしろ、といわれる日々がくると信じていた。

何気ない平穏な日々が、訪れると思っていた。



それなのにネオは、姿をあらわさない。
 
 

 
「……会いたいよ」



ぽつりと呟いた言葉は、静かに消え去る。

シアは、小さなため息をもらした。


 
会いたいと思う気持ち。

行為に対する許せない気持ち。


相反する思いが、交差する。


 
どうしたらこの気持ちが落ち着くのだろうか。


でも……
会いたい、会いたい、と心が叫ぶ。
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