お嬢様の執事は、夜だけ男の顔を見せる

hiro

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第4章

第16話 お嬢様の婚約者

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「で、僕は、君の避難所なのかな」

「うっ、ごめんなさい……」


差し出された紅茶を口にしながら、シアは肩をすくめた。



指で達した翌日から、ネオから干渉されることがなくなった。

クライムの家にきても、朝寝坊をしても、なにもいわれない。
むしろ、屋敷にいるのかどうかすらも、わからない。

 
初めてイッたことが恥ずかしくて、自分からネオを突き放した。

それなのに、心にぽっかりと穴が開いたようだ。
 


肩を落とすシアに、小さく息をついた。
 
 
「仮にも婚約者である、僕にいうことじゃないだろう」

「……相談できる人、他にいないもの」
 

いつもネオがそばにいたから、頼れる人なんてほかにいない。

心を許しているのは、ネオとクライムの2人だけだ。



ぽつりと呟いた言葉に、クライムは髪をかきあげた。

「本当に君って子は、人をふりまわすのが得意だね」

クライムの言葉に、あら、と声をあげた。

「クライム兄様をふりまわしたことなんて、一度もないわよ」

「ははは、自覚がないぶん、厄介だな」

「……えっ?」


理解ができずに首をかしげる。
答えを求めているのに、クライムはごまかすように人差し指で唇を塞いだ。


内緒、という仕草。
 
子ども扱いをされたシアは、むむむ、と声をあげた。
 


それにしても、と口を開く。

「婚約の相手がクライム兄様だなんて、いまだに信じられない」


 
いつもの、クライムの戯言だと思っていた、婚約話……。

父に確認をとったところ、クライムの言葉に偽りはなかった。
 

2人は、正真正銘の婚約者同士。

シアの承諾もなしに、なぜ話が進んでいるのかと怒ったが、父は聞く耳をもたなかった。



教養はもちろん、文武両道、完璧といっていいほどすべてを兼ね備えているクライム。

ルードヴィッヒ家を継ぐ者として、申し分ない人材だと判断された。



だから、昼の稽古がなくなり、《花嫁修業》の項目が増えていたのだ。

いま必要なのは、教養ではなく、跡継ぎを産むための行為が必要なのだということ……。


 
「これで晴れて、嫌な稽古事から逃げることができたじゃないか」

「それは、そうだけど…」


そのかわりに辱められていることなど、クライムが知るはずない。

はぎれの悪い答えに、クライムはわざとらしくため息をついた。


「納得しない?」

「……うん」


この婚約は、政略結婚といっても過言ではない。
互いの私利私欲のために結ばれた婚姻なのだから。

 
ルードヴィッヒ家が安泰すれば、ネオがずっとそばにいてくれると思っていた。

 
それがたとえ、恋人という形でなくとも……
一生そばに仕えてくれると思っていたのに。


だが、ネオは姿をあらわしてくれない。
執事としての任務も放棄して。


 
なにより心に引っかかりを残すのは、ネオの見合い話――…


 
もう、相手の人と顔を合わせたのかな。
2人で出かけたりして、忙しいのかな。

だから、私のところには、きてくれないのかな……。

 
計算高いネオのことだもの。
……きっと、今頃うまくいっているのだろう。
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