お嬢様の執事は、夜だけ男の顔を見せる

hiro

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第1章

第5話 お嬢様にも婚約話が舞い込んだ

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頭ではわかっているつもりだ。
子どものようにわがままをいうつもりもない。


だが――…
体の成長に対して、心が追いつかない。


ネオは私だけのものなのに…。



誰にもぶつけられない気持ちが沸き上がる。


小さいころから、ずっと一緒だった。
なにをするにも、朝から晩まで、いつも一緒にいたというのに。
これから先もずっと、一緒にいるものだと思っていたのに…。


心の中に靄がかかったように、気持ち悪い。
 


それと、といいながら、クライムがのぞきこむように顔を向けた。

「悲しむことはないさ」

「なんで?」

悪戯を思いついた子どものように、クライムはにんまりと笑った。
 

「僕たちにも、見合いの話が出てるから」

「――…なっ!」


突然のことで言葉を失う。
 
日頃より、父から口うるさいほどに見合いを勧められてきていた。
しかし、具体的に話が進んだことなど一度もない。
まさに寝耳に水、の状態だ。


シアは大きく口を開いたまま、微動だにしなかった。


 
「嘘だと思うなら、伯父上に聞いてみたらいいよ。それとも、シアのことを全部知り尽くしているネオに聞くかい?」


意地が悪い。
わざとネオの名前を出すのだから。

そうやっていつもシアをからかっては、焦る様子を楽しんでいるのだ。



「…いいわ。お父様に聞くから」

「ははは、それが賢明だね」


クライムの態度からは、本気なのか否か、判断がつかない。
からかわれている可能性が高いぶん、本人に確認したほうが早くて正確だ。



しかし…
自分の見合い話よりも気になる、ネオの見合い話。


真相を確かめたいのに。

もし本当のことだとしたら…?

それを知るのが、怖くてしかたがない…。
 


雑念をふり払うように、顔をぶんぶんと横に振った。
まとめられた深紅の髪が、ゆらりと波打つ。


その様子をみて、クライムがくすくすと笑った。

「そろそろ、…かな」

「えっ」
 
窓の外に視線を向け、楽しそうに口の端をつりあげた。
その先を追うと――…

 
バタンッ!!
 
 
乱暴に開かれた扉の音が、部屋中に大きく響き渡る。
大きな音に驚き、肩を跳ね上がらせると、クライムは口の端をゆるめた。


まるで、彼がくることを知っていたかのように。
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