お嬢様の執事は、夜だけ男の顔を見せる

hiro

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第1章

第3話 お嬢様は従兄弟にからかわれる

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「で、ネオを休みにして、君は稽古をサボったんだね」

白銀の髪が陽に照らされ、水面のように輝きをみせる。
その美貌とは裏腹に、藍色の瞳が鋭くシアを睨みつけた。

 
責め立てる男は、従兄弟のクライム。
父親同士が兄弟であり、幼いときから一緒に育った仲で、兄のように慕っている。
 


「だんまりしてないで、なんとかいったらどうだ。シア」
 
あたたかい紅茶を口につけながら、クライムがちらりと瞳を向ける。
シアはおどけたように肩をすくめた。
 

「…いいじゃない。お稽古なんて、将来なんの役にたつのよ」


女であるがゆえに、花を愛でる。
女であるからこそ、作法を身につける。

すべて、自分が《女であるため》の稽古ばかりだ。

 
これらはすべて、ルードヴィッヒ家を継ぐためのものではない。
シアと結婚をし、ルードヴィッヒ家を継ぐ相手の心を繋ぎとめるためだけの、稽古だ。

家を継ぐことに関心がないシアにとって、煩わしいこと。


 
クライムは大げさともいえるほど、大きなため息をついた。

「ルードヴィッヒ家の名が、聞いて呆れるよ」

低く落とした声に、あら、と高らかな声をあげる。
 
「私は別に、家の名前が欲しいわけじゃないもの。ルードヴィッヒ家の名前が欲しいのなら、喜んでクライム兄様に差し上げるわ」
 

そう――…

《由緒ある》なんていう肩書きは、どうだっていい。


シアが欲しいのは、自分のものをずっとそばに置く権力。
それだけの立場と、実行できる意志。
 
それがたまたま、自分の実家であるルードヴィッヒ家なだけだ。


 
イスに背をあずけると、ギシ、と軋む音が響いた。
目の前には、いつの間にか詰め寄る、クライムの視線――…


「だったら、僕と婚約することだね。そうすれば君は、煩わしいお稽古から逃れられる。さらに、楽に権力が手に入るんだから……ね」


真剣なまなざしが、まっすぐ心に突き刺さる。


本当に、そうできれば楽なのに。



だが、できないことを知っている。
それは実行できない、という意味ではなく、心の問題。



シアは、小さくため息をついた。
 
「…クライム兄様、近すぎですわ」

近づいているクライムの顔を押しやっても、表情に変化はない。
クライムが慌てるところを、見たことがない。

いつもこの調子なのだ。


「これ以上近づいたら、お父様にいいつけますわよ」

キッと睨みつけると、クライムは両手を軽くあげた。
降参、といいながら、おどけたように肩をすくめる。

「眉目秀麗な男として有名な僕が求婚しているというのに、冷たいな」

「…本気じゃないくせに」

冷たく言い放つと、ははは、と笑い声。
 

やっぱり、本気なわけがない…。


毒づくように睨むと、一気に紅茶を飲み干した。
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