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最終章

第75話 ただいま

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 ぷぅっと頬を大きく膨らませる少女。
 乗せられた船の中で、たくさんの男にかこまれていた。


 男たちは全員、にこにこと嬉しそうな笑顔。
 中には感極まって、涙を浮かべている船員もいた。



「いやぁ。一時期はどうなるかと思ったけど、本当によかったぁー!」

「無言の食事は、もうツラくてツラくて……!」

「名前はルーチェちゃん、だったんスね!」

「これからは、ちゃんと名前で呼ばせてくれよ!」

「そうっスよ、水くさいじゃないですかぁー! 仲間だっていうのに、本名教えてくれないなんて」


 そっちだって《王家の宝玉》を狙っていたことを、秘密にしてたじゃない……。


 問い詰めたい気持ちを我慢しながら、船員たちを見渡した。


 ルーチェが皇女だという事実を知ったところで、誰1人として接しかたを変えたものはいなかった。


 ただ、名前を伏せていたことだけ、責められた。



 奥から出てきた男が、船員たちをかきわけてルーチェに近づいた。
 手に握られているのは、あたたかな湯気が出ているビアマグ。



「副船長さん」

 カイルは手にしていたビアマグをルーチェに差し出した。
 それを受け取ると、まわりからどよめきが……。


「あ、あの副船長が……自分から女に近寄った……!」

「それどころか、気遣いまで見せるなんて……っ」

「どうしたんスか? なんか悪いものでも食べましたか?」

「うるせぇ! 別に飲みものを渡すくらい、普通だろう」


 照れ隠しに怒鳴ると、カイルはそのまま船員たちの輪の中へ身を隠した。

 手渡されたビアマグからは、美味しそうなミルクティーの香り。
 こくりと喉に流すと、甘めの味付けが口いっぱいに広がった。


 心にも、体にも、染み渡っていく……

 みんなの優しさが、あたたかい。



 一口飲んだあと、視線を上に動かした。
 船員たちが、笑顔で声を揃えた。



「おかえり」



 かけられた言葉に、込みあげる涙を抑えられなかった。



 帰ってきて、よかったんだ。
 仲間として、ここにいていいんだ。


 涙が頬を伝い、それを拭うと、ルーチェは笑みを向けた。



「た……ただいま!」



 言葉のあとに、拍手が沸いた。

 雨のように鳴り響く大きな拍手は、ルーチェの心にまで響いた。
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