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第9章
第63話 真実
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淡々と話すレンを、紅い瞳が鋭く睨む。
そして、そっと口を開いた。
「過去を、消し去るために」
レンの眉がぴくりと動く。
「俺は……あなたが船を棄てたことを、ずっと憎んでいます。――それがたとえ、恩人だとしても」
「知って、いるよ」
「……」
レンは腰に隠してある護身用の剣に手を添えると、カチリと音をたてて構えた。
抜刀と同時に斬りかかることの出来るレンにとって、それだけで充分だった。
不利な状況を感じさせない、不敵の笑み。
迷いのあるジンをよそに、レンは抜刀と同時に剣を突きつけた。
カキンッ!
金属同士の戦慄が響く。
寸で受け止めたのか。
それとも、受け止められるように抜刀したのか。
ふたつの剣が、せめぎ合う。
棄てられたあのときとは違う。
憎しみや悲しみを帯びた瞳。
刹那……
音をたてた剣が宙を舞う。
弾かれたレンの剣は、地へと突き刺さった。
間髪入れずに、レンの右肩に短剣を刺した。
「――っっっ!」
声にならない叫びが、吐血と共に流れる。
刺さった短剣を素手で握ると、みずから引き抜いた。
もうひとつの短剣を、レンの喉元に向けた。
眼光の輝きに迷いはなく、一寸の揺らぎも見せない。
「あのときも、あなたは俺に刃を向けました」
「……そう、だったね」
背中の古傷が、ズキリと疼く。
あのときーー
夜空に浮かぶ月に、うっすらと雲がかかったあの夜。
平衡感覚を失ったジンの体に剣が向けられ、避けようとした。
その瞬間、肩から背中を通り、脇腹まで斬りつけられた。
大きな傷痕。
あのときのことは、忘れもしない。
何度も、繰り返し悪夢にうなされる日々。
「なぜ、あのとき俺を斬りつけたんですか」
先代船長であるレンが姿を消してからすぐのこと。
この地に停泊したとき、偶然にも街でレンを見かけたジンは、後をつけた。
門兵に笑顔で挨拶をして、王宮に入っていくレン。
身形もきちんとしていて、それなりの職についていると想像がついた。
なぜこんな王宮に?
しばらく眺めていると、王宮の窓からレンが見えた。
航海をしていたときには見せたことのない、穏やかな顔。
突然、姿を消した先代船長。
行方をくらませたレンは、この地で幸せを手にしていた。
船に残されたジンは、手探りで船を仕切りながら、必死に彼を探していた。
いつか彼を……先代船長を、呼び戻すために。
「あのとき、俺はあなたに船に戻ってきて欲しかった。こっそりと王宮に忍びこみ、あなたにそのことを伝えると、殺気が俺に向けられた。……なぜあのとき、斬りつけたんですか」
長年、聞きたかったこと。
真実を知ったら、突き放されるのかもしれない。
その覚悟はまだないけれど、真実を知りたい。
問いかけるジンの声はかすかに震えていた。
「――守らねばならないものが、ここにあるから」
迷いのない、レンの声。
意思を貫く声は、ジンの頭に直接届く。
レンが守るべきもの。
自分を救ってくれた国王の愛娘、ルーチェ。
彼女と出逢って、すべてが変わった。
彼女は、いつも微笑み続けてくれる。
自分が何者であろうと、どんなことをしてきた者であろうと。
レン、と呼ばれるたびに、胸の奥があたたかくなる。
部屋に入ったときに向けられる、嬉しそうな笑顔。
自分の過去を忘れるくらい、彼女の笑顔に魅了された。
何があっても、彼女を守る。
心に誓った。
15年もの間、かたときも離れず、成長を見守り続けた。
ルーチェに対する忠誠は王宮一であるほどに。
命の恩人である国王にではなく、ルーチェに忠誠を誓うほど、彼女は特別であった。
いまも揺るがない、確固たる誓い。
そして、そっと口を開いた。
「過去を、消し去るために」
レンの眉がぴくりと動く。
「俺は……あなたが船を棄てたことを、ずっと憎んでいます。――それがたとえ、恩人だとしても」
「知って、いるよ」
「……」
レンは腰に隠してある護身用の剣に手を添えると、カチリと音をたてて構えた。
抜刀と同時に斬りかかることの出来るレンにとって、それだけで充分だった。
不利な状況を感じさせない、不敵の笑み。
迷いのあるジンをよそに、レンは抜刀と同時に剣を突きつけた。
カキンッ!
金属同士の戦慄が響く。
寸で受け止めたのか。
それとも、受け止められるように抜刀したのか。
ふたつの剣が、せめぎ合う。
棄てられたあのときとは違う。
憎しみや悲しみを帯びた瞳。
刹那……
音をたてた剣が宙を舞う。
弾かれたレンの剣は、地へと突き刺さった。
間髪入れずに、レンの右肩に短剣を刺した。
「――っっっ!」
声にならない叫びが、吐血と共に流れる。
刺さった短剣を素手で握ると、みずから引き抜いた。
もうひとつの短剣を、レンの喉元に向けた。
眼光の輝きに迷いはなく、一寸の揺らぎも見せない。
「あのときも、あなたは俺に刃を向けました」
「……そう、だったね」
背中の古傷が、ズキリと疼く。
あのときーー
夜空に浮かぶ月に、うっすらと雲がかかったあの夜。
平衡感覚を失ったジンの体に剣が向けられ、避けようとした。
その瞬間、肩から背中を通り、脇腹まで斬りつけられた。
大きな傷痕。
あのときのことは、忘れもしない。
何度も、繰り返し悪夢にうなされる日々。
「なぜ、あのとき俺を斬りつけたんですか」
先代船長であるレンが姿を消してからすぐのこと。
この地に停泊したとき、偶然にも街でレンを見かけたジンは、後をつけた。
門兵に笑顔で挨拶をして、王宮に入っていくレン。
身形もきちんとしていて、それなりの職についていると想像がついた。
なぜこんな王宮に?
しばらく眺めていると、王宮の窓からレンが見えた。
航海をしていたときには見せたことのない、穏やかな顔。
突然、姿を消した先代船長。
行方をくらませたレンは、この地で幸せを手にしていた。
船に残されたジンは、手探りで船を仕切りながら、必死に彼を探していた。
いつか彼を……先代船長を、呼び戻すために。
「あのとき、俺はあなたに船に戻ってきて欲しかった。こっそりと王宮に忍びこみ、あなたにそのことを伝えると、殺気が俺に向けられた。……なぜあのとき、斬りつけたんですか」
長年、聞きたかったこと。
真実を知ったら、突き放されるのかもしれない。
その覚悟はまだないけれど、真実を知りたい。
問いかけるジンの声はかすかに震えていた。
「――守らねばならないものが、ここにあるから」
迷いのない、レンの声。
意思を貫く声は、ジンの頭に直接届く。
レンが守るべきもの。
自分を救ってくれた国王の愛娘、ルーチェ。
彼女と出逢って、すべてが変わった。
彼女は、いつも微笑み続けてくれる。
自分が何者であろうと、どんなことをしてきた者であろうと。
レン、と呼ばれるたびに、胸の奥があたたかくなる。
部屋に入ったときに向けられる、嬉しそうな笑顔。
自分の過去を忘れるくらい、彼女の笑顔に魅了された。
何があっても、彼女を守る。
心に誓った。
15年もの間、かたときも離れず、成長を見守り続けた。
ルーチェに対する忠誠は王宮一であるほどに。
命の恩人である国王にではなく、ルーチェに忠誠を誓うほど、彼女は特別であった。
いまも揺るがない、確固たる誓い。
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