【完】海賊王と竜の瞳を持つ皇女

hiro

文字の大きさ
上 下
63 / 82
第9章

第62話 憎しみの再会

しおりを挟む
 王からの信頼が厚いレンは、リリーの結婚式の総責任者を任されていた。
 来賓に出す予定の料理をひと舐めすると、首を横に捻った。


「リリー様の好みに合わせて、もう少し酸味を抑えてくれ」

「かしこまりました」

「式場全体を白一色にするよりも、色鮮やかな花をアクセントに加えて、リリー様の清純さをより際立たせろ」

「はい」


 的確な指示を与えながら動くレンは、式の流れなどが詳細に書かれている冊子を机に置いた。
 冊子には、式の進行や来賓名簿、式場の見取り図などが記されている。


 リリーの身支度が予想以上に手間取っているようで、それがかえって好都合だった。
 式場をさらに完璧に仕上げるには、ちょうどいい。


 連日、根を詰めていたレンは、まばたきをするだけでも眠気が襲う。


(マズイな……連日の徹夜が効いてるか)


 外にいく、と近くにいる侍女に伝えると、レンは式場をあとにした。






 庭園まで続く回廊を歩くと、空に浮かぶ満月を見上げた。



(満月、か)


 竜の化身である《王家の宝玉》
 満月の夜は竜の力が強まり、宝玉の青さが輝きを増す。


 今日は式典があるので宝玉を持っているルーチェだが、隠し場所は誰にも話していない。

 どのような形か……王族以外誰も知らない。
 信頼の厚いレンにも、決して話すことはない。



 庭園に着くと、門兵の姿が見当たらない。
 手薄な門に、違和感を覚える。


 ざぁっと風が吹き荒れる。



 銀髪が風に揺れ、桜が舞う。
 桜の花びらが頬をくすぐり、払い除けるように手を添えた。

 そのとき――




「――っ!」


 人の気配に、気がつかなかった。


 顎には、月明かりが反射した銀色の筋。
 鋭い光を放つ短剣はレンの顎に触れ、少しでも動いたら斬りつけられるほど寸のところにある。

 レンの背中からは、強い殺気。



「何者だ」


 静かに放つ声。
 いつもの穏やかな声はなく、張り詰めた空気があたりを包む。
 

 その声に、悲しそうな声が重なる。



「……俺に、誰かと聞くんですか……船長」

「――っ、お前は……っ」


 勢いよくふり返った先にいた男は、悲しみを帯びた顔を向けていた。
 刃先を向けられているレンは、目を見開いたあと、瞳を細めた。


「ジン」


 かつて、レンが拾ったか弱い子ども。
 憎しみの色を浮かべた強い眼光を放ち、刃先を向ける。


 短剣を握る手に迷いはない。


 ジンは瞳を逸らさずに、しっかりとレンを捉えた。


「なんで、ここにいるんだ? 私に会いに……というわけではなさそうだな」


 質問に対して、答えはない。
 ただ紅蓮の焔を燃やし、レンを見つめた。



「宝玉が狙い、か」


 ぽつりと呟くと、ふぅ、とため息をついた。


「私がこの国にいると知っていて、あてつけのようだね」


 今日この場にいるということは、《王家の宝玉》を狙っているということ。
 

「なぜ、宝玉を狙う」



 持ち主が望む全ての者に《幸運》や《幸福》を与えるという、不思議な宝玉。

 もし他の者が触れたときには竜の怒りを買い、国は滅びるといわれている。



 だが、宝玉を手にすれば《幸運》や《幸福》が訪れるのであれば構わないと、ルバーニャ国を襲撃する輩が後を絶たない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~

美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。 叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。 日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!? 初回公開日*2017.09.13(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.03.10 *表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...