58 / 82
第8章
第57話 18歳になるまでに
しおりを挟む
深紅のドレスに足をくぐらせ、体にまとわせる。
真新しい、絹のなめらかな感触。
着替えが終わると、ルーチェは顔だけを外に出した。
「お、着られたか?」
「着たんだけど……思ったより露出が……」
恐る恐る出てきたルーチェは、自信なさそうに前屈みで立っていた。
ドレスの胸元は谷間ぎりぎりまで開き、腰のあたりも大きく開いて、やわらかそうな肌をちらつかせた。
冷たい空気が肌に触れ、ぶるっと身震いをした。
「露出は男のロマンだからな」
「ちょっ、妹なんですけど」
反論した言葉は、スウェクトに届かない。
胸元を見て、ため息をついた。
「胸が、ちょっと寂しいな」
兄の瞳から逃れるように、腕を組んで胸元を隠す。
そして、じろりと一瞥した。
「レンにも似たようなことをいわれましたわ」
「この体型を隠すと、子どもっぽいドレスになるからな。胸元が開きすぎているとはいえ、ほどよくフリルもレースも入っている。大人っぽいドレスの中でも、ルーのためだけに作られたドレスのようだな。15歳になったルーチェに、少しでも大人っぽいドレスを着させてあげたかったんだろう」
納得したように頷くスウェクトに、ルーチェは頬を膨らませた。
「もー、こんな服着たことないのに……どうしよう……」
いつもと同じようなドレスだと思って、信じていたのに……。
初めての露出の多いドレスに困惑する。
「試着しておいてよかったな。知らずに明日着てたら、驚きを通り越して絶叫してただろう」
「……確かに」
「ルーも15歳になったことだ。他の婚約者候補にお披露目もかねているし、大人っぽいドレスに慣れていかないとな」
「……知らないオジサンとなんて、結婚したくないもん」
唇を尖らせる。
スウェクトはルーチェの額をぺしんと叩いた。
「わがままをいわない。好きな人がいても、誰を優先すべきか……きちんと向き合わなければいけないだろう。ほら、背筋を伸ばせ」
胸元を隠して丸くなる背中を、ぽんっと叩いた。
いわれた通りに背筋を伸ばす。
露出している肌が色気を増し、普段のルーチェから想像もつかないほど大人びているように見えた。
「スウェクト兄様」
「なんだ」
「もし……婚姻を破棄したら、どうなるかしら」
突然の質問。
スウェクトは驚くことなく、笑った。
「前例がないからなぁ。せめて僕が即位したときに、して欲しいんだけど……そうもいかなそうだな」
スウェクトが即位すれば、法を変えてくれるというのだろうか。
ルーチェはそっと、窓を見つめた。
「あの人は住む世界が違うわ」
出来ることなら、ジンと結ばれたい。
しかし、それは叶わぬこと。
だったら……
「私は、18歳になるまでに出ていくわ」
ルーチェの言葉に、目を丸くした。
そして、呆れたようにため息をつく。
「いつ決めたんだ」
「いま」
計画性のない妹に、さらに深いため息をつく。
「……まったく、手のかかる妹だ」
スウェクトの手がルーチェの頭を撫でる。
指先からは、金色の髪がこぼれ落ちる。
そうだ、と口を開く。
「今日は、リーのところにいくのはやめろ。さっきいったら、誰とも会いたくないといっていたらしい」
リリーは結婚式の前日。
気持ちが不安定になっているのかもしれない。
「わかった。……スウェクト兄様で我慢するわ」
「癇に障るいいかただな。……明日の式が終わるまでは、《外出》も控えろよ」
スウェクトが指す《外出》の意味を理解し、にこりと笑顔を向けた。
「もちろんですわ」
もうしばらく話をしよう、とスウェクトが提案した。
同意したルーチェは、茶を淹れるよう侍女に告げる。
なにを話すでもなく、他愛もない話。
居心地のいい空間。
夜になるまで部屋で話し続けた2人。
ルーチェのことを心配して一緒にいてくれたのだと気がつくのに、そう時間はかからなかった。
真新しい、絹のなめらかな感触。
着替えが終わると、ルーチェは顔だけを外に出した。
「お、着られたか?」
「着たんだけど……思ったより露出が……」
恐る恐る出てきたルーチェは、自信なさそうに前屈みで立っていた。
ドレスの胸元は谷間ぎりぎりまで開き、腰のあたりも大きく開いて、やわらかそうな肌をちらつかせた。
冷たい空気が肌に触れ、ぶるっと身震いをした。
「露出は男のロマンだからな」
「ちょっ、妹なんですけど」
反論した言葉は、スウェクトに届かない。
胸元を見て、ため息をついた。
「胸が、ちょっと寂しいな」
兄の瞳から逃れるように、腕を組んで胸元を隠す。
そして、じろりと一瞥した。
「レンにも似たようなことをいわれましたわ」
「この体型を隠すと、子どもっぽいドレスになるからな。胸元が開きすぎているとはいえ、ほどよくフリルもレースも入っている。大人っぽいドレスの中でも、ルーのためだけに作られたドレスのようだな。15歳になったルーチェに、少しでも大人っぽいドレスを着させてあげたかったんだろう」
納得したように頷くスウェクトに、ルーチェは頬を膨らませた。
「もー、こんな服着たことないのに……どうしよう……」
いつもと同じようなドレスだと思って、信じていたのに……。
初めての露出の多いドレスに困惑する。
「試着しておいてよかったな。知らずに明日着てたら、驚きを通り越して絶叫してただろう」
「……確かに」
「ルーも15歳になったことだ。他の婚約者候補にお披露目もかねているし、大人っぽいドレスに慣れていかないとな」
「……知らないオジサンとなんて、結婚したくないもん」
唇を尖らせる。
スウェクトはルーチェの額をぺしんと叩いた。
「わがままをいわない。好きな人がいても、誰を優先すべきか……きちんと向き合わなければいけないだろう。ほら、背筋を伸ばせ」
胸元を隠して丸くなる背中を、ぽんっと叩いた。
いわれた通りに背筋を伸ばす。
露出している肌が色気を増し、普段のルーチェから想像もつかないほど大人びているように見えた。
「スウェクト兄様」
「なんだ」
「もし……婚姻を破棄したら、どうなるかしら」
突然の質問。
スウェクトは驚くことなく、笑った。
「前例がないからなぁ。せめて僕が即位したときに、して欲しいんだけど……そうもいかなそうだな」
スウェクトが即位すれば、法を変えてくれるというのだろうか。
ルーチェはそっと、窓を見つめた。
「あの人は住む世界が違うわ」
出来ることなら、ジンと結ばれたい。
しかし、それは叶わぬこと。
だったら……
「私は、18歳になるまでに出ていくわ」
ルーチェの言葉に、目を丸くした。
そして、呆れたようにため息をつく。
「いつ決めたんだ」
「いま」
計画性のない妹に、さらに深いため息をつく。
「……まったく、手のかかる妹だ」
スウェクトの手がルーチェの頭を撫でる。
指先からは、金色の髪がこぼれ落ちる。
そうだ、と口を開く。
「今日は、リーのところにいくのはやめろ。さっきいったら、誰とも会いたくないといっていたらしい」
リリーは結婚式の前日。
気持ちが不安定になっているのかもしれない。
「わかった。……スウェクト兄様で我慢するわ」
「癇に障るいいかただな。……明日の式が終わるまでは、《外出》も控えろよ」
スウェクトが指す《外出》の意味を理解し、にこりと笑顔を向けた。
「もちろんですわ」
もうしばらく話をしよう、とスウェクトが提案した。
同意したルーチェは、茶を淹れるよう侍女に告げる。
なにを話すでもなく、他愛もない話。
居心地のいい空間。
夜になるまで部屋で話し続けた2人。
ルーチェのことを心配して一緒にいてくれたのだと気がつくのに、そう時間はかからなかった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~
美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。
叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。
日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!?
初回公開日*2017.09.13(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.03.10
*表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる