【完】海賊王と竜の瞳を持つ皇女

hiro

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第8章

第57話 18歳になるまでに

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 深紅のドレスに足をくぐらせ、体にまとわせる。
 真新しい、絹のなめらかな感触。


 着替えが終わると、ルーチェは顔だけを外に出した。



「お、着られたか?」

「着たんだけど……思ったより露出が……」


 恐る恐る出てきたルーチェは、自信なさそうに前屈みで立っていた。

 ドレスの胸元は谷間ぎりぎりまで開き、腰のあたりも大きく開いて、やわらかそうな肌をちらつかせた。

 冷たい空気が肌に触れ、ぶるっと身震いをした。



「露出は男のロマンだからな」

「ちょっ、妹なんですけど」


 反論した言葉は、スウェクトに届かない。
 胸元を見て、ため息をついた。


「胸が、ちょっと寂しいな」

 兄の瞳から逃れるように、腕を組んで胸元を隠す。
 そして、じろりと一瞥した。


「レンにも似たようなことをいわれましたわ」

「この体型を隠すと、子どもっぽいドレスになるからな。胸元が開きすぎているとはいえ、ほどよくフリルもレースも入っている。大人っぽいドレスの中でも、ルーのためだけに作られたドレスのようだな。15歳になったルーチェに、少しでも大人っぽいドレスを着させてあげたかったんだろう」


 納得したように頷くスウェクトに、ルーチェは頬を膨らませた。


「もー、こんな服着たことないのに……どうしよう……」

 
 いつもと同じようなドレスだと思って、信じていたのに……。
 初めての露出の多いドレスに困惑する。


「試着しておいてよかったな。知らずに明日着てたら、驚きを通り越して絶叫してただろう」

「……確かに」

「ルーも15歳になったことだ。他の婚約者候補にお披露目もかねているし、大人っぽいドレスに慣れていかないとな」

「……知らないオジサンとなんて、結婚したくないもん」


 唇を尖らせる。
 スウェクトはルーチェの額をぺしんと叩いた。


「わがままをいわない。好きな人がいても、誰を優先すべきか……きちんと向き合わなければいけないだろう。ほら、背筋を伸ばせ」


 胸元を隠して丸くなる背中を、ぽんっと叩いた。
 いわれた通りに背筋を伸ばす。

 
 露出している肌が色気を増し、普段のルーチェから想像もつかないほど大人びているように見えた。



「スウェクト兄様」

「なんだ」

「もし……婚姻を破棄したら、どうなるかしら」


 突然の質問。
 スウェクトは驚くことなく、笑った。


「前例がないからなぁ。せめて僕が即位したときに、して欲しいんだけど……そうもいかなそうだな」


 スウェクトが即位すれば、法を変えてくれるというのだろうか。
 ルーチェはそっと、窓を見つめた。



「あの人は住む世界が違うわ」



 出来ることなら、ジンと結ばれたい。
 しかし、それは叶わぬこと。


 だったら……



「私は、18歳になるまでに出ていくわ」



 ルーチェの言葉に、目を丸くした。
 そして、呆れたようにため息をつく。



「いつ決めたんだ」

「いま」


 計画性のない妹に、さらに深いため息をつく。



「……まったく、手のかかる妹だ」


 スウェクトの手がルーチェの頭を撫でる。
 指先からは、金色の髪がこぼれ落ちる。



 そうだ、と口を開く。

「今日は、リーのところにいくのはやめろ。さっきいったら、誰とも会いたくないといっていたらしい」



 リリーは結婚式の前日。
 気持ちが不安定になっているのかもしれない。


「わかった。……スウェクト兄様で我慢するわ」

「癇に障るいいかただな。……明日の式が終わるまでは、《外出》も控えろよ」


 スウェクトが指す《外出》の意味を理解し、にこりと笑顔を向けた。


「もちろんですわ」


 もうしばらく話をしよう、とスウェクトが提案した。
 同意したルーチェは、茶を淹れるよう侍女に告げる。


 なにを話すでもなく、他愛もない話。
 居心地のいい空間。


 夜になるまで部屋で話し続けた2人。

 ルーチェのことを心配して一緒にいてくれたのだと気がつくのに、そう時間はかからなかった。
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