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第8章
第56話 愛妹の晴れ姿
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よし、と掛け声をあげた。
今日はオーディン地帯へいくのを諦めよう。
そして、明日旅立つリリーの部屋を訪れることにしよう。
そう決意をすると、部屋の扉を開けた。
「ひゃっ!」
「おっと」
部屋から足を踏み出したとき、柔らかい壁のようなものにぶつかった。
見上げると、そこにいたのは……
「どこにいくんだ?」
「スウェクト兄様」
ルーチェの部屋に入ろうとしていたスウェクトは、突進してきた妹を受け止めた。
普段と違った艶やかな衣装を身にまとい、青い衣装が風になびく。
「結婚式に参列するときの衣装?」
ルーチェの言葉に、あぁ、と答えた。
「どうだ、似合うか? 妻に見せても『なんでも似合う』としかいわなくて、参考にならん。ルーなら忖度なしで感想をいってくれるだろう」
なるほど、と頷くと、スウェクトの全身に瞳をうつした。
青い上着には金の刺繍。
左胸には、ルバーニャ国の紋章が刻まれた衣装。
袖は大きく開き、風通しのよさそうな服だ。
頭に乗せた王冠は、動くたびに装飾の音が鳴り、華やかさを増した。
上から下までじっくりと見ると、納得したように首を縦に動かした。
「とてもよく似合いますわ。でもスウェクト兄様の髪は淡い橙色ですので、もう少し濃い紺色の服のほうが似合うかもしれません」
ルーチェの言葉に、そうか、と口を開く。
「なるほどね。僕の髪色なんて、考えていなかった」
頬をかいて、照れ笑いを浮かべた。
「ルーの着る服は、あれか?」
部屋のハンガーラックにかけてあるドレスに視線をうつすと、スウェクトは部屋に入った。
服を見ると、なるほど、と頷いた。
「深紅のドレスか。金色の髪が際立つ色だな。……レンが見立てたのか?」
ルーチェは頷く。
「まだ着てはいないけど……レンが選んだものだから、私に一番似合う服なはずだわ」
「いま着てみろ。俺が採点してやるから」
「えー、面倒……」
「愛妹の晴れ姿を、見てみたいじゃないか。生誕祭のときは部屋にこもりっきりだったし、バルト国王陛下に会うときだって、俺に内緒で着飾ったんだろう」
内緒で、とは人聞きの悪い。
密会をしていたようないいかたに、ルーチェは眉をひそめた。
「……偶然会っただけよ。お見合いも兼ねたことだし、会ったのもちょっとだけよ」
それでも不満そうなスウェクトの姿を見て、ため息をついた。
「わかったわよ。着るだけだからね」
ハンガーラックからドレスをとると、ルーチェは部屋の奥までいき、フィッティングルームに身を隠した。
ドレスを置くと、いま着ている服を解く。
長い金色の髪を手で支えながら、そっと脱いだ。
服のこすれる音が、会話のない部屋に響いた。
今日はオーディン地帯へいくのを諦めよう。
そして、明日旅立つリリーの部屋を訪れることにしよう。
そう決意をすると、部屋の扉を開けた。
「ひゃっ!」
「おっと」
部屋から足を踏み出したとき、柔らかい壁のようなものにぶつかった。
見上げると、そこにいたのは……
「どこにいくんだ?」
「スウェクト兄様」
ルーチェの部屋に入ろうとしていたスウェクトは、突進してきた妹を受け止めた。
普段と違った艶やかな衣装を身にまとい、青い衣装が風になびく。
「結婚式に参列するときの衣装?」
ルーチェの言葉に、あぁ、と答えた。
「どうだ、似合うか? 妻に見せても『なんでも似合う』としかいわなくて、参考にならん。ルーなら忖度なしで感想をいってくれるだろう」
なるほど、と頷くと、スウェクトの全身に瞳をうつした。
青い上着には金の刺繍。
左胸には、ルバーニャ国の紋章が刻まれた衣装。
袖は大きく開き、風通しのよさそうな服だ。
頭に乗せた王冠は、動くたびに装飾の音が鳴り、華やかさを増した。
上から下までじっくりと見ると、納得したように首を縦に動かした。
「とてもよく似合いますわ。でもスウェクト兄様の髪は淡い橙色ですので、もう少し濃い紺色の服のほうが似合うかもしれません」
ルーチェの言葉に、そうか、と口を開く。
「なるほどね。僕の髪色なんて、考えていなかった」
頬をかいて、照れ笑いを浮かべた。
「ルーの着る服は、あれか?」
部屋のハンガーラックにかけてあるドレスに視線をうつすと、スウェクトは部屋に入った。
服を見ると、なるほど、と頷いた。
「深紅のドレスか。金色の髪が際立つ色だな。……レンが見立てたのか?」
ルーチェは頷く。
「まだ着てはいないけど……レンが選んだものだから、私に一番似合う服なはずだわ」
「いま着てみろ。俺が採点してやるから」
「えー、面倒……」
「愛妹の晴れ姿を、見てみたいじゃないか。生誕祭のときは部屋にこもりっきりだったし、バルト国王陛下に会うときだって、俺に内緒で着飾ったんだろう」
内緒で、とは人聞きの悪い。
密会をしていたようないいかたに、ルーチェは眉をひそめた。
「……偶然会っただけよ。お見合いも兼ねたことだし、会ったのもちょっとだけよ」
それでも不満そうなスウェクトの姿を見て、ため息をついた。
「わかったわよ。着るだけだからね」
ハンガーラックからドレスをとると、ルーチェは部屋の奥までいき、フィッティングルームに身を隠した。
ドレスを置くと、いま着ている服を解く。
長い金色の髪を手で支えながら、そっと脱いだ。
服のこすれる音が、会話のない部屋に響いた。
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