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第7章
第49話 突然の訪問
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朝の早い時間。
慌しいレンの声で起こされた。
「ルーチェ様、起きてください。ルーチェ様」
「んーっ」
眠気を必死で隠しながら瞳を開ける。
予想以上にレンの顔近くにあり、驚きで頭が覚醒した。
「レン……っ! ど、どうしたの?」
いつもなら、朝は侍女が起こすはず。
レンが起こしにくることなど、滅多にない。
ルーチェが起きたことを確認すると、すぐにそばにあるドレスを手にとった。
「すぐお着替えください。バルト国王陛下がお見えです」
「はぁ? なんで」
「国王様のもとへ訪問なさっているようなのですが、婚約者候補であるルーチェ様にお目通しを、と思ったようで」
だからといって、朝一番の、この時間に?
眉をひそめると、むぅ、と唇を尖らせた。
「せっかく気持ちよく寝てたのに!」
「お休みになっている、とは伝えたのですが……うまくいけば、お見合いの手間が省けますよ」
ぴくっと耳を動かし、顎に手をあてた。
面倒な見合い。
いま済んでしまうなら、それもいいかもしれない。
レンはドレスに似合う髪飾りを揃えて、テーブルに置いた。
「とにかく、お着替えください。もうすぐ国王様との会議も終わるかと思われますので」
「はぁーい」
仕方なくドレスを手にとると、部屋の奥にあるフィッティングルームに身を隠した。
寝ていたときの服をそっと脱ぐと、真新しいドレスに袖を通す。
柔らかい生地が、寝起きの肌をくすぐる。
真っ白のドレスに、深紅の薔薇の刺繍。
胸元はしっかりと覆われていて、袖も肘のあたりまで隠されていた。
丈が少し短めのデザインで、膝のあたりに風が通り抜ける。
着替え終わると、フィッティングルームからひょこっと顔を出した。
そして、くるりとひと回り。
「どぉ?」
「とてもよくお似合いです。さぁ、いきましょうか」
「……もうちょっと余韻に浸って欲しいわ」
「急がないと、バルト国王陛下のご機嫌を損ねてしまいますよ」
差し伸べられた手を見て、ため息をついた。
「わかったわよ」
手を握り返すと、2人は部屋をあとにした。
履き慣れない新しい靴の音が、コツコツと鳴り響く。
真新しい靴は、一歩進むたびに、踵のあたりに痛みを感じる。
いつも長く感じる廊下が、今日に限って短く感じる。
あっという間に、目的の部屋に到着した。
コンコン。
指の背で叩くと、どうぞ、と中から促された。
「失礼いたします」
扉を開けると、レンはその場で跪拝した。
ルーチェが先に入室をするようにと、そっと視線を送る。
その意図に気づき、ルーチェはすっと足を進めると、偽りの仮面を被った。
「お初にお目にかかります。ルバーニャ王国第2皇女、ルーチェ・フィールと申します」
顎を引き、下腹のあたりで両手を添えるように重ね、背筋を伸ばす。
小首を傾げ、肩から溢れた金糸の髪がさらりと揺れる。
ラピスラズリ色の瞳を細め、皇女の仮面をつける。
ほう、と感嘆が漏れた。
「堅苦しくするでない。もっと近こう寄れ」
「……はい」
初めて見るバルト国王の顔は、デレデレと緩んでいた。
どう見ても、レンよりも年上。
というよりも、かなりご年配だった。
国王でなければ、たんなるスケベな親父――…
いや、女の敵だ。
隣の椅子に座るように促される。
戸惑いながらも、ゆっくりと腰をおろした。
伏し目がちに様子をうかがっていたルーチェ。
それが、健気で内気な皇女、と誤解させてしまい、バルト国王はよりいっそう頬を緩ませた。
(ヤバイ……想像してた以上に、気持ちが悪い……っ!)
実際会うと、写真よりもずっとオジサン。
隠しきれない年齢差が、ひしひしと伝わる。
諦めたようにため息をつくルーチェを見て、それもまた艶めいていると誤解された。
壁と同化して気配を消すレンからは、触るな、という怒りのオーラが出ていた。
(……早く抜け出したい)
苛立ちを隠しながら、ルーチェは必死でつくり笑顔を向けた。
慌しいレンの声で起こされた。
「ルーチェ様、起きてください。ルーチェ様」
「んーっ」
眠気を必死で隠しながら瞳を開ける。
予想以上にレンの顔近くにあり、驚きで頭が覚醒した。
「レン……っ! ど、どうしたの?」
いつもなら、朝は侍女が起こすはず。
レンが起こしにくることなど、滅多にない。
ルーチェが起きたことを確認すると、すぐにそばにあるドレスを手にとった。
「すぐお着替えください。バルト国王陛下がお見えです」
「はぁ? なんで」
「国王様のもとへ訪問なさっているようなのですが、婚約者候補であるルーチェ様にお目通しを、と思ったようで」
だからといって、朝一番の、この時間に?
眉をひそめると、むぅ、と唇を尖らせた。
「せっかく気持ちよく寝てたのに!」
「お休みになっている、とは伝えたのですが……うまくいけば、お見合いの手間が省けますよ」
ぴくっと耳を動かし、顎に手をあてた。
面倒な見合い。
いま済んでしまうなら、それもいいかもしれない。
レンはドレスに似合う髪飾りを揃えて、テーブルに置いた。
「とにかく、お着替えください。もうすぐ国王様との会議も終わるかと思われますので」
「はぁーい」
仕方なくドレスを手にとると、部屋の奥にあるフィッティングルームに身を隠した。
寝ていたときの服をそっと脱ぐと、真新しいドレスに袖を通す。
柔らかい生地が、寝起きの肌をくすぐる。
真っ白のドレスに、深紅の薔薇の刺繍。
胸元はしっかりと覆われていて、袖も肘のあたりまで隠されていた。
丈が少し短めのデザインで、膝のあたりに風が通り抜ける。
着替え終わると、フィッティングルームからひょこっと顔を出した。
そして、くるりとひと回り。
「どぉ?」
「とてもよくお似合いです。さぁ、いきましょうか」
「……もうちょっと余韻に浸って欲しいわ」
「急がないと、バルト国王陛下のご機嫌を損ねてしまいますよ」
差し伸べられた手を見て、ため息をついた。
「わかったわよ」
手を握り返すと、2人は部屋をあとにした。
履き慣れない新しい靴の音が、コツコツと鳴り響く。
真新しい靴は、一歩進むたびに、踵のあたりに痛みを感じる。
いつも長く感じる廊下が、今日に限って短く感じる。
あっという間に、目的の部屋に到着した。
コンコン。
指の背で叩くと、どうぞ、と中から促された。
「失礼いたします」
扉を開けると、レンはその場で跪拝した。
ルーチェが先に入室をするようにと、そっと視線を送る。
その意図に気づき、ルーチェはすっと足を進めると、偽りの仮面を被った。
「お初にお目にかかります。ルバーニャ王国第2皇女、ルーチェ・フィールと申します」
顎を引き、下腹のあたりで両手を添えるように重ね、背筋を伸ばす。
小首を傾げ、肩から溢れた金糸の髪がさらりと揺れる。
ラピスラズリ色の瞳を細め、皇女の仮面をつける。
ほう、と感嘆が漏れた。
「堅苦しくするでない。もっと近こう寄れ」
「……はい」
初めて見るバルト国王の顔は、デレデレと緩んでいた。
どう見ても、レンよりも年上。
というよりも、かなりご年配だった。
国王でなければ、たんなるスケベな親父――…
いや、女の敵だ。
隣の椅子に座るように促される。
戸惑いながらも、ゆっくりと腰をおろした。
伏し目がちに様子をうかがっていたルーチェ。
それが、健気で内気な皇女、と誤解させてしまい、バルト国王はよりいっそう頬を緩ませた。
(ヤバイ……想像してた以上に、気持ちが悪い……っ!)
実際会うと、写真よりもずっとオジサン。
隠しきれない年齢差が、ひしひしと伝わる。
諦めたようにため息をつくルーチェを見て、それもまた艶めいていると誤解された。
壁と同化して気配を消すレンからは、触るな、という怒りのオーラが出ていた。
(……早く抜け出したい)
苛立ちを隠しながら、ルーチェは必死でつくり笑顔を向けた。
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