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第7章
第48話 彼が欲しいと、訴える心
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悲しみにくれる妹の頬に、リリーは手をそっと添えた。
「……少なくとも私は、政略結婚だとは思っておりません」
なだめるような声に、ルーチェは顔を上げた。
「確かに、最初から相手が決められていることは窮屈ですわ。でも彼は、私を大切に思ってくれています。それは、誰であっても同じこと。そばにいれば優しさも見えてくるわ」
「リリー姉様」
「……そうだぞ。僕だって妻を愛している。相手は決められていても、次期王妃となるには申し分ない素晴らしい女性だ」
「スウェクト兄様」
いまの生活に満足している2人にとって、ルーチェの考えのほうが理解出来なかった。
悟ったリリーは腰を屈め、目線を合わせた。
「好きな人でも、出来た?」
「……っ」
答えは喉の奥に詰まる。
そんなわけはないと、心で否定をする。
それでも心の鼓動は止まらない。
近くにいて、肌に触れて、声を聞いて――もう後戻りが出来ないくらいの感情が育っていた。
心が、《彼が欲しい》と訴える。
「そうなのね」
無言でうつむく妹に、リリーは小さく呟いた。
「あ、あの……姉様」
首を傾け、うつむく顔を覗くと、頬がほんのりと紅潮していた。
「私、恋というものが、わからないんです。一度もしたことがないから……」
恋とは無縁だった生活。
でも、と言葉を続けると、まっすぐとリリーを見つめた。
「王宮の生活と、彼らといる生活……どちらが幸せかと聞かれれば、迷うことなく彼らのそばにいることを選ぶと思います」
信念のこもった瞳。
まだ別れの覚悟が出来ていないことが悟られないように、そっと心に蓋をする。
「……わかったわ」
「リリー?」
「兄様、私たち兄妹の秘密、にしましょう。兄妹の秘密なんて、悪いことしているようでワクワクしません?」
「お前なぁー……」
リリーは屈めていた腰をまっすぐに伸ばすと、渋るスウェクトの頬をつねった。
「いててて」
引っ張られて痛みが走る頬に、スウェクトは眉を寄せた。
リリーはにこりと笑みを浮かべる。
「あなたが決めたのなら、私たちはなにもいいませんわ。ルーチェも、もう大人。自分が愛する人なら、責任を持って最後までついていきなさい」
「リリー姉様」
「大丈夫。レンにバレたくないんでしょう? ちゃんと黙っていてあげるわ」
「……ありがとうございます」
つねる頬から手を離すと、解放されたスウェクトが大きくため息をついた。
「無茶だけしないでくれよ。あと、バルト国王陛下との見合いは、形だけでもすること」
「スウェクト兄様」
「――もうすぐ夜が明けるから、見つからないように部屋に戻れ。じゃないと侍女たちが起きてしまうだろう」
「ふふふ、そうね」
うっすらと太陽の日差しが空に滲み、夜が明けることを告げている。
優しい笑みの兄姉に安堵の息を漏らす。
先を歩く2人の背を追うように、城の中へと入っていった。
そしてまた、何事もなかったかのように朝がやってきた。
「……少なくとも私は、政略結婚だとは思っておりません」
なだめるような声に、ルーチェは顔を上げた。
「確かに、最初から相手が決められていることは窮屈ですわ。でも彼は、私を大切に思ってくれています。それは、誰であっても同じこと。そばにいれば優しさも見えてくるわ」
「リリー姉様」
「……そうだぞ。僕だって妻を愛している。相手は決められていても、次期王妃となるには申し分ない素晴らしい女性だ」
「スウェクト兄様」
いまの生活に満足している2人にとって、ルーチェの考えのほうが理解出来なかった。
悟ったリリーは腰を屈め、目線を合わせた。
「好きな人でも、出来た?」
「……っ」
答えは喉の奥に詰まる。
そんなわけはないと、心で否定をする。
それでも心の鼓動は止まらない。
近くにいて、肌に触れて、声を聞いて――もう後戻りが出来ないくらいの感情が育っていた。
心が、《彼が欲しい》と訴える。
「そうなのね」
無言でうつむく妹に、リリーは小さく呟いた。
「あ、あの……姉様」
首を傾け、うつむく顔を覗くと、頬がほんのりと紅潮していた。
「私、恋というものが、わからないんです。一度もしたことがないから……」
恋とは無縁だった生活。
でも、と言葉を続けると、まっすぐとリリーを見つめた。
「王宮の生活と、彼らといる生活……どちらが幸せかと聞かれれば、迷うことなく彼らのそばにいることを選ぶと思います」
信念のこもった瞳。
まだ別れの覚悟が出来ていないことが悟られないように、そっと心に蓋をする。
「……わかったわ」
「リリー?」
「兄様、私たち兄妹の秘密、にしましょう。兄妹の秘密なんて、悪いことしているようでワクワクしません?」
「お前なぁー……」
リリーは屈めていた腰をまっすぐに伸ばすと、渋るスウェクトの頬をつねった。
「いててて」
引っ張られて痛みが走る頬に、スウェクトは眉を寄せた。
リリーはにこりと笑みを浮かべる。
「あなたが決めたのなら、私たちはなにもいいませんわ。ルーチェも、もう大人。自分が愛する人なら、責任を持って最後までついていきなさい」
「リリー姉様」
「大丈夫。レンにバレたくないんでしょう? ちゃんと黙っていてあげるわ」
「……ありがとうございます」
つねる頬から手を離すと、解放されたスウェクトが大きくため息をついた。
「無茶だけしないでくれよ。あと、バルト国王陛下との見合いは、形だけでもすること」
「スウェクト兄様」
「――もうすぐ夜が明けるから、見つからないように部屋に戻れ。じゃないと侍女たちが起きてしまうだろう」
「ふふふ、そうね」
うっすらと太陽の日差しが空に滲み、夜が明けることを告げている。
優しい笑みの兄姉に安堵の息を漏らす。
先を歩く2人の背を追うように、城の中へと入っていった。
そしてまた、何事もなかったかのように朝がやってきた。
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