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第6章

第40話 彼らの居場所

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 橋を渡りきったあと、ふと違和感に気づいた。

「あれ、そっちは宿舎じゃないよ?」

 いつもとは違う方向へ向かう足。
 するとジンは、あぁ、と答えた。


「お前、まだカイルに挨拶してないんだろう」



 カイルとは、副船長のこと。
 大の女嫌いで、遊女などが多くいるオーディン地帯から逃げるために、船へ避難している。

 ずっと船にいるため、挨拶をする機会が一度もなかった。



 《サラ》はゆっくりと頷いた。

「この前、ディンセントさんが船に連れていこうとしてくれたけど、急病人が出ちゃっていけなかったわ」

「ディンセントも忙しいからな。うちの船員は意外と、精神が弱い。環境が変わると、すぐに胃を悪くしたり、下痢になったりする」

「それって、お酒の飲みすぎもあると思うけど……」

《サラ》の言葉に、ジンは意地悪な笑みを浮かべた。

「海賊は、水よりも酒なんだよ。殺菌作用もあるし、長期間の航海にはうってつけだ」

「……お酒好きな理由を正当化したわね」


 朝から寝るまで酒で胃を満たす彼らを見て、幾度となくため息をついた。

 健康を考えて、休肝日を設けようと提案したこともあった。
 しかし、誰1人として、アルコールの摂取をやめられなかった。


 《サラ》に優しいガレットも、こればかりは聞いてくれなかった。
 どのようにお酒をやめさせようか、別の作戦を考えているところだ。



 でも、と言葉を続けた。

「みんなを紹介してくれたときも思ったけど、ジンは船員のことをちゃんと見ているわ。やっぱり、船長なのね」


 30人いる船の乗員1人1人を、ジンは把握していた。
 誰が、どんな仕事をしていて、どんな性格か。

 《サラ》に紹介をしたときに、1人1人ていねいに教えてくれた。


 船長から率先して船員に歩み寄らなければ、船員は離れていってしまう。

 先代船長が教えてくれた、ただ1つの教え……



「俺があいつらの居場所になってやらなきゃ、誰にも見てもらえねぇ。褒めるのも、叱るのも――あいつらを導くのは、船長である俺の仕事だ」

「あら、不安になっていたのは誰かしら?」

 からかうように顔を覗き込むと、ジンはニヤリと笑った。

「そうなったら、遊女と夜を過ごすだけだ」

「――っ、遊女……と?」

 驚きのあまり、ぱっと手を離す。


 ジンも、他の船員と同じように、遊女と夜を過ごしていた。
 遊女と過ごすということは、つまり……


 《サラ》の顔色はみるみるうちに蒼褪めていき、その場で足を止めた。



 しだいにジンとの距離が開く。



 近いようで遠い存在。
 彼はいつでも、遠くへいってしまう、自由の中で生きる海賊。
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