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第6章

第39話 心配してくれた?

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 昨夜、ジンの部屋へいったことで寝不足気味のルーチェ。
 侍女に起こされてからずっと欠伸を連発し、体調不良かと心配されるほどだった。



 朝の身支度を終えたあと、ルーチェは読書をするために本を手にする。

「御用がございましたら、ベルでお呼びください」

 侍女は深々と頭を下げると、部屋をあとにした。



 侍女が部屋を出ていったのを確認すると、ルーチェはすぐに茶色のマントを取り出した。

 門の護衛が昼の交代時間になる、わずかな時間を狙って抜け出す。


 手慣れた様子で城壁を越えると、ルーチェは街へ向かって歩き出した。



 街の店には目もくれず、コキュートス川まで足を急がせた。
 コキュートス川にかかる橋まで着くと、大きく息を吸い込み、乱れた呼吸を整えた。



 コキュートス川を越えたら、ルーチェは《サラ》になる。





 あたりを警戒しながら橋へと近づく。
 人気のない橋は、なにかあってからでは遅い。


 いつでも大声を出せるように、慎重に、慎重に……



「おい、ガキ」

「きゃあ!」


 聞き覚えのある声が届く。

 ふり返ると、不機嫌そうな顔をしたジンの姿があった。
 橋の欄干に腰をかけ、腕組みをしてこちらを見ていた。


 驚いた《サラ》は、ジンのもとへ駆け寄った。


「びっくりした……。どうしたの? 今日は街へ買い物とか? ……そのわりには、何も持っていないようだけど」

 身軽な姿のジンを、まじまじと見つめる。
 ジンはじろりと一瞥した。

「なんだっていいだろう」

 そういうと、先に橋を渡り始めた。


(あれ……なんで……?)


 まるで《サラ》を待っていたかのよう。

 不機嫌そうに見えるのは、照れ隠しだろうか。
 歩調を合わせてくれている優しさに、胸が大きく鼓動する。


 そばまで駆け寄ると、ジンの服の裾を掴み、後ろを歩き始めた。


「ジン」

「なんだ」

 前を向いたままのジン。
 くいっと引き寄せると、いつものお返し、といわんばかりに、口を耳元へと近づけた。


「迎えにきてくれたの?」


 コキュートス川の近くは危険がたくさんある。
 しかし《サラ》は、海賊一味に会うために、オーディン地帯まで足繁く通っている。

 危険から守るために、迎えにきてくれたのだろうか。



 答えを待っていると、ジンは怪訝そうに眉をひそめた。

「バカか」

「……はっ?」

「調子に乗るなよ、ガキ」

「……くっ」


 悔しい。
 勘違いだったのか。

 と呟いても、返事はなかった。
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