38 / 82
第6章
第37話 唇を奪われる覚悟
しおりを挟む
宴の真っ只中、ジンは自分の部屋へと向かった。
廊下からは冷たい夜風が流れる。
窓は閉めきっているのに、おかしい。
その風は、ジンの部屋から吹いていた。
部屋に入ると、窓が全開になっていた。
ジンは、大きくため息をついた。
「お邪魔してまぁーす」
鈴を転がすかのような声。
ベッドの上には、あたり前のように居座る少女がいた。
最近は、夜にこの宿舎へくることも増えてきた。
夜は宴をしているため、宿舎にくるときはジンの部屋に居座る。
くるかもしれない、と思い、窓の鍵は開けておくようになった。
しかし、夜半に男の部屋に侵入する《サラ》の無防備さに呆れて、ため息しか出ない。
「ガキはもう寝る時間だろう」
ジンは上着を脱ぐと、ソファーの上に乗せた。
酒で体が火照っているせいで、部屋の中が熱く感じる。
《サラ》はうつ伏せになりながら頬をついた。
「寝る前に、あなたの顔を見にきたのよ」
あの夜からずっと、頭から離れない……ジンの言葉。
背負うものが多すぎて、押しつぶされてしまいそうなくらい弱々しい言葉。
出来る限り、そばにいたい。
そばにいて、ジンの重荷を少しでも軽くしたい。
まっすぐに見つめるラピスラズリ色の瞳に、胸が強く鼓動する。
「顔なら、いくらでも見せてやるよ」
「きゃっ!」
うつ伏せになる《サラ》を包むように覆い被さる。
服の上からでもわかる、なめらかな背中のライン。
金色の髪から首筋があらわになり、欲望をかきたてる。
首筋に顔を埋めると、ほんのり甘い香りがした。
「なに、してるの……?」
緊張で震える声。
理性を失う。
こいつは、遊女とは違う。
わかっているのに、この小さな体をめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られる。
ジンはそっと、唇を寄せた。
「痛っ!」
首筋が、チリッと痛む。
慌てて振り返ると、紅い瞳が月夜に照らされて輝いた。
(キレイ……)
仰向けになり、向かい合う。
互いが惹かれるかのように、唇が重なった。
甘く蕩けるような口づけ……。
少しでも強く触れたら、壊れてしまいそうな、か弱い少女。
そっと触れるだけの、口づけ。
唇が離れる。
部屋の涼しい風が、潤った唇を撫でた。
「ちゃんと、唇を奪われる覚悟で、オーディン地帯に入ったのよ。……これでわかったかしら?」
ぷいっとそっぽを向く頬は、月の明かりに照らされて、桜色に染まっていた。
廊下からは冷たい夜風が流れる。
窓は閉めきっているのに、おかしい。
その風は、ジンの部屋から吹いていた。
部屋に入ると、窓が全開になっていた。
ジンは、大きくため息をついた。
「お邪魔してまぁーす」
鈴を転がすかのような声。
ベッドの上には、あたり前のように居座る少女がいた。
最近は、夜にこの宿舎へくることも増えてきた。
夜は宴をしているため、宿舎にくるときはジンの部屋に居座る。
くるかもしれない、と思い、窓の鍵は開けておくようになった。
しかし、夜半に男の部屋に侵入する《サラ》の無防備さに呆れて、ため息しか出ない。
「ガキはもう寝る時間だろう」
ジンは上着を脱ぐと、ソファーの上に乗せた。
酒で体が火照っているせいで、部屋の中が熱く感じる。
《サラ》はうつ伏せになりながら頬をついた。
「寝る前に、あなたの顔を見にきたのよ」
あの夜からずっと、頭から離れない……ジンの言葉。
背負うものが多すぎて、押しつぶされてしまいそうなくらい弱々しい言葉。
出来る限り、そばにいたい。
そばにいて、ジンの重荷を少しでも軽くしたい。
まっすぐに見つめるラピスラズリ色の瞳に、胸が強く鼓動する。
「顔なら、いくらでも見せてやるよ」
「きゃっ!」
うつ伏せになる《サラ》を包むように覆い被さる。
服の上からでもわかる、なめらかな背中のライン。
金色の髪から首筋があらわになり、欲望をかきたてる。
首筋に顔を埋めると、ほんのり甘い香りがした。
「なに、してるの……?」
緊張で震える声。
理性を失う。
こいつは、遊女とは違う。
わかっているのに、この小さな体をめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られる。
ジンはそっと、唇を寄せた。
「痛っ!」
首筋が、チリッと痛む。
慌てて振り返ると、紅い瞳が月夜に照らされて輝いた。
(キレイ……)
仰向けになり、向かい合う。
互いが惹かれるかのように、唇が重なった。
甘く蕩けるような口づけ……。
少しでも強く触れたら、壊れてしまいそうな、か弱い少女。
そっと触れるだけの、口づけ。
唇が離れる。
部屋の涼しい風が、潤った唇を撫でた。
「ちゃんと、唇を奪われる覚悟で、オーディン地帯に入ったのよ。……これでわかったかしら?」
ぷいっとそっぽを向く頬は、月の明かりに照らされて、桜色に染まっていた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
お嬢様の執事は、夜だけ男の顔を見せる
hiro
恋愛
正統派執事様×意地っ張りお嬢様
「最後に、お嬢様に
《男》というものを
お教えして差し上げましょう」
禁断の身分差…
もし執事に
叶わぬ恋をしてしまったら…
愛することを諦められますか?
それとも――…?
※過去作品をリライトしながら投稿します。
過去のタイトル「お嬢様の犬」
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる