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第6章

第37話 唇を奪われる覚悟

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 宴の真っ只中、ジンは自分の部屋へと向かった。

 廊下からは冷たい夜風が流れる。
 窓は閉めきっているのに、おかしい。

 その風は、ジンの部屋から吹いていた。





 部屋に入ると、窓が全開になっていた。
 ジンは、大きくため息をついた。



「お邪魔してまぁーす」


 鈴を転がすかのような声。
 ベッドの上には、あたり前のように居座る少女がいた。



 最近は、夜にこの宿舎へくることも増えてきた。
 夜は宴をしているため、宿舎にくるときはジンの部屋に居座る。

 くるかもしれない、と思い、窓の鍵は開けておくようになった。


 しかし、夜半に男の部屋に侵入する《サラ》の無防備さに呆れて、ため息しか出ない。



「ガキはもう寝る時間だろう」

 ジンは上着を脱ぐと、ソファーの上に乗せた。
 酒で体が火照っているせいで、部屋の中が熱く感じる。



 《サラ》はうつ伏せになりながら頬をついた。

「寝る前に、あなたの顔を見にきたのよ」



 あの夜からずっと、頭から離れない……ジンの言葉。

 背負うものが多すぎて、押しつぶされてしまいそうなくらい弱々しい言葉。



 出来る限り、そばにいたい。
 そばにいて、ジンの重荷を少しでも軽くしたい。



 まっすぐに見つめるラピスラズリ色の瞳に、胸が強く鼓動する。



「顔なら、いくらでも見せてやるよ」

「きゃっ!」

 うつ伏せになる《サラ》を包むように覆い被さる。


 服の上からでもわかる、なめらかな背中のライン。

 金色の髪から首筋があらわになり、欲望をかきたてる。


 首筋に顔を埋めると、ほんのり甘い香りがした。



「なに、してるの……?」



 緊張で震える声。
 理性を失う。


 こいつは、遊女とは違う。

 わかっているのに、この小さな体をめちゃくちゃにしてしまいたい衝動に駆られる。



 ジンはそっと、唇を寄せた。

「痛っ!」

 首筋が、チリッと痛む。
 慌てて振り返ると、紅い瞳が月夜に照らされて輝いた。



(キレイ……)



 仰向けになり、向かい合う。
 互いが惹かれるかのように、唇が重なった。



 甘く蕩けるような口づけ……。



 少しでも強く触れたら、壊れてしまいそうな、か弱い少女。


 そっと触れるだけの、口づけ。


 唇が離れる。
 部屋の涼しい風が、潤った唇を撫でた。


 
「ちゃんと、唇を奪われる覚悟で、オーディン地帯に入ったのよ。……これでわかったかしら?」


 ぷいっとそっぽを向く頬は、月の明かりに照らされて、桜色に染まっていた。
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