【完】海賊王と竜の瞳を持つ皇女

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第5章

第24話 王家の宝玉

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 ジンのそばで雑用をすることとなった《サラ》は、ルーチェとして無事に王宮まで戻り、部屋のベッドで横になっていた。

 王宮を抜け出すことに、罪悪感がないわけではない。


 オーディン地帯は無法地帯で、危険なところ。
 しかし、川の向こうにはまだ知らぬものがたくさん詰まっていた。



(あんなに自分勝手な人に、船長なんて務まるのかしら?)

 変なの、と呟く。



 コンコン。



 部屋にノックの音が響き渡る。

「……っ! 誰?」

 咳払いをして、何事もなかったかのように顔を引き締める。
 ルーチェは扉へと視線をうつした。



「失礼します」

 入ってきたのはレン。
 式典用の礼服を何着か持ってきたようだ。

 ルーチェはいつものように、にこりと笑った。


「どうしたの?」

 レンは近くまで歩み寄ると、一礼した。

「今度おこなわれる《第1皇女リリー様のご結婚式用のドレス》と《バルト国王陛下とのお見合い用のドレス》を見立ててまいりました。もしよろしければ、ご試着をなさってみては、と思いまして」

「そう、ありがとう」

「サイズの変更はないかと思われますが、裾あげなどの必要がございましたら、侍女にお申しつけください」

「サイズの変更はない、って……どういうことかしら?」

「いえ、大きくなっている可能性が皆無かと……」

「失礼ね! 私だって、少しは成長しているわ」


 とはいったものの、おそらくレンのいうことが正しい。
 ルーチェ自身が知らないようなことも、すべて把握しているくらいだ。


 拗ねたように頬を膨らませていると、レンが言葉を続けた。

「――それから」

「まだあるの?」

 気だるげなルーチェに、レンは頷く。


「結婚式の際は《王家の宝玉》を、必ず隠してお持ちになりますように」


 《王家の宝玉》……
 それは、ルーチェの好きなお伽話に出てくる、竜の力を封じこめた《青い石》のことだ。


 持ち主が望む全ての者に《幸運》や《幸福》を与える、不思議な宝玉。

 宝玉に触れるのを許されているのは、この世にただ1人……
 宝玉と同じラピスラズリ色の瞳を持つルーチェだけ。


 もし他の者が触れたとき、竜の怒りを買い、その国は滅びるといわれている。


 いつしか宝玉の噂は、各地に知れ渡った。

 たとえ竜の怒りがあろうとも、宝玉を手にすれば《幸運》や《幸福》が訪れるのであれば、と……。
 欲望に溺れた群衆が、ルバーニャ国を襲撃してくるようになった。



 しかし、噂は噂。
 宝玉の効果が事実かどうか、一度も試したことはない。



「大事な式典のときには、いつも身につけるんでしょう。……わかっているわ」


 ルーチェは、金色の髪に隠れている耳飾りに指を添えた。


 《青い石》をもとにして造られた、耳飾り。
 宝玉のような力はないものの、持ち主が愛する者のみに《幸福》を与えられるといわれている。

 丸くて冷たい感触が、指先に伝わる。



「ルーチェ様は《王家の宝玉》と同じ、ラピスラズリ色の瞳を受け継いでお生まれになりました。瞳の色を見た国王陛下が、《王家の宝玉》をルーチェ様にお預けになったのですから――決して、失くさぬようにお願いいたします」

 レンは恭しく頭を垂れた。


「式典にまぎれて、盗みにくる輩がいたりするからでしょ。《王家の宝玉》は、絶対に盗まれたりなんかさせないわ」


 式典のたびに、気を引き締める言葉をかけられる。

 ルーチェはため息をついた。
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