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第4章

第22話 その瞳が欲しい

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「どうだ? 取り引きしねぇか?」

「取り引き?」

 ラピスラズリ色の瞳が揺れ動く。



「お前がこの船の雑用をする代わり、俺がお前の望むものをひとつ、叶えてやろう」


 《サラ》は眉間に皺を寄せた。

「私の、望むもの……」



 望むものは、自由。
 城に縛られるだけではなく、外の世界で居場所を見つけたい《サラ》にとって、これは好条件だった。


 言葉に詰まっていると、紅蓮の瞳が不敵な笑みを返した。



「……本当に、望みを叶えてくださるの?」

 もしかしたら叶わないかもしれない。
 それでも、わずかでも可能性のあるほうへ賭けたい。


 ジンは深く頷いた。

「俺は海賊だ。――欲しいものはすべて手に入れるプロだ」


 自信たっぷりの言葉に、心臓がトクンと跳ね上がった。

 この、紅く輝く瞳を、信じてみたい……。



 《サラ》はこくりと頷いた。

「わかったわ」

 ジンはニッと口の端をあげると、《サラ》の手首を強く掴んだ。
 細くて白い手首が、大きな手に包まれ、ぐいっと引き寄せられる。


「――っ」


 どすんと背中に衝撃が走り、ソファーに押し倒されたのだと気づく。
 小さな体は組み敷かれ、手首にかかる体重に、全身の自由を奪われる。

 唇が触れてしまいそうな距離に、ジンの息がかかる。
 そして楽しそうに、くくくっと笑った。


「ここにくるときは、唇を奪われる覚悟が出来てからにしろと、いったはずだ」

「え……そう、だっけ……?」

 近い吐息に鼓動が跳ねる。
 忙しなく鳴る心臓に、ゆっくりと頬が赤くなった。


 ごまかしたけれど、しっかりと覚えている。
 コキュートス川でいわれた言葉。


 紅い瞳が《サラ》をうつす。
 自分だけを見つめるその瞳が、妙に居心地を悪くした。



「ど、どいてよ」

「俺は女に組み敷かれる趣味はない」

「ちがっ……! 普通に座りたいの!」

「……」

「なによ、その目」



 ジンは、不思議そうに見つめた。

 ジンにとって、女性に拒絶されるのは初めてのことだった。
 睨みつけられるなど、もってのほか。

 拒絶する《サラ》が、不思議でたまらないようだ。



 そうか、と呟く。

「その瞳だ……」

「えっ」

「俺は、お前のその瞳が欲しい」

「……っ!」


「誰のものにもならない。誰の言葉にも揺るがない。その瞳が、たまらなく欲しい……」


 大きな手が、頬を包み込む。

 ラピスラズリ色の瞳が潤み、誘われるようにジンの唇が近づく……。
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