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第4章

第19話 シェフ・ガレット

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 オーディン地帯に滞在する海賊一味は、遊女たちを見送ると大きな欠伸を漏らした。
 遊女と共に過ごした翌朝は、全員が寝不足だ。


「副船長は?」

「女と同じ空気吸いたくないっていって、船に入りびたり」

「ここまで女嫌いになっちまうとはなぁー」

「どんな失恋の仕方したんだか」

 大きく腹を抱えて笑う男たちだが、寝不足であまり気力がない。
 もう一度ベッドで寝るために、家の中へと戻っていった。



 玄関を入ってすぐそこにあるソファーに、数人がどかっと横になり、他の船員は自分のベッドへと帰っていった。

 ソファーのまわりには、2階までのぼる気力のない二日酔い集団が集まっていた。



「なぁ、ここんとこ船長……無駄に明るくないか?」

 1人の声に、ぼんやりとしていた男も耳を傾けた。

「そういえば……そうかも」


 いわれて見ると、カラ元気とも思えるほど、いつもより明るく感じた。


「ここにきてから、やけに女を毎日のように呼ぶな。……女好きは、いまに始まったことじゃないけど」

「まぁ、オレらは楽しいけどな」

 冗談じ見て言葉にすると、男たちは大きく笑った。

 はたと、1人が呟く。

「でも確かに、いつもと違う感じするな」

「なんか、眠りたくないような感じ……だったような……」

 うーむ、と男たちは声を揃えた。
 大勢の大人が眉間に皺を寄せる様子は、奇妙にも思えた。
 


 部屋の奥から、1人の男が料理を運んできた。
 二日酔いの胃でも、食欲をそそる香り。


 動くのもだるそうにしていた男たちは、水を得た魚のように飛び起きた。


「ほら、二日酔いにはまず活力。栄養」

「おぉ! シェフご自慢の料理!」

 男たちは二日酔いが吹き飛んだかのように、瞳を輝かせた。

「これ食ったら、働けよな」

「働かねぇーけど、食うぞー」


 かけ声を合図に、料理目がけて男たちが詰め寄った。


「俺にもよこせ」

「お前、人のモン横取りすんじゃねぇよ」

「うめぇー! 二日酔いでも箸が進むぜ」

「てか、箸持ってねぇし」


 持ってきたばかりの料理は、みるみるうちなくなっていった。



「よし、食ったな。じゃあ、まずは腹ごなしに窓みがきと皿洗いな」

「まだ食ったばっかだし」

「いきなりはキツイって。もう少し休もうぜ」


「いや、お前らは食って休んだらすぐ寝るだろう」

 働け、と手で追いやると、男たちは重い体を起こし渋々と動き出した。



 船員を見守る男の名前は、ガレット・ターシュ。
 この船の料理人であり、船員たちを先導するのが一番うまい人物だ。



 二日酔いにもかかわらずよく働く船員たちを横目に、ガレットは椅子に腰をかけた。
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