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第4章

第17話 忌まわしき記憶

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「――っ!」


 ばっと飛びあがる。
 乱れた呼吸で、紅い瞳を大きく見開いた。

 額には大量の汗。
 殺気立った空気があたりを包む。

 紅い瞳があたりを見渡した。



 なにもない。



 ジンは額の汗を拭った。

 すると、隣で眠っていた女性がむくりと起きあがった。
 一糸まとわぬ姿で、ジンを見つめる。
 首筋には、情事の痕がくっきりと残っていた。


「どうしましたの、ジン様。ひどい汗よ」

 額に手を伸ばすと、ジンの大きな手に払いのけられる。

「気安く触るな」

「……つれないおかた」

 汗で滲んだ上着のまま、ジンはベッドから立ちあがった。



 この国に入国してから、何度も見る悪夢。
 忌まわしい、記憶……。



 ジンの背中には、大きな傷痕がある。
 悪夢の出来事のときに負った、大きな傷痕。
 
 傷は誰にも見せたことはなく、誰かに話したこともない。
 遊女と過ごす夜ですら、背中の傷を見せることはない。



 ベッドに横たわる遊女を置いて、ジンは窓辺に移動をした。

 悪夢を振り払うような風が、ジンの体を撫でた。



 久しく見ていなかった、忌まわしき過去の夢。
 思い出すと、いまでも鼓動が速まる。



 ルバーニャ国で負った傷は、日を追うごとに疼きを増す。



 過去と決別するために。
 あの男の大切なものを奪うために。

 この場を訪れたというのに……。



 額の汗を拭いとると、夜空を見上げた。
 少し欠けた月に雲がかかり、あの日の出来事が鮮明によみがえる。


 背中の傷痕が、ズキンと疼く。



「……」

 小さく呟いた言葉は、風の音にかき消され、静寂な夜が訪れた。
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