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第3章 再会
第11話 城を抜け出す楽しさ
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生誕祭が明けてからしばらくすると、街はすっかりと落ち着きを取り戻していた。
城から抜け出す楽しさを覚えてしまったルーチェ。
生誕祭以降、毎日のように城から抜け出すようになっていた。
15年ものあいだ、静かに暮らしていたおかげで、護衛が手薄になる時間があることがわかった。
しだいに要領もわかってきて、どのタイミングで抜け出せばいいのか、どのくらいの時間で城に戻ればいいのか、わかってきた。
手慣れたように茶色のマントを被ったルーチェは、ラピスラズリ色の瞳を輝かせながら街中を歩く。
お祭りの雰囲気がなくなった街も、ルーチェにとっては物珍しくてたまらなかった。
「お嬢ちゃん、新鮮な果物はどうだい?」
「おいしい卵はいかがですか?」
街を歩くと、店の人たちが気軽に声をかけてくる。
誰1人として、ルーチェを第2皇女だと疑う者はいない。
それが嬉しくて、声をかけられるたびに立ち止まっては、品物を眺めた。
何軒か寄り道をしていると、香ばしい香りが鼻をくすぐった。
鼻をくんっと動かすと、美味しそうな匂いが食欲を刺激する。
「へい、いらっしゃい」
香りのもとにたどり着くと、ルーチェは品物を眺めた。
焼きたての美味しそうなパンが、ところ狭しと並んでいた。
パンに見惚れていると、店のおじさんが紙袋をとり出した。
「ほら、お嬢ちゃん。これは余り物だから、持っていけ」
「えっ? ……いいの?」
差し出された紙袋には、美味しそうな食べ物がたくさん入っていた。
首を傾げながら見つめると、手渡したおじさんがにこりと笑う。
「なんでい、スコーンも知らないのか?」
「これが、スコーン?」
スコーンは知っている。
王宮でもよくティータイムに出てくる。
しかし、ここまで美味しそうに見えたことがあっただろうか。
「ほれ、がぶっと食べてみろ」
「でも、座るところがないわ」
店のおじさんは、恰幅のいい腹をめいいっぱい反らせながら笑った。
「こんなところで座るやつがあるかい。歩きながら食うから、美味しいんだろ」
「なるほど……! ありがとうございます」
「いいってことよ」
手を大きくふり、何度もお礼をいいながらその場をあとにした。
街を歩きながら、さっきもらったばかりのスコーンを紙袋からとり出した。
まじまじと見つめると、口の中へと運んだ。
少しぱさついた生地が、口の中でほろりと崩れていく。
(んん! 美味しい! こんなに美味しいものだったかしら……?)
王宮では一流の料理人が、最高級の食材を使って色々な料理を作ってくれる。
しかし、どんなに最高級の食材を使っても、どんなに一流の料理人が作った料理でも、静かな部屋で1人、食事をするのは寂しかった。
1人の部屋で食べていたスコーンとは違う……。
一口、また一口と食べ進め、たくさんもらったスコーンも、あっという間に完食をした。
城から抜け出す楽しさを覚えてしまったルーチェ。
生誕祭以降、毎日のように城から抜け出すようになっていた。
15年ものあいだ、静かに暮らしていたおかげで、護衛が手薄になる時間があることがわかった。
しだいに要領もわかってきて、どのタイミングで抜け出せばいいのか、どのくらいの時間で城に戻ればいいのか、わかってきた。
手慣れたように茶色のマントを被ったルーチェは、ラピスラズリ色の瞳を輝かせながら街中を歩く。
お祭りの雰囲気がなくなった街も、ルーチェにとっては物珍しくてたまらなかった。
「お嬢ちゃん、新鮮な果物はどうだい?」
「おいしい卵はいかがですか?」
街を歩くと、店の人たちが気軽に声をかけてくる。
誰1人として、ルーチェを第2皇女だと疑う者はいない。
それが嬉しくて、声をかけられるたびに立ち止まっては、品物を眺めた。
何軒か寄り道をしていると、香ばしい香りが鼻をくすぐった。
鼻をくんっと動かすと、美味しそうな匂いが食欲を刺激する。
「へい、いらっしゃい」
香りのもとにたどり着くと、ルーチェは品物を眺めた。
焼きたての美味しそうなパンが、ところ狭しと並んでいた。
パンに見惚れていると、店のおじさんが紙袋をとり出した。
「ほら、お嬢ちゃん。これは余り物だから、持っていけ」
「えっ? ……いいの?」
差し出された紙袋には、美味しそうな食べ物がたくさん入っていた。
首を傾げながら見つめると、手渡したおじさんがにこりと笑う。
「なんでい、スコーンも知らないのか?」
「これが、スコーン?」
スコーンは知っている。
王宮でもよくティータイムに出てくる。
しかし、ここまで美味しそうに見えたことがあっただろうか。
「ほれ、がぶっと食べてみろ」
「でも、座るところがないわ」
店のおじさんは、恰幅のいい腹をめいいっぱい反らせながら笑った。
「こんなところで座るやつがあるかい。歩きながら食うから、美味しいんだろ」
「なるほど……! ありがとうございます」
「いいってことよ」
手を大きくふり、何度もお礼をいいながらその場をあとにした。
街を歩きながら、さっきもらったばかりのスコーンを紙袋からとり出した。
まじまじと見つめると、口の中へと運んだ。
少しぱさついた生地が、口の中でほろりと崩れていく。
(んん! 美味しい! こんなに美味しいものだったかしら……?)
王宮では一流の料理人が、最高級の食材を使って色々な料理を作ってくれる。
しかし、どんなに最高級の食材を使っても、どんなに一流の料理人が作った料理でも、静かな部屋で1人、食事をするのは寂しかった。
1人の部屋で食べていたスコーンとは違う……。
一口、また一口と食べ進め、たくさんもらったスコーンも、あっという間に完食をした。
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