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第2章 出逢い
第8話 オーディン地帯の海賊一味
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コキュートス川の西側は、【オーディン地帯】と呼ばれている。
川の近くにある小さな宿舎には、大勢の男が寝泊まりをしていた。
ルバーニャ国に入国したばかりの海賊一味だ。
血の気が多い海賊は、頻繁に揉め事を起こすことがある。
そのため、ルバーニャ国に入国した海賊は、宿舎そのものを貸し切るのがルールだ。
揉め事を避けるために、宿泊時に従業員はいない。
この海賊一味の船長は、通称【紅血の鬼】と呼ばれ、仲間を道具のように扱う冷酷な人間だと噂されていた。
「なぁ、副船長。ボウズ、遅くないっスか?」
恰幅のいい男が、酒瓶を片手に、ふらふらとしながら歩く。
副船長と呼ばれた男の名前は、カイル・リー。
古傷でみえなくなっている左目が特徴的で、かきあげられた赤髪からのぞく、鋭い目つき。
カイルは、呑んでいた酒をテーブルに叩きつけるように置いた。
「ボウズじゃねぇ、船長だろ。いい加減慣れろ」
「いやー、つい昔のクセで。……ってか副船長、だいぶ呑んでるっスね」
「酒は呑んでも、呑まれるなぁー!」
「よせ、よせ。酔ったときの副船長ほど、酒癖の悪いやつはいねぇよ」
「俺ぁー酔ってねぇぞぉー」
巻き舌気味に声をあげると、カイルはぐいっと酒を呑んだ。
その様子を、やんやと囃したてる男たち。
陽気な雰囲気の男たちは、酒を次々と注いでは水のように呑み干した。
テーブルに並べられている食事は、船員の料理人が作ったもの。
宴も中盤に差しかかると、大量に作った料理も、ほとんど残っていなかった。
「なぁ、女呼ぼうぜ。男ばっかじゃつまんねぇよ」
「それもそうだなぁ。副船長、そうしません?」
「……女、か」
「そうっスよ! 久々に地に足ついてんスから、愉しみましょうよ」
「ば、バカ……! 副船長、すんません。コイツ、呑みすぎたみたいで……自分でなにいってるのか、わかってないんスよ」
「女……」
カイルはテーブルの上にガンッと足を乗せると、大きく息を吸い込んだ。
「俺は、女なんか大嫌いだぁぁぁぁーーーっっ!」
叫んだ声は部屋中に響き渡り、男たちは大笑いした。
「副船長、失恋がなんだー」
「そうだ、いっぱい呑んで忘れましょうよ」
「てか、それ何十年前の記憶っスか」
「黙れぇー!」
酔った勢いで、カイルは酒瓶をぶんぶんとふり回した。
男たちは器用に避けながらも、楽しげな笑い声が続いた。
川の近くにある小さな宿舎には、大勢の男が寝泊まりをしていた。
ルバーニャ国に入国したばかりの海賊一味だ。
血の気が多い海賊は、頻繁に揉め事を起こすことがある。
そのため、ルバーニャ国に入国した海賊は、宿舎そのものを貸し切るのがルールだ。
揉め事を避けるために、宿泊時に従業員はいない。
この海賊一味の船長は、通称【紅血の鬼】と呼ばれ、仲間を道具のように扱う冷酷な人間だと噂されていた。
「なぁ、副船長。ボウズ、遅くないっスか?」
恰幅のいい男が、酒瓶を片手に、ふらふらとしながら歩く。
副船長と呼ばれた男の名前は、カイル・リー。
古傷でみえなくなっている左目が特徴的で、かきあげられた赤髪からのぞく、鋭い目つき。
カイルは、呑んでいた酒をテーブルに叩きつけるように置いた。
「ボウズじゃねぇ、船長だろ。いい加減慣れろ」
「いやー、つい昔のクセで。……ってか副船長、だいぶ呑んでるっスね」
「酒は呑んでも、呑まれるなぁー!」
「よせ、よせ。酔ったときの副船長ほど、酒癖の悪いやつはいねぇよ」
「俺ぁー酔ってねぇぞぉー」
巻き舌気味に声をあげると、カイルはぐいっと酒を呑んだ。
その様子を、やんやと囃したてる男たち。
陽気な雰囲気の男たちは、酒を次々と注いでは水のように呑み干した。
テーブルに並べられている食事は、船員の料理人が作ったもの。
宴も中盤に差しかかると、大量に作った料理も、ほとんど残っていなかった。
「なぁ、女呼ぼうぜ。男ばっかじゃつまんねぇよ」
「それもそうだなぁ。副船長、そうしません?」
「……女、か」
「そうっスよ! 久々に地に足ついてんスから、愉しみましょうよ」
「ば、バカ……! 副船長、すんません。コイツ、呑みすぎたみたいで……自分でなにいってるのか、わかってないんスよ」
「女……」
カイルはテーブルの上にガンッと足を乗せると、大きく息を吸い込んだ。
「俺は、女なんか大嫌いだぁぁぁぁーーーっっ!」
叫んだ声は部屋中に響き渡り、男たちは大笑いした。
「副船長、失恋がなんだー」
「そうだ、いっぱい呑んで忘れましょうよ」
「てか、それ何十年前の記憶っスか」
「黙れぇー!」
酔った勢いで、カイルは酒瓶をぶんぶんとふり回した。
男たちは器用に避けながらも、楽しげな笑い声が続いた。
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