【完】海賊王と竜の瞳を持つ皇女

第2章 出逢い

第7話 クソガキ

「きゃっっ！」

「っ！」

　空を見上げていたせいもあり、ルーチェは前方にある壁に気づかなかった。
　強い衝撃のあとに、柔らかな感触が体を包み込んだ。


「いったぁ……っ」

　大きなものに包まれたルーチェは、そっと顔をあげた。
　抱きしめているのは、見知らぬ男。


　トクンッ


　歩いているときのドキドキするような鼓動とは違う、胸の高鳴り。

　初めて触れた、男の体。
　大きな胸に抱きしめられて、あたたかさが伝わる。

　男の人も睫毛は長いのか、などと考えながら、いつしかその姿に見惚れていた。


　真っ黒の髪をした男は、ため息をついて一拍おくと、大きく息を吸った。

「おいガキ！　いつまで乗っかってんだよ」

「……え？」

　突然の怒声に、ルーチェは大きな瞳を丸くした。


「祭りだかなんだか知らねぇけど、浮かれんのも大概にしろ。次からは前をみて歩けよ。ク、ソ、ガ、キ」

「な……！　ちょっと、あなた……っ！」


　突然『クソガキ』呼ばわりされて、言葉を失ったルーチェ。

　男はすっと体を起こすと、その場から去っていった。

　その場に残されたルーチェは、金魚のように口をパクパクと動かしていた。


（……な、なんなの、あの人。私が……なにをしたっていうのよ！）


　遅れてきた怒りが、沸々と湧きあがる。

　ルーチェは憤慨し、しばらくその場から動けずにいた。