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第2章 出逢い

第6話 皇女ではない私

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 風の流れに身を任せ、賑やかな街中を軽やかに歩く少女。
 ほんのり桜色に染まった頬が、外の寒さを物語っている。

 風が吹くと、マントで隠している金色の髪が、少しだけこぼれる。

 金色の髪から覗く、青い石の耳飾り。
 瞳の色と同じ、ラピスラズリのような青い色。

 マントでは隠せないほど美しい姿は、歩くたびに街の人の視線を惹きつける。



 城を抜け出すことに成功したルーチェは、初めて歩く街に笑みがあふれた。

 初めて見るものばかりで、次から次へと、視線をうつす。
 好奇心がうつし出されているかのように、ラピスラズリ色の瞳が輝きを増す。



 ふと、店の前で立ち止まった。
 輝く髪飾りを見つけると、店主である女性に、にこりと笑った。

「おば様。コレ以外にも、ステキな髪飾りはありますか?」


 指を差した髪飾りは高価な品物。
 平民が気軽に買うものではない。

 しかし、ルーチェが普段から身につけているのは、最高級の髪飾り。
 目が慣れているせいか、店頭に並ぶ他の品物には目もくれない。


 店主は不審に思い、眉をひそめた。

「お嬢ちゃん、お金はちゃんと持ってるのかい」

「……お金?」

 そういえば国民から税を徴収してお金を集め、そのお金で国を運営していると、学んだことがある。

 お金を使ったことがないルーチェは、言葉に詰まった。
 実際、どのようなものか、見たこともない。


 お金がないとわかった店主は、大きくため息をついた。
「うちはね、他よりも高価な商品も取り扱ってるんだよ。お嬢ちゃんが買えるようなものはないよ」

 ぶっきらぼうにいう店主に、ルーチェは頬を膨らませた。

「ちょっと! 私を誰だと思っているのかしら!」

「さぁね、子どもに構ってる暇なんてないんだ。さぁ、どいたどいた」


 店から追い出されたルーチェは、わなわなと肩を震わせた。

「な、なんなの……? 私はこの国の皇女……っ」

 訴える声は誰にも届かず、行き場を失って消えた。


 国の皇女が街中をうろついているなど、夢にも思わないだろう。

 仮に『皇女だ!』と言い張っても、単なる子どもの戯れ言、としか思われない。

 目の前にいる少女が『本物の皇女』だと、気づくはずもない。



あれ、と首を傾げた。

(もしかして、ここでの私は、普通の子ども……?)


 ルーチェは頬を緩めた。

 求めていたものは、皇女としてではなく、ルーチェ自身を見てくれる世界。

 それがいま、目の前にある。


(やったぁぁぁーーーーーーっっっ!)


 緩む頬を隠すことなく、顔をほころばせた。



 ルーチェは再び、舞いを踊るような足どりで歩き出した。

 ぴょんっと小さな水たまりを飛び越えても、誰も注意してこない。
 誰の目も気にすることはない。
 ゆっくりと空を見上げていても、好きなだけ立ち止まっていられる。


 すべてが、輝いて見えた。
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