上 下
4 / 82
第1章 生誕祭

第3話 叶わぬ夢

しおりを挟む
「なんで、王家に生まれちゃったのかしら……」

「神の思し召し。運命、でございます」

 ぽつりと呟いた言葉に、レンも小さな声で返事をした。


 王家に生まれなければ、外の世界を知ることが出来た。

 訳もわからずに王宮に閉じ込められることも、常に監視されることもなく、自由を手に入れられた。


「私は、普通の生活がしたいの。街で遊んだり、友達をつくって毎日他愛もない会話に華を咲かせたり、好きな人が出来たり……」


 それが叶わぬ夢だと、わかっている。
 けれど望まずにはいられない、自由への思い。



 レンは優しい笑顔を向けると、まっすぐに視線を合わせた。

「ルーチェ様も、きっとご婚約者様のことをお気に召すと思います。たとえ私が気に入らなくても、ルーチェ様を幸せにしてくださる紳士は、たくさんおりますよ」


 気に入らなくても、という言葉を強調する。
 嫁いでしまう現実を、よほど認めたくないのだろう。


 複雑な親心のような感情に、ルーチェは肩を竦めた。

「それでも私は……嫌ですわ」

 たとえ裕福な衣食住を与えられていても、行動の自由がないことに変わりはない。

 部屋から出るにも許可が必要。
 遠出とはいっても、せいぜい園庭まで。

 結婚をしてしまったら、さらに自由はなくなってしまう。

 それのどこが、幸せだというのだろう。



「どうか、わがままをおっしゃらないでください。ご婚約者候補のバルト国王陛下との見合いも間近に迫っております。国を護ると思って、どうか……」

 かけられた言葉に、ルーチェは眉をひそめた。

「名前も顔も、なにも知らない人と結婚をするのが嫌なのよ。そんな見知らぬオジサンと結婚するくらいなら、レンと駆け落ちしたほうが絶対に良いわ」

 ルーチェ様、と感動したレンは、はっと我に返って咳払いをした。

「そ、それはまた思い切ったことをおっしゃりますね。私と駆け落ちなさると、朝陽がのぼる前に起こした後、昼刻までに炊事などすべての家業を終わらせ、午後にはマナーについて説教して差し上げますが」

「……やっぱりいらない」

 そっぽを向く主に、レンはにこりと笑顔を向けた。

「私はルーチェ様の幸せを、誰よりも願っております。それに国王様には、感謝してもしきれないほどの恩義がございます。誰とも知れぬ私を拾っていただいただけではなく、皇女様の世話係まで任せていただいて。……そんなあなた様を、大切にしとうございます」

 うっとりと愛でる言葉に、ルーチェは口をきゅっと結んだ。



「……1人に、して」

「かしこまりました」

 深く腰を折ると、レンは部屋をあとにした。
 その背中を見送ると、ルーチェは重く息をついた。


(昔、よくレンが話してくれたお伽話のようだわ……)


 ルーチェはお伽話を思い出すかのように、睫毛を伏せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

お嬢様の執事は、夜だけ男の顔を見せる

hiro
恋愛
正統派執事様×意地っ張りお嬢様 「最後に、お嬢様に 《男》というものを お教えして差し上げましょう」 禁断の身分差… もし執事に 叶わぬ恋をしてしまったら… 愛することを諦められますか? それとも――…? ※過去作品をリライトしながら投稿します。 過去のタイトル「お嬢様の犬」

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...