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第三章 クリミナティ調査編

第47話 真の目的

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震える程の恐怖……今まで見ていたセリスとはまた違った冷たい視線……爆発後に急変した態度、あの瞬間に何があったのか……不思議で仕方が無かった。


だがその事よりも廊下に先程まで居たグール達が全て居なくなっているのが最も気掛かりだった。


中庭を抜け地下牢へと向かっている最中に聞こえた戦闘音……恐らくセリスが術者を倒したのだろうが音がしたのは数秒…… あまりにも早すぎた。


気がつけば『闇夜の霧』の効果も消えて居る……彼が何者なのか、謎は深まるばかりだった。


タグはゴールドだったが強さは確実にプラチナ、下手すればダイヤモンド以上……だがそんな人物が今まで何故無名だったのか、貴族出身でも無ければ何処かの王族でもない……不自然で仕方が無かった。


あの圧倒的身体能力……アルラが戦闘していたのを間近で見てよく分かった、彼女の身体能力は尋常では無い、だがそれは人間では無いから……その理論で行くとセリスも人間では無いという事になった。


鎧で姿が分からない以上何とも言えない……だがアルラを圧倒する身体能力……人間だと言うなら努力でどうにかなるレベルの次元では無かった。


「おっとと、過ぎるとこだった」


あまりにも深く考え込みアルラは地下へ続く粗雑な木製の扉を通り過ぎる、急ブレーキを掛け少し戻ると扉を蹴破ろうとした。


だが魔法障壁に阻まれ扉は無傷だった。


「はぁ……この程度の魔法障壁で足止めかしら」


そう言いシャリエルは魔紙を破ると腕が薄っすらと光る、そして振りかざし扉を殴ると扉は木っ端微塵に吹き飛んだ。


「まぁこんなものね」


そう言い手を払うと地下へ続く松明の灯りだけが点々と続く螺旋状の階段を降りて行く、そして地下へ着く、するとそこにはだだっ広い数キロ程ある檻の中に大量の民間人が捕まっていた。


「あ、あれはシャリエル様だ!」


疲弊しきっていた一人の市民がシャリエルの姿を見ると元気に立ち上がり大声で叫ぶ、すると国民は皆シャリエルの姿を見て助けを求めた。


「ま、待って!今助けてあげるから!」


あまりのうるささに思わず耳を塞ぐ、前に犯罪者を捕まえた時は何個にも牢屋が分けられていたのだが暫く見ないうちに一つにまとめられていた様だった。


そんなどうでも良いことを考えながらシャリエルは丁寧に火属性の魔法を棒状に細く伸ばし鉄格子を切ると市民達は牢の外に雪崩れるように出て行った。


階段へ向かい歩いて行く国民、それぞれが礼を言い感謝する……だがシャリエルの表情は浮かないままだった。


不自然、国民を捉えることが目的では無いのか……見張りが居ないのはあまりにも不自然だった。


「シャリエル殿……本当に助かった」


牢から続々と国民が出てくる中聞こえてきた聞き覚えのある声にシャリエルは俯いて居た視線を上げるとそこには国王が立って居た。


「国王様!ご無事でしたか?」


「あぁ、なんとか……先程まで屍人が居たのだが……シャリエル殿が?」


そう牢屋の端っこを指差す国王の言葉にシャリエルは首を振った。


屍人……恐らくグールの事だろうがそんなものは聖水で殺したあの一体以来見ていない……だがそんな事よりも国王が此処に捕らえられて居たと言うことはアラサルの目的が何なのかますます分からなかった。


国王が目的なら身近な場所に捕らえ、そして金銭なり交渉を求めるはず……だが国王は牢屋に雑な囚われ方をして居た……誰も居なくなった牢の中を見回すが特に変わった所は無かった。


「おかしい……あまりにも呆気なさすぎる」


「それはそうでしょう……我々の目的は主力メンバーの隔離ですから」


背後から聞こえてきた謎の声にアルラは魔紙を取り出し構える、そして振り向くとそこには右目に若干掛かる程の黒髪の男が立って居た。


いつ背後に立ったのか……全く分からなかった。


「主力メンバーの隔離ってどう言う事」


「うーん……どうしましょうか、言うべきなのですかね」


そうニヤニヤしながら言う男、此処で足止めされるのはマズイ気がした。


シャリエルは雷装の魔紙を破ると右手と両足に雷を纏う、そして一瞬にして男の背後を取ると頭目掛け蹴りをかます、だが蹴りは空を切った。


「なっ!?」


男はその場から全く動いて居ない……それなのに蹴りは空を切り、拳は男を貫通した。


拳には何か当たった感触は無い……不気味な魔法にシャリエルは背後に回った事で近づいた出口の方へと下がった。


「速すぎて見えませんでしたよ」


笑いながら言う男、恐らくあの魔法はすり抜け系統の魔法……持続時間が分からない故に彼を倒すとなると持久戦になるのは必至だった。


「まぁそう焦らず」


そう言い近づいてくる男、シャリエルの拳はすり抜け当てる事が出来ない……だが男は着実に一歩、また一歩と近づいてきて居た。


「もう!なんなのよ!」


「なんなのと言われましても……ただのすり抜け魔法ですよ」


そう言いシャリエルの体に触れようとする男、そして男が服に触れたその瞬間、雷を纏って居ない左手の拳が男の顔面を捕らえ吹き飛ばした。


「え?当たった……?」


当たった事に驚くシャリエル、だが一番驚いているのは男の方だった。


「成る程……魔法無効のローブですか、第三位階のすり抜け魔法しか使えない私にとっては厄介ですね」


そう言い困った表情をする男、その言葉にシャリエルは笑った。


コートをどうにか利用すれば勝てる……だが脱ぐのは賭けに近かった。


万が一彼がすり抜けしか使え無いと言う言葉がブラフだった場合……魔法が通る事になる、慎重に行かなければならなかった。


「このままでは危険ですね……私は逃げるとしますか」


そう言い身体の半分を壁に入れる男、そしてシャリエルを見てニヤっと笑った。


「そう言えば貴女……魔力そんなにありませんよね」


「なっ……」


その言葉にシャリエルは固まった。


「雷装も魔紙で発動してましたし……私魔力探知が得意なんですよ」


顔だけを壁から出し話す男、その言葉にシャリエルは唇を噛んだ。


彼の言う通り……私は魔力が少なかった。


量だけで言えばゴールド……いや、シルバーレベルかも知れなかった。


「因みに貴女の素性も知ってますよシャリエル・ブラッシエル=イルフォード、大貴族イルフォード家の生まれですね」


「な、なんでその事を!?」


「なんて言ったって私はクリミナティ参謀、オルスレイドですからね」


そう言って姿を消すオルスレイドと名乗った男……彼が居なくなった壁をシャリエルは思い切り殴るがもうそこに彼は居なかった。


嫌な記憶を思い出してしまった……イルフォードの名、自分の中から消したつもりなのになぜ彼は知って居たのか……クリミナティ、侮れない組織の様だった。


シャリエルが地上に上がると罠という事に気が付いた冒険者達が駆けつけ街を鎮静化した後だった。


ふと城門を見るとセリスが歩いて居た。


「セリス!アラサルは?」


シャリエルの言葉に何も言わず城の噴水前を指差す、そこには光の縄でぐるぐる巻きにされたアラサルが居た。


「倒したのね、やっぱり貴方は……」


強い……そう言おうとアラサルからセリスに視線を移したがそこにはもうセリスの姿は無かった。


「あれ、何処に?」


城を出て街の方を見るがセリスはもう居なかった……話したい事が山ほどあったのだがまたの機会となりそうだった。


「はぁ……次いつ会えるか分からないのに」


ブツブツと文句を言いながらもシャリエルはアラサルの前に行くと頬を叩き目を覚まさせる、オルスレイド……彼の言って居た事が気掛かりで仕方が無かった。


「あんたの目的は何」


「国王の抹殺だよ」


「嘘よ、ならなんで国王を捕まえた時点で殺さないの?真の目的を言いなさい」


そう懐からナイフを取り出し喉元に当てる、だがアラサルは怯えもせず笑った。


「はっはっ!殺せばいい、あの方の復活の為ならこの命惜しくは無い!」


「あの方?」


「そうだ!あの方だ!今頃は俺の仲間がお前のお仲間の魔剣を奪い取ってる頃だろう!」


そう言い大爆笑をするアラサル、その言葉でようやくシャリエルは真の目的を理解した。


あの方の正体は分からない……だが本当の目的はアーネストの魔剣……そうなるとアーネストが危なかった。


「このっ……クソ野郎!」


そう言いシャリエルはアラサルをぶん殴ると残り二枚になった魔紙の一枚を破る、そした街の離れの森ある教会に転移すると眼前には衝撃の光景が広がって居た。


半壊する教会、倒れ込む神父とサレシュにアイリス……だがその中にはアーネストの姿は無かった。


「皆んな!何があったの!?」


シャリエルは3人の元へ駆け寄るが意識があったのはサレシュだけだった。


「しゃ、シャリエルさん……アーネストさんが、連れてかれました……」


「誰に?!」


ボロボロのサレシュ……彼女と神父がやられる程の相手……相当の手練れの様だった。


「不気味な笑顔の仮面を被ったロレスと名乗る女性です……私達は……何も出来ませんでした」


そう言い涙を流すサレシュ……その姿にシャリエルは悔しさで拳を強く握りしめた。


「安心して……仇は絶対に取る」


そう言いシャリエルはサレシュと神父、アイリスを担ぐと最後の魔紙を破り捨て何処かへと転移した。
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