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第10話 オーガの長

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マゾヌ森林、オーリエス帝国から西に30キロほど離れた場所に存在する広大な森林、その面積は約東京ドーム5個分と広く、太陽の日差しが良く差し込む明るい森……と此処までがゲーム時代のマップ設定だった。


「セリスさん、私お化けとか無理です……」


そう言いもちょろけを強く抱きしめるマール、アルセリスと2人の目の前には暗く薄いながらも霧に覆われたマゾヌ森林が広がっていた。


「これは……どう言う事だ?」


森の中に日が差し込むなんて事があり得ないほどに深く暗い森が広がって居る、ゲーム時代の森林とは別物だった。


足を一歩森に踏み入れると日が昇って居ると言うのに辺りは薄暗い、不思議と寒気も感じた。


「ぶぬぬっ!」


森に入った瞬間もちょろけがマールの腕の中で暴れ出す、何かの気配を感じ怯えて居る様だった。


オーガグランが居る前からこうなのかは定かでは無いがこの森にオーガグランが居るのは本当の様だった。


「一仕事するぞ」


ゆっくりと何も無い場所から剣を生み出すと腰に携え森の中へと入っていくアルセリス、その後ろをマールがピッタリくっつき付いてきた。


森の中をキョロキョロと見回すが薄暗く視界の見通しも悪かった。


「視界が悪いな」


遠いながらも何か微かに物音は聞こえる、だが視界不良の所為で物音の正体を見る事が出来なかった。


するとアルセリスは剣を指でなぞり、なぞった剣をその場で振りかざす、すると一瞬にして森に掛かっていた霧が綺麗に消え去った。


「これで多少マシになるだろ」


剣を鞘に納めまた先へと進んで行く、一方後ろを歩くマールはずっと沈黙して居た。


この森に入った時以来もちょろけもずっとだんまり、だがサーチで状態を確認するが体調は至って良好だった。


その時マールが入り口で行っていた言葉を思い出した。


その瞬間アルセリスは兜の下で笑いを浮かべると転移の杖を取り出しマールの視界が自分が離れたのを確認して地面を突く、そしてマールの後ろに回り込むとそっと息を殺した。


「あれ?アルセリス様?!」


突然消えたアルセリスに名前を呼ばない約束も忘れ震えた声で取り乱すマール、その様子を見てアルセリスは後ろから肩を叩き声を出した。


「マール!!!」


「ひぃやぁぁ!?!?」


かなり近めの距離で叫んだ事に加えお化けが出そうなこの不気味な状況下での驚かすと言う行為にマールは思わず腰を抜かして尻餅をつく、その様子にアルセリスは顔を背けると笑った。


「な、何するんですかアルセリス様!!」


「ぶなっぶなっ!?」


怒るマールとまだ驚いて居るもちょろけ、からかうのが楽しい奴らだった。


「まぁ怒るな、あんまり緊張して居ると本番で動きが鈍るぞ」


そう言ってマールの手を取り立たせる、その言葉にマールは不服そうにしながらも頷いた。


張り詰めていた空気も少し和んだその時、木々がなぎ倒される音が此方へと近付いて居た。


「この音は?!」


咄嗟にマールは森に来る際に買ったフード付きコートのフード部分にもちょろけを入れると剣を構える、だがアルセリスは依然として余裕を持って居た。


此方に近付いて来るに連れて地を揺らす足音が聞こえる、だがこのサイズは一般的なオーガの筈だった。


やがて音はかなり近くまで近づき、目の前に生えて居た木がなぎ倒される、そしてその先から大きな石斧を持ったオーガが一匹、此方を威嚇する様に立って居た。


「一般的な赤オーガだな」


そう言い剣を抜く、するとオーガはアルセリスを指差した。


「お前……懐かしい匂いがするな、何者だ」


流暢な言葉で話し掛けて来るオーガに驚きを隠せなかった。


ゲーム時代云々より、基本的にモンスターは喋らない存在と思って居た故に衝撃が大きかった。


「懐かしい?俺はオーガの事なんて知らんぞ?」


「そうか、グラン様の知り合いで無いのであれば……死ね!」


そう叫び石斧を振りかざすオーガ、だがアルセリスはその場からピクリとも動かなかった。


やがて振りかざされた石斧はアルセリスの脳天を捉える、その様子にオーガは不気味な笑みを浮かべるがその瞬間石斧に亀裂が入った。


「なん……だ?」


不可解な現象にオーガは首を傾げる、すると次の瞬間石斧は砕け散り、飛び散った破片がオーガの体に突き刺さった。


「な、何が起こった!?」


突然の出来事に理解不能のオーガは一旦後ろに下がると破片から目を守るため瞑っていた目を開ける、すると其処には先程の位置から全く動いて居ない腕を組み仁王立ちをしたアルセリスの姿があった。


「ば、馬鹿な……なぜ生きて居る!?」


「何故って言われてもな、お前の力が弱かったからなのか石斧が柔かったのか……知らんな」


その言葉にオーガは理解ができなかった。


あの石斧はオーガグランが人間の技術を盗み見て頑丈に作った物、そして自身もオーガ族の中では力を自慢出来る部類だった。


それ故にこうして先遣も任せられたのだ。


だが目の前の黒い鎧に身を包んだ人間は微動だにしていない……オーガの頭は完全に混乱して居た。


「しかし喋るオーガか……凄いな」


そう呟くとアルセリスはそっと剣を抜く、そしてまた鞘に収めた。


一連の行動に見ていたマールは首を傾げる、すると次の瞬間オーガの大きな頭が胴体から切り離され、宙を舞った。


その光景にマールは驚きを隠せて居なかった。


仮にも階層守護者補佐の身、強さには自信のあるマールでも捉えられ無いほどにアルセリスの動きは速かった。


「コイツが薙ぎ倒してきた道を通れば多分集落がある筈だ、この先はオーガの巣窟、気を引き締めろよマール」


「は、はい……」


呆気にとられて居るマールにそう言うとアルセリスは倒れた木を避けつつ先へと進む、知能が低いイメージのあったオーガだが今のでかなりイメージが変わった。


まさかあんな流暢な言葉を使うとは思っても居なかった、ゲーム時代はCPUの人間かプレイヤーしか喋らなかった故に新鮮だった。


「セリスさん……いえ、アルセリス様はやはりお強いですね」


「急にどうしたんだマール?」


突然堅い言葉で話し掛けて来るマールに後ろを向く、何処か暗い表情だった。


「私は……アルセリス様に認めてもらい階層守護補佐をやらせて貰ってます……ですが本当に私で大丈夫なのか、と心配になってしまいまして」


そう俯きながら言うマール、先程の戦闘でアルセリスとの圧倒的な実力差を感じて落ち込んでいる様子だった。


「マール、俺はお前の力を信じて補佐にしたんだ、モンスターテイマーとしてのな、闘いは速さ、力が全てでは無い……お前にはお前の良さがある、落ち込むな」


「ぶぬー」


落ち込むマールの頭を撫でそう告げるアルセリス、もちょろけも心配してフードから身を乗り出し頬を舐めて居た。


「は、はい!アルセリス様!」


アルセリスの言葉にマールは嬉しそうに返事をする、部下の管理と言うもの大変なものだった。


社会人の時は良い上司になれなかった……それ故に部下にも裏切られた、部下の管理……これだけは疎かにしては行けなかった。


マールに慰めの言葉を掛けてから数分程オーガが来た道を歩く、すると少し遠い所に木で作られた壁のような物が見えてきた。


壁の大きさは20メートル程、恐らくオーガ達の集落の壁だった。


壁に近づき周りを30分ほど掛けてぐるっと回る、入り口は一つ、そして見張りは高台に一人、門の前に二人だった。


「三体か……マール、お前は入り口で逃げて来るオーガを始末してくれ、俺は三体を始末して中に入る」


「分かりました!」


マールにそれだけを告げるとアルセリスは剣を抜く、そして剣を高台に居るオーガに向けると頭上に魔法陣が出現し雷を落とした。


高台に居た赤いオーガは真っ黒に焦げ地面に落下する、その出来事に集落の方を振り向いた門番を一瞬にして始末した。


「まぁこんな物か」


ゲームとは違い少し身体に違和感があるが全体の2割程度は引き出せて居る……だがまだマックスを引き出すのは厳しそうだった。


だが2割でこの力……召喚士ジョブを極めておいて本当に良かったとしみじみ思った。


「敵襲だ!!」


中からオーガの叫び声が聞こえ鐘の音が鳴り響く、それと同時にアルセリスは大きな門を蹴り破ると中に突入した。


「敵の数は?!」


「なんだこの人間は!?こいつだけなのか?!」


恐らく滅多に無い襲撃で焦って居るのか、オーガ達の統率は取れてなく皆バラバラだった。


自身よりも10倍ほどでかいオーガが暮らす集落をぐるっと見回す、まるで巨人の国に来た気分だった。


家が全てデカイ、扉も手が届かない所にドアノブがあった。


「死ね人間!!」


一体のオーガがアルセリスの死角から斧を振り下ろす、だがアルセリスはそれを見ずに片手で止めるとオーガごと持ち上げ放り投げた。


「な、なんだこの人間は?!」


圧倒的な実力差に基本的に恐怖を抱かないオーガ族が恐怖して居た。


アルセリスは手当たり次第に近くのオーガを斬り殺して行く、やがて集落は赤く染まって行った。


「人間風情が中々強いでは無いか……」


地を揺らす足音と共に聞こえて来た低い声、声がする方向に視線を向けるとそこには今までのオーガとは比にならないほどに大きく、そして金属で作られたナタのような物を持った黒い身体のオーガ……オーガグランが立って居た。


「お前がオーガグランか」


「如何にも、我がオーガ族の長でありオーガの頂点でもあるオーガグランだ」


そう言い放つオーガグラン、見た目だけでもかなりを威圧感を放ち、普通の冒険者なら腰を抜かすレベルだった。


「時に人間、懐かしい匂いがするな」


その言葉に動き掛けて居た足を止める、またその言葉だった。


「どんな匂いなんだ?」


「どんな匂いか……美しく華のある香り、お主の風貌からは想像もつかない芳しい香りだ」


その言葉に自身を匂って見るが至って普通、臭くも無く芳しくも無かった。


「まぁ戯言は此処までだ、我もオーガ族を統べる長としてこの状況を黙っては見てられん……行くぞ冒険者!!」


その言葉共に駆け出すオーガグラン、アルセリスは剣をスッと構えると兜の下で笑った。
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