5 / 8
桜の君は一番星
5
しおりを挟む木曜日が待ち遠しくて、カレンダーとにらめっこする時間が増えた気がする。
大講義室の窓側、後ろから二列目の席。
そこが僕の定位置になりつつあった。
ここからだと、遅れてやってくる先輩がよく見える。最早授業を受けることよりも、先輩の存在に意識を傾けることの方が多くなっていた。
同じ空間にいるはずなのに、こんなにも遠い。
相変わらず先輩のSNSを見つめては、更新される写真にため息を零すばかりの毎日だった。
◇◇
大学に入って初めての連休、ゴールデンウィークが終わってしまって憂鬱そうな周りとは対照的に、僕は足取り軽く大学に向かっていた。
なぜなら今日は木曜日。
週に一度の幸せが降ってくる日。
連休明け一発目だ、今日はさすがに休みかもしれない。そんなことを考えながら大人しく席に座っていた。
僕の予想通り、授業開始のチャイムが鳴っても彼は姿を見せなくて、やっぱり休みかと気分が沈んでしまう。
授業が始まって二十分と少しが過ぎた頃、錆び付いた音を響かせながらドアが開いた。
入ってきたのは、桜の君。
白金の髪が煌めいて、一気に視線を奪う。
そういえば、いつも近くに座っているメンバーは休み明けだからか誰一人として来ていなかった。ぐるりと後方を見回した先輩は、無表情にそれを確認すると階段を上り始めた。
あの席に座ってくれたら、周りがいない分、いつもより見やすいのにな。
そんなことを考えながら、教科書をペラペラと捲っていれば、すぐ後ろでギィィという椅子を下げる音。
……え。
まさか、と思うけれど、他に誰も入室していないし、席を移動した気配なんてない。
僕の背後にいるのは、桜の君で間違いない。
それが分かった瞬間、背中がじりじりと燃えるように熱くなって、心臓が猛スピードで動き出した。
何も考えられない。頭の中は大パニック。
いざ近くにいられると、感情が追いつかなくてドキドキが止まらない。
それなのに、何故かこのタイミングで教授がプリントを配り始める。授業が始まったときに配ればよかったのに、と若干恨めしく思ってしまう。
前の席から手渡されたプリントを確認して、う……と手が震えた。
最悪だ、一枚しかない。
それが分かった瞬間、後ろの反応なんて確認することもせず、バッと勢いで空いたスペースに置かせてもらった。
僕のは授業が終わってからでいいや。
教室中の注目を浴びながらプリントをもらいに行くのは気が引ける。
どうせ今日は教授の声なんて入ってこない。
そんな失礼なことを考えていれば、トントンと肩を叩かれる。
びくりと大袈裟なまでに反応して、ギギギと壊れかけのロボットのようにぎこちなく振り返れば、桜の君が無表情に僕を見つめていた。
透き通った瞳に自分の姿が反射しているのが見えて、不思議な気持ちになる。
「プリント」
「え?」
「足りてないんだろ、俺はいいから」
そう言って差し出されたプリントを受け取ることなんてできなくて、僕は首を横にぶんぶんと振った。
2
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
君との果てに
喜市
BL
長年、村木に好意を寄せる神田は帰り道、村木の意味深な言動に違和感を覚えた。そのまま分かれ道を過ぎ、家に帰った神田は帰り際に村木が放った言葉が引っかかり、村木の元へ向かう。だが、そこにいた村木は…
愛は重いがバレないようにしたい神田×闇が深めな頑張り屋村木
⚠死ネタありです。苦手な方は回れ右推奨。
※血の表現が入りますご注意ください
読んでいただければ幸いです!

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
綺麗事だけでは、手に入らない
和泉奏
BL
悪魔に代償を支払えば好きな人を手に入れられるのに想いあわないと意味がないってよくある漫画の主人公は拒否するけど、俺はそんなんじゃ報われない、救われないから何が何でも手に入れるって受けの話

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。


幸せになりたかった話
幡谷ナツキ
BL
このまま幸せでいたかった。
このまま幸せになりたかった。
このまま幸せにしたかった。
けれど、まあ、それと全部置いておいて。
「苦労もいつかは笑い話になるかもね」
そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる