神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜Ⅱ

新羽梅衣

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新しい風

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 特番が放送されて数日後、僕らはOneとして華々しくデビューした。会見に駆けつけた記者やメディアの数は類を見ないほどで、その注目の高さがプレッシャーとなって胃がキリキリと痛んだ。

 仕事中は変わらないけれど、普段の律の様子にはやっぱり違和感があって、だけどそれを聞くこともできずに僕らは目まぐるしい日々を過ごしていた。

 大学と仕事の両立は予想以上に大変で、律に理由を尋ねる余裕がない。そんな言い訳ばかりして、結局僕は律の本音に触れることが怖かったのかもしれない。

 そんなある日のこと、自宅まで送ってもらっている車内で楠木さんが何気なく口にした。


 「フランスでのファッションショーが終われば、律さんも一旦は落ち着きそうですね。夏まで頑張りましょう」
 「フランス……?」
 「楠木さん」


 初めて聞く話に首を傾げていれば、ゆったりと隣に座っていた律ががばっと身を乗り出して声を荒らげた。


 「律?」
 「まさかまだ言ってなかったんですか?」
 「…………」


 隣を見れば、不機嫌そうに黙り込む律。
 この話題に触れてほしくなさそうだけど、律の一ファンとしてとても気になる。


 「ちゃんと話そうと思ってたし……」
 「じゃあちょうどいいですね、今話してしまいましょう」


 拗ねたように口を尖らせる彼に、長年寄り添ってきたマネージャーは容赦ない。淡々と話す楠木さんの背中を人の心がないのかと律は睨みつけていた。


 「じゃあ行き先変更して」
 「はいはい」
 「紡、俺の家で話すから」
 「うん……」


 ただひとり、僕だけが話についていけてない。
 だけど、律と話をするちょうどいい機会だ。僕は真剣な瞳を前にして頷くことしかできなかった。

 そんな僕らを楠木さんは少しニヤニヤと表情を弛めながら見守っていた。それに気づいた律が前の座席を軽く蹴る。


 「はぁ……、紡も楠木さんには気をつけなよ」
 「律さん?」
 「紡の前ではニコニコしてるけど、怒らせたらめちゃくちゃ怖いからね」
 「怒らせたことあるんだね」


 楠木さんの声を無視する律に湧いてきた疑問をぶつければ、気まずそうに視線を逸らされる。


 「……昔の話だよ」
 「紡さん、もっと言ってやってください」
 「やめなよ、元ヤンマネージャー」
 「元ヤン……?」
 「律さん」


 諌められた律は肩を竦めてウインクをする。もうそれ以上はライン越えだと判断したのか、話すのは止めたらしい。

 フランスのファッションショーだとか、楠木さんが元ヤンだとか。頭の中は新しい情報で混乱を極めていて、律の自宅に着いても整理できなかった。


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