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悪戯な皐月
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しおりを挟む確かに彼らの言い分はよく分かる。画面越しで見てもその美しさに毎回驚くのに、張本人があんなに近くにいてその視界に映っているなんて考えたら無理だ。
今からその人に関するクイズに答えるなんて、冷静になれない。
だけどいきなり唯一無二と称した存在から隔離されてほしいと頼まれた律は、なんとも言えず複雑そう。こんな苦汁を飲まされたような律、初めて見た。さすがりつむぐ、常に新しいを提供してくれる。
「はぁ、笑いすぎてお腹が痛いです。さて、東雲さんどうしましょう?」
「えー、嫌ですよ。せっかくの機会だからファンの皆さんと同じ空間にいたいです。普段こんな風に直接顔を見られるのもコンサートぐらいですしね」
そう言って、番組観覧越しのカメラにウインクを飛ばす律。キャーと黄色い歓声が上がって、みんな目をハートにしてる。
オタクは単純、たとえ自分だけに向けられたものじゃなくてもその姿が見れただけで喜ぶのだ。
だけど律を直視したら目が潰れると思っているのか、(そのうち眩しすぎて本当に潰れそうではあるんだけど、それは一旦置いといて)紡くんはファンサをする律の方を一切見ようともせずに口を開く。
「……じゃあ、せめてマジックミラーを用意してください。律の目に映ると思ったらクイズどころじゃないです」
「ちょっと、スタッフー! 吉良くんの目がマジですよー!」
真顔で宣っているところ悪いんだけど、三河さんにつられて私もついつい笑ってしまった。
この子、これから大丈夫なの?
本当に律と一緒に活動するんだよね?
デビューシングルはこの特番が放送される一週間後に発売予定だけど、Oneとしての将来を案じてしまう。
さっきまで律と微笑みを交わしていたのは何だったの? まさかカメラの前だって意識したらそうなっちゃうの? ……もしかして、ふたりきりのときはいつもあんなに甘ったるい空気なの!?
興奮と疑問が次から次へと湧いてくるけれど、答えてくれるひとはいない。でも大丈夫、オタクは勝手に妄想するのが得意だから。
すると、頑なな紡くんをじいっと見つめていた律が「マジックミラーか」と顎に手を当ててしみじみ呟いた。
「……なんかえっちだね、紡」
「急に何言ってんの?」
律の方を絶対に見ないようにしていた紡くんがばっと顔を上げる。そして眉間に皺を寄せながら、少し怒りを滲ませて聞き返した。
本当に分かっていなさそうな紡くんに反して、律の言いたいことが分かってしまった自分が穢らわしく思えてきて心の中でしくしく泣いた。
どうやったらこの子はこんなにピュアに生きてきたんだと心配さえしてしまう。友達と下ネタで盛り上がったりとかしたことないのかな。
だけどそれと同時に湧いてきたのは、胸の奥を擽られるような堪らない可愛さ。普段完璧超人な律ばかり見てきたからか、真っ白で何にも染まってない紡くんが新鮮。嗚呼、One推せる。
律もまさかそこまで紡くんが初心だと思っていなかったのだろう。バツが悪そうに「ごめん」と歯切れ悪く謝った。
……うん、今のは律が悪い。律が染めていくのは構わないけど、こんなかわいい紡くんをほっといたら変な男に狙われてオカズにされるぞ。
りつむぐだからいいのに、このふたりの間に挟まろうとする奴はお呼びじゃない。
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