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悪戯な皐月

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 「ごめん、怒った?」
 「ううん、驚いただけだよ」


 ちらりと上目遣いになって律の様子を伺う紡くんがあまりにもかわいくて、心に飼っている私の雄の部分が「今すぐ抱け」と荒れ狂う。もちろん主語は「私が」ではなく「律が」だけど。

 だって、何だあのきゅるんとした瞳は。星をたくさん瞬かせて、煌めきが止まらない。そんな目をされたら誰だって堪らないだろう。


 「やった、律を驚かせたくて内緒にしてたんだ」
 「紡にやられたなぁ」
 「ふふ、ドッキリ成功だ」


 嬉しそうに頬を弛める紡くん。
 そんな彼を愛しそうに見つめて頭を撫でる律。
 そして、必死に息を殺して見守る蚊帳の外。

 嗚呼、ご馳走様です。あまりの供給にもうおなかいっぱい。ドラマか映画の撮影中ですって言われた方が納得できるぐらい、ふたりの世界に立ち入る隙もない。

 まだ開始十分も経っていないけれど、こっちは息も絶え絶え。放送されたときを思うと恐ろしい。きっとSNSのタイムラインは阿鼻叫喚だろう。

 選ばれし解答者たちも皆、口を抑えて立ち尽くしている。観覧の私たちよりも近くで目撃している分、インパクトは強烈だろう。

 あーあ、この空気どうするんだ。いつまででも見てられるけれど、それじゃあ企画が破綻してしまう。

 そう思っていれば、さすがはベテランの三河さん、そろりと近づいて声をかける。


 「ちょっとこの空気をお邪魔するのはあまりにも蚊帳の外すぎて本当に心苦しいんですが、そろそろ番組を進行してもいいですか?」
 「あ、」


 カメラを忘れていたのだろう、思わずといった声が漏れて真っ赤になる紡くん。ぷるぷる震える姿はチワワのよう。

 そんな初心なところがかわいい。新人さんだし、まだまだ収録なんて慣れてないだろうから仕方ない。

 だけど、律、あなたは違うでしょう。スーパーアイドルと自他ともに認める彼がカメラを忘れるはずがない。

 恥ずかしそうに謝る紡くんをにやにやしながら見守っているところ、ばっちり見てたからね。

 これまでだって散々匂わせてきたのに、まだまだ紡くんが自分を好きだって見せつけたいらしい。スーパーアイドル様は傲慢だ。
 
 番組観覧だからこそ目撃できた姿を脳内に刻み込みながら、用意された解答席につく五人を見つめる。

 紡くんのすぐ傍に律が座っていて、番組も見たいものが分かっているじゃないかと感心する。気づけば両の手のひらを合わせて拝んでいた。

 さてはスタッフの中に我々の仲間が紛れ込んでいるな。そこまで推測していれば、居心地悪そうな紡くんが手を挙げた。


 「すみません、やっぱり別室を用意していただけませんか」
 「おっと、吉良さんどうされました?」
 「律に見られてると思ったら、生きた心地がしなくて……」
 「なるほど、つまり集中できないから東雲さんを隔離しろと。そういうことですね?」
 「はい」


 素直に頷く紡くんに何の悪意もなくまっすぐ見つめられた三河さんは大爆笑。泡を吹いて倒れそうだった他の解答者も紡くんに同調するように頷いている。


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