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悪戯な皐月
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しおりを挟む【side オタクA子】
あまりにも幸せなことが起きすぎていて、近い将来死んでしまうんじゃないかって不安さえ湧き上がってくる今日この頃。
私は緊張で襲ってくる腹痛から意識を逸らしながら、ひな壇に座っていた。
前も後ろも、右も左も、どこを向いてもほとんど女の子ばかり。みんなソワソワしていて、緊張しているのがよく分かる。現場特有の空気感が堪らない。
律を推すようになって早五年。これまでコンサートに落選しまくっていたのが嘘のように、この一年の豪運がすごすぎる。
最推しの東雲律のサイン会に当たったことが最初の幸運だった。それから雑誌の懸賞に当選したり、撮影現場に遭遇したり……。極めつけは律の出演する特番の番組観覧に当たってしまったのだ。
その特番は東雲律に関する知識をクイズ形式で競うというもの。解答者を募集していたから、多くの律のファンが番組ホームページに掲載されたテスト問題に挙って解答した。
残念ながらそれには選ばれなかったものの、解答者募集を締め切った数週間後に番組観覧に来ませんかというメールが届いた。恐らく全問正解したひとから無作為に選ばれたのだろう。その数だって決して少なくはないはず。
だからこそ我が目を疑った。ここまで来たら私の行動が全て撮影されているんじゃないか、ドッキリなんじゃないかとさえ思ってしまう。確かそんな映画があったはず。
だけどオタク心は素直だ。当たったなら有難くその機会を頂戴するまで。私は神に感謝の祈りを捧げながらその時を待っていた。
一生分の律を網膜に刻み込んでやる。その一心だった。
前説の芸人さんがスタジオ内の空気を温めた後、咳払いをしながらベテラン芸人・三河さんが登場する。律と仲のいいひとだ、トークも期待できる。
「収録始まります!」
そんな声がしたと思ったら、BGMと共にセットの横に設置されたモニターに映像が流れ始める。
デビューしてから今に至るまでの律だ。コンサートを始め、ドラマやバラエティ、モデルの撮影、レコーディング。レッスンやスタッフさんと打ち合わせをしている姿まで収められたそれは初めて見るものもあり、どれもファンにとっては貴重映像だ。
この時点で番組の出来としては百点をあげたい。映像が終わり、盛大な拍手でスタジオが包まれる。頼む、スタッフさん。もっと自分が素晴らしい仕事をしたと誇ってくれ。嗚呼、オタクは賛辞することしかできないのが歯がゆい。
危うく初っ端から涙を零しそうになりながら、私は平常心になろうと努めていた。
「さて、それでは本日の挑戦者をご紹介しましょう」
三河さんに呼ばれて、解答者が現れる。
律に憧れる男子大学生、お子さんと一緒に応援しているという主婦、緊張して真っ赤な女子高生、オーラのあるかっこいいお姉さん。
この四人は言わばファンの代表。番組と律は誰も答えられないだろうというレベルの問題も用意していると言っていた。だから彼らには全問正解してもらって、ファンの愛がどれほどのものなのかを思い知らせてほしい。
応援ありがとうございます!
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