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煌めきを揺蕩う
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しおりを挟む「二つ目、何かあったらすぐに相談してください」
「はい」
「どんな些細なことでも構わないので言ってくださいね。事務所としても、僕個人としても、紡さんを守っていきたいので」
「ありがとうございます」
「律さんに秘密にしたいときは絶対に隠しますし、何なら協力しますからね」
最強の味方だ。
律に対して秘密を抱えるのは嫌だけど、サプライズとかそういうのは別だ。律をよく知るひとが協力してくれるのは、僕の心を軽くした。
「そして最後、律さんとの関係はバレないようにお願いしますね」
「……駄目とは言わないんですか」
これまで何も言われなかったし、むしろ律に協力している節があったけど、楠木さんは普段何を考えているのか全く分からないから僕らの関係をどう思っているのか不安だった。
「紡さんと出会って、律さんがよく笑うようになったんです。昔の律さんに戻ったみたいでした」
「…………」
「それは紛れもなく紡さんのお陰なので、僕がお二人の関係に口を出す必要は無いと思っています。ただ、事務所や世間の目は別です」
少し厳しい口調になるのは、僕らを見守ると決めてくれたからだとわかっている。
「アイドルは人気商売、スキャンダルが出れば仕事も減るしファンだって離れていきます。それを忘れないようにしてください」
「分かりました」
「まぁ、でも正直そこまで心配はしてません。紡さんを溺愛してるのは公然の秘密ですけど、律さんはあんなでも一応この国のトップアイドルなので」
そこにあるのは、律に対する確かな信頼。
僕もそれに応えられるようにしないと。大事に思ってくれている楠木さんや事務所の期待を裏切らないよう、身が引き締まる思いだった。
テレビ局に到着して、内心ビクつきながら指定されていた控え室を目指す。その最中、よく見知った芸能人とすれ違って、凄い世界に来てしまったとまだ慣れない現実に心臓が跳ねた。
平然といろんな人に挨拶しながら突き進む楠木さんの背中が頼もしくて、大きく見えた。
吉良紡と書かれた控え室に入ってドアを閉めれば、ふうと息が漏れた。楠木さんがスマホを弄っているのを横目に畳の上に座って待つこと、五分。
――コンコンコン。
三回ノックされた後、ドアが開く。
「失礼します」
そう言って顔を出したのは、嬉しそうに表情を弛ませた田島さん。
「まずはおめでとう、だね」
「ありがとうございます」
「僕の予想通り、デビューすることになって嬉しいよ。まぁ、東雲くんと一緒だとは思ってもいなかったし、あんな結婚会見みたいな会見をするとは予想外だったけどね」
「……あれは律が悪いんです」
会って早々、田島さんにまで会見を弄られるなんて。
赤面していた僕は、これから先ずっと事ある毎に会見の映像を擦られることになるなんてこの時は露ほども思っていなかった。
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