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煌めきを揺蕩う

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 ここ最近ずっと、律の様子が変だ。
 
 視線を感じて振り向けば、じいっと僕を見つめてる。何気ないところを見られた恥ずかしさを隠して「なに?」と聞けば、「なんでもないよ」と誤魔化される。

 なんでもないはずがないだろうとは思うけれど、それ以上踏み込むなと線を引かれているようで臆病者は何も無い敷居を跨ぐことすらできない。

 交差点の目立つところに飾られた相変わらず完璧な男のポスターを見れば、不意にため息が漏れた。


 「紡さん、ため息多いですね。疲れてます?」
 「大丈夫ですよ、まだまだやれます」


 テレビ局へ移動している車内で、楠木さんが心配そうに問いかけてくる。律の我儘で僕のマネージャーも担当することになった楠木さんは、とにかく忙しそう。

 僕なんかよりやらなければいけないことが多い楠木さんに無用な心配をかけたくない。作り笑いを浮かべれば、ルームミラー越しに目が合った。


 「溜め込んで爆発される方が困るってこと、覚えておいてくださいね」
 「……承知しました」


 目が本気だった。
 見えない手綱を引っ張られたような感覚にぶるりと背筋が震える。

 この人に逆らっちゃいけない。
 モヤモヤな曇り空だった心の中は、恐怖で凍えている。


 「紡さん、僕に遠慮しなくていいんですよ」
 「はい……」
 「あの我儘王子みたいにとは言わないですけど、そこまで堅苦しく考えなくて大丈夫ですから」
 「ありがとうございます」


 前言撤回。
 まだまだこの世界に慣れそうにない僕に寄り添ってくれる、心強い味方だ。じーんと胸が熱くなる。


 「律ってそんなに我儘言うんですか」
 「……はぁ、何度あのクソガキをぶん殴ってやろうと思ったことか。顔は商売道具なので諦めましたけど」
 「なんか、想像できないです」
 「紡さんの前ではかっこつけてるんです。何やっても許されると思ってるんですよ、それこそ神さまみたいに」


 大袈裟なほどにため息を吐き出す楠木さんは珍しい。そんなにストレスが溜まっているのかと心配してしまうほど。

 それでも知らない律の話を聞くのはわくわくする。楠木さんにしか見せない顔があるのだろうなと思うと、ふたりの信頼関係にこっそりにやついてしまった。

 インタビューで読んだことがある。デビューしてからずっと、マネージャーに助けられてきたから担当が変わったら困るって。

律が甘えられる存在が楠木さんなのだろう。楠木さんだって話す内容に棘はあるものの、その目元は優しく緩んでる。


 「これからは紡さんもいるんだから、ちょっとは大人になってくれるといいんですけど」
 「僕は我儘言ってる律も見てみたいです」
 「やめてください、あの悪魔が調子に乗ります」


 次から次へと出てくる愚痴を僕は微笑みながら聞いていた。


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