上 下
3 / 32
煌めきを揺蕩う

しおりを挟む


 ここ最近ずっと、律の様子が変だ。
 
 視線を感じて振り向けば、じいっと僕を見つめてる。何気ないところを見られた恥ずかしさを隠して「なに?」と聞けば、「なんでもないよ」と誤魔化される。

 なんでもないはずがないだろうとは思うけれど、それ以上踏み込むなと線を引かれているようで臆病者は何も無い敷居を跨ぐことすらできない。

 交差点の目立つところに飾られた相変わらず完璧な男のポスターを見れば、不意にため息が漏れた。


 「紡さん、ため息多いですね。疲れてます?」
 「大丈夫ですよ、まだまだやれます」


 テレビ局へ移動している車内で、楠木さんが心配そうに問いかけてくる。律の我儘で僕のマネージャーも担当することになった楠木さんは、とにかく忙しそう。

 僕なんかよりやらなければいけないことが多い楠木さんに無用な心配をかけたくない。作り笑いを浮かべれば、ルームミラー越しに目が合った。


 「溜め込んで爆発される方が困るってこと、覚えておいてくださいね」
 「……承知しました」


 目が本気だった。
 見えない手綱を引っ張られたような感覚にぶるりと背筋が震える。

 この人に逆らっちゃいけない。
 モヤモヤな曇り空だった心の中は、恐怖で凍えている。


 「紡さん、僕に遠慮しなくていいんですよ」
 「はい……」
 「あの我儘王子みたいにとは言わないですけど、そこまで堅苦しく考えなくて大丈夫ですから」
 「ありがとうございます」


 前言撤回。
 まだまだこの世界に慣れそうにない僕に寄り添ってくれる、心強い味方だ。じーんと胸が熱くなる。


 「律ってそんなに我儘言うんですか」
 「……はぁ、何度あのクソガキをぶん殴ってやろうと思ったことか。顔は商売道具なので諦めましたけど」
 「なんか、想像できないです」
 「紡さんの前ではかっこつけてるんです。何やっても許されると思ってるんですよ、それこそ神さまみたいに」


 大袈裟なほどにため息を吐き出す楠木さんは珍しい。そんなにストレスが溜まっているのかと心配してしまうほど。

 それでも知らない律の話を聞くのはわくわくする。楠木さんにしか見せない顔があるのだろうなと思うと、ふたりの信頼関係にこっそりにやついてしまった。

 インタビューで読んだことがある。デビューしてからずっと、マネージャーに助けられてきたから担当が変わったら困るって。

律が甘えられる存在が楠木さんなのだろう。楠木さんだって話す内容に棘はあるものの、その目元は優しく緩んでる。


 「これからは紡さんもいるんだから、ちょっとは大人になってくれるといいんですけど」
 「僕は我儘言ってる律も見てみたいです」
 「やめてください、あの悪魔が調子に乗ります」


 次から次へと出てくる愚痴を僕は微笑みながら聞いていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

幼馴染から離れたい。

June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

バイバイ、セフレ。

月岡夜宵
BL
『さよなら、君との関係性。今日でお別れセックスフレンド』 尚紀は、好きな人である紫に散々な嘘までついて抱かれ、お金を払ってでもセフレ関係を繋ぎ止めていた。だが彼に本命がいると知ってしまい、円満に別れようとする。ところが、決意を新たにした矢先、とんでもない事態に発展してしまい――なんと自分から突き放すことに!? 素直になれない尚紀を置きざりに事態はどんどん劇化し、最高潮に達する時、やがて一つの結実となる。 前知らせ) ・舞台は現代日本っぽい架空の国。 ・人気者攻め(非童貞)×日陰者受け(処女)。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

【完結】ノンケの幼馴染(♂)に失恋したら、異世界転生して男性オメガになってしまった。

十海 碧
BL
榊原湊はゲイでノンケの幼馴染である山本航大に失恋してしまう。失意の帰宅途中、トラックにひかれてしまい、異世界へ。そこはトロツカ村という小人の国で、湊はオメガ男性になっていた。ということは、ゲイの自分でもアルファ男性と恋愛、結婚可能っていうこと? 異世界転生、ばんざい。隣にアスティアという大国があり国王夫婦の結婚式の衣装係になった。アスティアの王は航大似のイケメン。おまけにアルファで湊の運命の番らしい。政略結婚の皇后はレティシアという聖魔術の使い手で美人で湊に勝ち目なし。隣国のドロティアの新国王が闇魔術の力を得て、アスティアを攻撃してきた。 色々ありますが、ハピエンです。

処理中です...