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Show must go on
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◇◇
初めてのライブ会場っていうだけでもそわそわしてしまうのに、周りは全て翠のファンだっていうのだから余計に落ち着かない。翠の指示通り、玲には深く帽子を被らせて、誰にも出会さないように裏口から会場内に入った。
茨木さんに会うのは怖かったけれど、二年の間に翠のマネージャーは変わっていたらしく、淡々とした口調で話す新しいマネージャーが部屋まで案内してくれた。正直ほっとしたのは、翠には秘密だ。
「てれび?」
「そう、これで翠のライブが観れるんだって」
開演まであと少し。僕らだけに用意された空間だから、周りの目も気にならない。部屋を探索している玲は、初めての場所に興味津々だ。
ライブの日ってリハーサルとかあるはずなのに、ちゃんと時間に間に合っただろうか。午前の間にはなんとか到着していたはずだけど、大丈夫だっただろうか。自分にも責任があるから、無事に開演できるのか、気になってしまう。
『キャー!』
備え付けの大きなテレビから黄色い歓声が聞こえてくる。画面は暗転していて、いよいよライブが始まるのだと分かった。
「玲、おいで」
素直に僕の元までやってきた玲を抱え上げて、膝に乗せる。ぎゅっと抱き締めれば、玲が「まま?」と見上げてきた。何も言えずにいると、玲は僕の手を握って前を向いた。我が子ながら、気遣いのできるいい子だ。
少し癒されたものの、こんなにたくさんの人に応援されているって目の当たりにしたら、胸がいっぱいになって、ちょっと怖くなる。けれど、Show must go onだから。ライブはそんな僕を待ってはくれない。
オープニング映像が終わって、客席のボルテージも最高潮に。いよいよ、幕が上がる。トップアイドル様の登場だ。
「あ、」
キラキラのスパンコールにも負けないほどのオーラを纏って現れた翠に一瞬で目を奪われる。華やかなピンクゴールドの衣装が甘い笑顔を引き立たせる。伸ばしていたという髪をいつの間に切ったのか、久しぶりの短髪姿にファンの興奮する声は止まらない。
――これがトップアイドルなんだ。
一曲歌っただけで、そう納得させる説得力があった。
画面越しのウインクに顔を赤らめてしまうのはしかたない。分かっているのかいないのか、玲まで頬に手を当てて「きゃー」と言っているのはかわいかったけれど。
デニムをメインにしたカジュアルな衣装、白を基調としたロングコートの王子様衣装、翠のかっこよさを前面に押し出した赤の王道アイドル衣装。衣装や髪型ひとつでこんなにも魅せる顔が違うのかと、圧倒されてしまう。翠から目が離せない。
あっという間の二時間半。途中で飽きてぐずったり、寝ちゃったりするかと思っていた玲は、真剣に画面の中の翠を見つめていた。
たったひとつのスポットライトが照らすメインステージの真ん中で、怒涛のダンスナンバーを終えた翠が荒い息を整えながら客席に頭を下げる。
『本日はお越しいただきありがとうございました』
そんな翠に暖かな拍手が送られる。僕と玲もぱちぱちと手を叩き、それに倣った。
初めてのライブ会場っていうだけでもそわそわしてしまうのに、周りは全て翠のファンだっていうのだから余計に落ち着かない。翠の指示通り、玲には深く帽子を被らせて、誰にも出会さないように裏口から会場内に入った。
茨木さんに会うのは怖かったけれど、二年の間に翠のマネージャーは変わっていたらしく、淡々とした口調で話す新しいマネージャーが部屋まで案内してくれた。正直ほっとしたのは、翠には秘密だ。
「てれび?」
「そう、これで翠のライブが観れるんだって」
開演まであと少し。僕らだけに用意された空間だから、周りの目も気にならない。部屋を探索している玲は、初めての場所に興味津々だ。
ライブの日ってリハーサルとかあるはずなのに、ちゃんと時間に間に合っただろうか。午前の間にはなんとか到着していたはずだけど、大丈夫だっただろうか。自分にも責任があるから、無事に開演できるのか、気になってしまう。
『キャー!』
備え付けの大きなテレビから黄色い歓声が聞こえてくる。画面は暗転していて、いよいよライブが始まるのだと分かった。
「玲、おいで」
素直に僕の元までやってきた玲を抱え上げて、膝に乗せる。ぎゅっと抱き締めれば、玲が「まま?」と見上げてきた。何も言えずにいると、玲は僕の手を握って前を向いた。我が子ながら、気遣いのできるいい子だ。
少し癒されたものの、こんなにたくさんの人に応援されているって目の当たりにしたら、胸がいっぱいになって、ちょっと怖くなる。けれど、Show must go onだから。ライブはそんな僕を待ってはくれない。
オープニング映像が終わって、客席のボルテージも最高潮に。いよいよ、幕が上がる。トップアイドル様の登場だ。
「あ、」
キラキラのスパンコールにも負けないほどのオーラを纏って現れた翠に一瞬で目を奪われる。華やかなピンクゴールドの衣装が甘い笑顔を引き立たせる。伸ばしていたという髪をいつの間に切ったのか、久しぶりの短髪姿にファンの興奮する声は止まらない。
――これがトップアイドルなんだ。
一曲歌っただけで、そう納得させる説得力があった。
画面越しのウインクに顔を赤らめてしまうのはしかたない。分かっているのかいないのか、玲まで頬に手を当てて「きゃー」と言っているのはかわいかったけれど。
デニムをメインにしたカジュアルな衣装、白を基調としたロングコートの王子様衣装、翠のかっこよさを前面に押し出した赤の王道アイドル衣装。衣装や髪型ひとつでこんなにも魅せる顔が違うのかと、圧倒されてしまう。翠から目が離せない。
あっという間の二時間半。途中で飽きてぐずったり、寝ちゃったりするかと思っていた玲は、真剣に画面の中の翠を見つめていた。
たったひとつのスポットライトが照らすメインステージの真ん中で、怒涛のダンスナンバーを終えた翠が荒い息を整えながら客席に頭を下げる。
『本日はお越しいただきありがとうございました』
そんな翠に暖かな拍手が送られる。僕と玲もぱちぱちと手を叩き、それに倣った。
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