トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

文字の大きさ
73 / 81
Show must go on

しおりを挟む
 ◇◇

 初めてのライブ会場っていうだけでもそわそわしてしまうのに、周りは全て翠のファンだっていうのだから余計に落ち着かない。翠の指示通り、玲には深く帽子を被らせて、誰にも出会さないように裏口から会場内に入った。

 茨木さんに会うのは怖かったけれど、二年の間に翠のマネージャーは変わっていたらしく、淡々とした口調で話す新しいマネージャーが部屋まで案内してくれた。正直ほっとしたのは、翠には秘密だ。


 「てれび?」
 「そう、これで翠のライブが観れるんだって」


 開演まであと少し。僕らだけに用意された空間だから、周りの目も気にならない。部屋を探索している玲は、初めての場所に興味津々だ。

 ライブの日ってリハーサルとかあるはずなのに、ちゃんと時間に間に合っただろうか。午前の間にはなんとか到着していたはずだけど、大丈夫だっただろうか。自分にも責任があるから、無事に開演できるのか、気になってしまう。


 『キャー!』


 備え付けの大きなテレビから黄色い歓声が聞こえてくる。画面は暗転していて、いよいよライブが始まるのだと分かった。


 「玲、おいで」


 素直に僕の元までやってきた玲を抱え上げて、膝に乗せる。ぎゅっと抱き締めれば、玲が「まま?」と見上げてきた。何も言えずにいると、玲は僕の手を握って前を向いた。我が子ながら、気遣いのできるいい子だ。

 少し癒されたものの、こんなにたくさんの人に応援されているって目の当たりにしたら、胸がいっぱいになって、ちょっと怖くなる。けれど、Show must go onだから。ライブはそんな僕を待ってはくれない。

 オープニング映像が終わって、客席のボルテージも最高潮に。いよいよ、幕が上がる。トップアイドル様の登場だ。


 「あ、」


 キラキラのスパンコールにも負けないほどのオーラを纏って現れた翠に一瞬で目を奪われる。華やかなピンクゴールドの衣装が甘い笑顔を引き立たせる。伸ばしていたという髪をいつの間に切ったのか、久しぶりの短髪姿にファンの興奮する声は止まらない。

 ――これがトップアイドルなんだ。
 一曲歌っただけで、そう納得させる説得力があった。

 画面越しのウインクに顔を赤らめてしまうのはしかたない。分かっているのかいないのか、玲まで頬に手を当てて「きゃー」と言っているのはかわいかったけれど。

 デニムをメインにしたカジュアルな衣装、白を基調としたロングコートの王子様衣装、翠のかっこよさを前面に押し出した赤の王道アイドル衣装。衣装や髪型ひとつでこんなにも魅せる顔が違うのかと、圧倒されてしまう。翠から目が離せない。

 あっという間の二時間半。途中で飽きてぐずったり、寝ちゃったりするかと思っていた玲は、真剣に画面の中の翠を見つめていた。

 たったひとつのスポットライトが照らすメインステージの真ん中で、怒涛のダンスナンバーを終えた翠が荒い息を整えながら客席に頭を下げる。


 『本日はお越しいただきありがとうございました』


 そんな翠に暖かな拍手が送られる。僕と玲もぱちぱちと手を叩き、それに倣った。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

処理中です...