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雲の向こうはいつも青空
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しおりを挟む「……陽?」
静かな夜だ。翠の腕の中で目が覚めて身じろぐと、起きていたのか、翠が小さな声で名前を呼んだ。ゆっくりと目を開ければ、こちらをまっすぐに見つめる世界で一番美しい瞳と目が合ってほんの少しだけ照れくさい。
「ごめんね、無茶させた。身体は大丈夫?」
「うん、平気」
あんなに辛かったヒートも落ち着いている。翠が隣にいるだけで心から満たされているのが分かる。確かに腰は少し痛むけれど、これは幸せな痛みだ。僕を気遣って摩ってくれる翠の手が嬉しいから、何にも気にならない。
「陽」
「ん?」
「……お願い、聞いてくれる?」
「うん」
何だろうと首を傾げながらも頷けば、翠の指が僕の項を撫でた。
「改めて、項を噛ませてほしい」
「っ、うん」
既に番になっているなら、そこに証は刻まれているはず。だけど、今日がふたりの新しいスタートだから。翠の提案が嬉しくないはずがなかった。
くるっと後ろを向いて翠の眼前に項を晒すと、何度も優しいキスが落ちてくる。焦らされているような気分になって、熱い息を漏らした。
「……翠、」
名前を呼べば、僕の期待が伝わったのか、歯が当てられる。待ちわびた感覚にぶるりと背筋が震えた。
「んッ」
じんわりと広がる痛み。僕の中のオメガ性が歓喜しているのが分かる。ぶわりと広がるフェロモンに息を荒くした翠の硬いものが当たっている。ああ、これが欲しい。
「翠、挿れて……」
「でも、」
「翠が欲しいの」
「っ、」
羞恥心なんて消え失せて、口から出るのはただの欲望。僕の身体を気遣っている翠には悪いけれど、今はただ翠だけを求めている。
僕の我儘に折れた翠は自身を落ち着かせるように「ふーっ……」と大きく息を吐き出した。とろとろに溶けた後孔を指先で確かめられた後、翠のモノがゆっくりと挿入ってくる。
言わば後側位の体位。横になったまま挿入されるのに慣れていなくて、いつもとは違うところに当たって感じてしまう。
足を絡め合って、密着した身体の熱で溶けてひとつになってしまいそう。何度も項に唇を落とされる度にびくんと身体が跳ねた。激しいピストンじゃなくて、ゆっくりとした動きに少しずつ高められていく。
甘い熱に囚われたまま、戻ってこれない。自分が自分じゃなくなるかんじ。二年分を補うみたいに翠を求めて、求められて……。
「すきっ……翠、もっと……」
「陽、愛してる……」
好きだって気持ちを嘘偽りなく素直に伝えられるのが嬉しくて、腰を掴んでいる翠の手をぎゅっと握った。
窓の月の様子を気にする余裕もないまま、盛りのついた獣みたいに求め合った僕たちは気づけば夜を越えていた。
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