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stargazer - S
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◇◇
事務所一の売れっ子からの珍しいワガママに社長はノリノリで乗っかって、あっという間に各地の会場が手配されていった。ドーム、アリーナ規模は何度もやってきたけれど、地方でホール規模のコンサートをやるのは初めてだ。新鮮な気持ちになりながら、慣れ親しんだスタッフたちと会議を重ねていた。
セトリも衣装も、これまで全部自分で決めてきた。陽を迎えに行くツアーだ。今回こそ、これだけは譲れない。
今回のツアータイトルは「Destiny Love」。シングル、アルバム問わず、恋愛に関する曲ばかりを集めたセットリストは、長年俺のコンサートに携わってくれているスタッフからも好評だった。
リハーサルも順調。唯一足りないのは、俺の隣に陽がいないことだけ。でも、その不満もこのツアーが終わる頃には、解消されているはずだ。
そうして始まった、全国ツアー。
最初の会場では、フェロモンの欠片も感じられなくてハズレだとすぐに悟る。一番初めの地で見つかるとは思っていなかったけれど、思いの外がっかりしている自分に呆れて笑ってしまった。
いくつかの都市を回って、早二週間。
俺は新幹線で西の街に向かっていた。目まぐるしく変わっていく窓の外の風景をぼんやりと眺めながら、陽の笑顔を思い出す。途端に胸の奥がぎゅうと締め付けられた。
陽が恋しい。
俺と君は愛し合う運命にあるのに、どうして今、君が隣にいないのだろう。
およそ三時間。切なさに胸を焦がしながらも降り立った駅のホームで息を吸って、全身がびりりと震えた。歓喜のあまり、体中の血が沸き立っている。
――このフェロモン……!
間違いない。間違えるはずがない。控えめな甘さの混じった、柑橘系の香り。俺の心をこんなに動かすのは、唯一、陽しかいない。
嗚呼、遂にたどり着いた。嬉しくって、まだ再会できたわけじゃないのに、涙が滲む。二年もの間、この時を待ち望んでいた。すーっと息を深く吸い込めば、陽のフェロモンで肺がいっぱいになる。それが全身を巡って、陽で満たされていくのが分かった。
「suiさん……?」
ホームに降り立って硬直したまま、突然涙目になる俺を見た新しいマネージャーが困惑した声で話しかけてくる。普段なら雑音だと無視するか、腹の居所が悪ければ当たり散らしているところだけど、今は気分が最高潮。俺の番に免じて、許可なく話しかけてきたことを許してやる。
「行くよ」
「は、はい!」
優しい風が頬を撫でる。やっと探し当てたんだ。もう逃しはしない。今すぐにでも風に運ばれてくるフェロモンを辿って会いに行きたいけれど、今から数時間後に始まるコンサートを放り出すことはできないから。早く、夜が来ればいいのに。
スタスタと歩き始めた俺の後をぱたぱたとマネージャーがついてくる。いつもよりも早足になってしまうのは、しかたのないことだった。
事務所一の売れっ子からの珍しいワガママに社長はノリノリで乗っかって、あっという間に各地の会場が手配されていった。ドーム、アリーナ規模は何度もやってきたけれど、地方でホール規模のコンサートをやるのは初めてだ。新鮮な気持ちになりながら、慣れ親しんだスタッフたちと会議を重ねていた。
セトリも衣装も、これまで全部自分で決めてきた。陽を迎えに行くツアーだ。今回こそ、これだけは譲れない。
今回のツアータイトルは「Destiny Love」。シングル、アルバム問わず、恋愛に関する曲ばかりを集めたセットリストは、長年俺のコンサートに携わってくれているスタッフからも好評だった。
リハーサルも順調。唯一足りないのは、俺の隣に陽がいないことだけ。でも、その不満もこのツアーが終わる頃には、解消されているはずだ。
そうして始まった、全国ツアー。
最初の会場では、フェロモンの欠片も感じられなくてハズレだとすぐに悟る。一番初めの地で見つかるとは思っていなかったけれど、思いの外がっかりしている自分に呆れて笑ってしまった。
いくつかの都市を回って、早二週間。
俺は新幹線で西の街に向かっていた。目まぐるしく変わっていく窓の外の風景をぼんやりと眺めながら、陽の笑顔を思い出す。途端に胸の奥がぎゅうと締め付けられた。
陽が恋しい。
俺と君は愛し合う運命にあるのに、どうして今、君が隣にいないのだろう。
およそ三時間。切なさに胸を焦がしながらも降り立った駅のホームで息を吸って、全身がびりりと震えた。歓喜のあまり、体中の血が沸き立っている。
――このフェロモン……!
間違いない。間違えるはずがない。控えめな甘さの混じった、柑橘系の香り。俺の心をこんなに動かすのは、唯一、陽しかいない。
嗚呼、遂にたどり着いた。嬉しくって、まだ再会できたわけじゃないのに、涙が滲む。二年もの間、この時を待ち望んでいた。すーっと息を深く吸い込めば、陽のフェロモンで肺がいっぱいになる。それが全身を巡って、陽で満たされていくのが分かった。
「suiさん……?」
ホームに降り立って硬直したまま、突然涙目になる俺を見た新しいマネージャーが困惑した声で話しかけてくる。普段なら雑音だと無視するか、腹の居所が悪ければ当たり散らしているところだけど、今は気分が最高潮。俺の番に免じて、許可なく話しかけてきたことを許してやる。
「行くよ」
「は、はい!」
優しい風が頬を撫でる。やっと探し当てたんだ。もう逃しはしない。今すぐにでも風に運ばれてくるフェロモンを辿って会いに行きたいけれど、今から数時間後に始まるコンサートを放り出すことはできないから。早く、夜が来ればいいのに。
スタスタと歩き始めた俺の後をぱたぱたとマネージャーがついてくる。いつもよりも早足になってしまうのは、しかたのないことだった。
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